M&Aコラム
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会社を買うことができるのは、多額の資金を保有している企業だけだと思っている人も少なくないかもしれません。しかし、実際は法人に限らずサラリーマンのような個人も会社を買うことができます。本記事では会社を買うメリットや注意点、押さえておきたいポイントをご紹介します。

個人M&A増加の背景

中小企業白書によると、経営者の高齢化や後継者不足、新型コロナの拡大などの影響により、中小企業のM&A件数は近年増加傾向にあります。
そうした中、個人でも手軽に利用が可能な「M&Aマッチングサイト」の普及が個人M&A増加の大きな後押しとなっています。マッチングサイトでは、画面上で簡単に条件の入力や検索ができるため、そういった手軽さが人気の要因の一つと考えられます。

以前はM&Aマッチングサイトも大企業を利用者・顧客と想定していましたが、今ではスモールM&Aと呼ばれる数百万円程度の小規模なM&A案件も取り扱うようになりました。このように「M&Aマッチングサイトの変化」も、個人M&A増加の大きな要因といえます。また、働き方改革の推進によって副業を認める企業が増えていることも、個人が買い手としてM&Aに参入を始めている要因の一つに挙げられます。
出典:中小企業庁「中小企業白書」(外部サイト)

会社を買うメリット5つ

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個人・法人が会社を買うメリットは主に以下の5つが挙げられます。

  1. ゼロから会社を立ち上げる必要がない
  2. ニーズのあるサービス・商品で事業ができる
  3. 役員報酬を得られる可能性がある
  4. 自社の事業の拡大にもつながる
  5. 成長したら高く売却できる可能性もある

それぞれのメリットについて、詳しくご紹介します。

1. ゼロから会社を立ち上げる必要がない

ゼロから会社や事業を立ち上げるためには、膨大な資金と多大な労力、期間というコストが必要です。しかし、既にビジネスを行っている会社をM&Aによって買収し、売り手側企業から設備や従業員を受け継ぐことでその負担が軽減されます。
人材育成や新たな設備投資に資金を回すことができ、買収後の事業成長に大いに役立てられます。

2. ニーズのあるサービス・商品で事業ができる

ゼロからスタートさせるビジネスの場合には、ユーザーのニーズを確認・把握したり、顧客マーケティングを始めたりする必要がありますが、既にビジネスをスタートさせている会社には、提供しているサービス・商品に顧客がファンがついているケースが大半です。
そのため既存顧客のニーズを確認・把握をあらかじめ行ったうえで事業を展開することができます。このように、M&Aにはマーケティング活動の効率化に資するメリットもあるのです。

3. 役員報酬を得られる可能性がある

M&Aで会社を買った場合には、役員に就任して役員報酬を獲得できる可能性があります。例えば、株式譲渡によって会社の経営権を手に入れた場合には、会社の代表者や役員に就任するケースが多いので、役員報酬が発生する可能性は十分に考えられます。大企業では、「資本と経営の分離」(会社の経営は資金力がある株主と経営の専門家である経営者は別個の存在であることが望ましい)という考え方が主流です。しかし中小企業においては、反対に資金力のある株主が経営も担うケースが多いので、個人M&Aで会社を買った場合には役員として経営にタッチしつつ報酬を得ることもよくあるケースだと考えられます。また、現場の仕事に直接関与せずに、役員や株主としての立場から経営にアドバイスできます。こうしたケースでも役員報酬を得ることが可能です。加えて、株主として配当金を受け取ることができれば配当収益を獲得することもできます。

4. 自社の事業の拡大にもつながる

複数事業を営んでいる場合は、M&Aで買収した会社のビジネスとのシナジー効果によって、既存のビジネスの拡大やビジネスの効率化が期待できます。例えば、開発力が強く販売力が弱い会社と開発力が弱く販売力が強い会社が一つになれば、強い開発力と営業力を持つ新しい会社に生まれ変わる可能性があるケースが考えられます。シナジー効果を発揮するためには、事業リスクを認識しておく、明確な事業計画を立案しておく、PMI(Post Merger Integration、M&A実行後の統合プロセス)をしっかりと実施することを念頭に準備を進めることが大切です。

5. 成長したら高く売却できる可能性もある

M&Aで会社を買った後に、その会社が大きく成長して企業価値を高めれば、買った時よりも高い価格で売却できる可能性が出てきます。会社を買えば、自分自身が事業の展開に関与できますので、直接的に会社の成長につながります。ただし、経営判断に失敗すると損失を発生させるリスクもあるので、この場合を想定して明確な撤退基準を設定しておくことが必要です。

会社を買う際の注意点

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個人・法人が会社を買う場合には主に3つの注意点があります。

  1. 簿外債務や思わぬを引き継ぐ可能性がある
  2. 人材の流出リスクがある
  3. 顧客や取引先からの理解が必要

それぞれ詳しく解説します。

1. 簿外債務を引き継ぐ可能性がある

会社を買う際に株式譲渡の手法を利用する場合には、会社の資産だけでなく債務も引き継ぎますが、場合によっては簿外債務を引き継いでしまうおそれがあります。簿外債務とは、帳簿に載っていない(貸借対照表に計上されていない)隠れ債務です。買収後に簿外債務があることが判明した場合には、想定外の費用負担を求められる可能性があります。
また簿外債務のほか、顕在化していない問題を抱えている場合もあります。具体的には、税務当局と税務上のトラブル(課税処分に対する不服審査の申立を検討しているなど)や、公害問題や訴訟リスクなどが潜在的な課題として挙げられます。

そうしたリスクを回避するにはデューデリジェンスをしっかりと実施することが重要です。しかし、それだけでは表面化していないリスクに対応できないケースも考えられます。こうしたリスクに対応するためには、M&Aの最終契約書(株式譲渡契約書など)に表明保証を載せてもらう方法が考えられます。表明保証とは、情報が正しく虚偽ではないことを売り手に約束してもらうもので、もし表明保証に違反した場合には損害賠償や契約解除を請求できるようになります。

2. 人材の流出リスクがある

M&Aを実行した場合には、売り手企業から優秀な人材が辞めてしまう可能性があります。売り手企業に長年お世話になっていて経営者に恩義を感じているような従業員は、経営者が新たな人になってしまうことや会社の雰囲気が変わってしまう可能性があることから、新たな働き場所を求めて退職してしまうことが考えられます。

買い手側として、スキルや経験値が高い従業員も含めて高く評価していたのにもかかわらず、高評価をつけていた人材が抜けてしまうと買収の目論見が大きく崩れてしまうケースもあり得ます。
したがって、売り手側企業の従業員に対しては、M&A実施の事実を告げる段取りや、丁寧な説明を果たすための準備、発表後のケアを十分検討することが大切です。

3.顧客や取引先からの理解が必要

会社を買うと、既存の取引関係を新しく継続するために取引契約書を結び直すケースがあります。その際に以前からの顧客や取引先に対して、M&Aに至った理由や今後の仕事の進め方などについて買収先の経営陣や役員と共に丁寧に説明することをおすすめします。このプロセスをおろそかにすると、顧客や取引先の離反を招きかねません。経営者、あるいは会社が新しく変わったとしても、今まで通り重要な顧客・取引先であることには何ら変わりありません。今まで以上に関係を深めて顧客・取引先の役に立てるように努めることをわかりやすく明確に伝えましょう。顧客基盤を維持・成長させることは、会社の成長には欠かすことのできない重要なポイントです。

会社を買う3つの方法

個人や法人が会社を買う方法には、以下の3つの方法が考えられます。

  1. M&A仲介会社などM&A支援事業者の活用
  2. 事業承継・引継ぎ支援センターの活用
  3. M&Aマッチングサイトの活用

それぞれの特徴やメリット・デメリットについて解説します。

1. M&A仲介会社などM&A支援機関の活用

主に法人向けの選択肢となりますが、まずM&A仲介会社など支援機関の活用が挙げられます。
M&A仲介会社とは、会社や事業の売買を仲介、成約後も見据えてサポートしてくれる会社です。M&A仲介会社を利用する最大のメリットは、幅広い選択肢の中から自社に最適なM&Aの相手先を見つけてくれ、専門的なサポートが受けられる点です。特に大手のM&A仲介会社は長年の経験から買い手・売り手双方のニーズや成約に向けてのポイントを熟知していますので、M&Aパートナーとして力強い味方となってくれます。

一方で、M&A仲介会社を利用するデメリットとしては、後述のマッチングサイト等と比べて費用がかかる点です。M&Aの仲介という専門性・難易度が高いサービスを、コンサルタントや公認会計士、弁護士、税理士など専門家を介在して提供していることが、その背景にあります。費用体系は会社によって内容や呼び名が異なりますが、主に着手金・月額報酬・中間報酬・成功報酬などの体系になっています。
高額なM&Aが成立した場合には、多額の成功報酬を支払うことになるでしょう。M&Aの案件規模に応じて、M&A仲介会社に支払う費用は増減すると考えてください。

2. 事業承継・引継ぎ支援センターの活用

特に個人M&Aで案件を探す場合には、事業承継・引継ぎ支援センターに相談する方法も考えられます。事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者不足に悩む中小企業・小規模事業の事業承継をM&Aなどの活用によってサポートすることを目的とする国の事業です。創業を目指す起業家と、後継者不在の会社や個人事業主を引き合わせるなどの支援が受けられます。
事業承継・引継ぎ支援センターを活用するメリットは、国の事業であるため安心して利用できる点、M&Aに関する専門家が無料で相談に乗ってくれる点です。

デメリットはM&A仲介のようにワンストップでのサービス提供ができないため、専門家などに依頼する際は別途費用がかかること、案件数は他のサービスに比べると潤沢ではないことが挙げられます。

3. M&Aマッチングサイトの活用

M&Aマッチングサイトとは、プラットホームのマッチング機能を活用して会社の売り手と買い手をマッチングさせるWebサービスです。海外案件も含めて非常に数多くの案件が掲載されていますので、自ら希望する相手先を探しやすい特徴があります。また、案件のサイズも数百万円くらいのスモールM&Aの案件から数百億円もの巨額な案件まで、バラエティに富んだ案件がそろっています。

マッチングサイトを利用する場合に情報の拡散や漏洩に注意する必要があること、複雑な手続きや交渉・調整など仲介会社と同レベルのサポートを期待することは難しいことなどが挙げられます。近年はサポートを充実させる会社も増えてきていますが、弁護士など専門家への依頼には別途費用がかかることに注意が必要です。

個人のM&Aではその他商工会議所などが相談先として挙げられます。

個人M&Aが行われやすい会社とは

個人が買える会社とはどのような会社なのでしょうか。まず挙げられるのは、個人でも挑戦しやすい金額の案件です。個人向けのM&Aマーケットならば、500~1,000万円程度の案件は豊富に存在します。

会社を買う流れ

個人・法人が会社を買う基本的な流れは以下のとおりです。

・会社の買収の目標・戦略を定める
・M&Aの予算・業種を決める
・買収候補企業を選定する
・経営者・代表者と面談・交渉する
・基本合意書や秘密保持契約を締結する
・デューデリジェンスを実施する
・最終条件の調整・最終契約を締結する

それぞれのステップについて詳しく解説します。

会社の買収の目標・戦略を定める

会社を買う際に最初にしなければならないことは、会社を買収する目的や戦略を明確に定める点です。
M&Aを進めている途中で、困難な問題や解決するハードルが高いトラブルが発生することはよくあります。その際には最初に設定した目的や戦略に立ち返ることで、問題やトラブルに対処しやすくなりますので、目的や戦略の設定が必要なのです。
また進むべき目標・戦略を明確に定めておくと、横道に逸れたり余計な仕事を増やしたりするリスクを減らして効率的にM&Aを進められるでしょう。

M&Aの予算・業種を決める

会社を買う目的や戦略を決めたら、次にM&Aの予算や買収対象となる業種を決めます。予算は買収金額だけでなく、買収に付随する費用も含めて検討することが必要です。例えば、M&A仲介会社を利用する場合には、その費用も計算しておく必要があります。

M&Aマッチングサイトや公的なM&A支援機関を利用する場合には、デューデリジェンスやバリエーションなどの外部機関を利用する費用を考慮する必要があります。個人M&Aの場合には、法人によるM&Aに比べて、追加費用の捻出が難しいケースが考えられるので、余裕を持った予算枠の設定が好ましいといえます。
業種を決める際も、個人M&Aの場合には、買収後に事業を自分で運営していくことが可能かどうかという点を十分に検討して決定しましょう。

買収候補企業を選定する

次に、買う会社を選定します。買う会社を決めるには、M&A仲介会社やM&Aマッチングサイトなどを利用して、買収企業の候補先を選びましょう。M&A仲介会社を利用する場合には、買い手の希望を踏まえて最適な企業を紹介してくれることが期待できます。
しかし、M&Aマッチングサイトを利用する場合には、買い手自身で候補先企業を抽出して検討する必要がある点に注意が必要です。特に個人M&Aの場合には、企業の選定条件をあらかじめ明確に定めておくことが、余計な時間を費やさずに済むポイントになると考えられます。

候補企業へのアプローチ・秘密保持契約の締結

買いたい会社が決まったら、その会社と売買交渉を実施します。M&A仲介会社を利用している場合には、売り手側企業と買い手の間に仲介会社が入ってくれるので、スムーズにコンタクトを取れますが、M&Aマッチングサイトを利用している場合には買い手が直接売り手企業にコンタクトを求める必要があります。売買交渉に入ったタイミングで、秘密保持契約を締結します。秘密保持契約とは、NDA(Non-Disclosure Agreement)とも呼ばれており、自社の秘密情報を相手企業に提供する場合に他社に漏洩したり不正に利用されたりすることを防ぐために締結する契約です。通常は相手に自社情報を開示する前に結びます。

秘密保持契約は情報漏洩を防ぐ目的で締結されるものですが、もしM&Aを考えていることが従業員や取引先にオープンになってしまうと従業員や取引先が離反してしまう可能性があります。またM&Aが成立していないにもかかわらず、買い手側に自社の技術などを勝手に使われてしまうリスクなどもあるので、売買交渉の中で自社情報を開示する前に必ず秘密保持契約は結んでおきましょう。

経営者・代表者と面談・交渉する

売買交渉が進んでお互いに好感触を持つようになってきたら、買い手は売り手側企業の経営者・代表者と直接面談・交渉をします。いわゆるトップ面談と呼ばれるものですが、ここではお互いの経営者としての人格・性格・経営哲学などを確認します。

特に売り手側企業としては、自分の会社をこの相手先に任せて大丈夫なのか、従業員は安心して働くことができるのか、といった点を慎重に見極める必要があります。このトップ会談を単なる礼儀として捉えている人もいますが、馬が合わずに破談になるケースもありますので、M&Aの成功に向けたとても重要なステップなのです。

基本合意書を締結する

トップ面談後、お互いに次のステップに進む意思確認が取れたらデューデリジェンス実施前に基本合意書を締結します。そこでお互いに合意すれば基本合意書を締結します。
基本合意書は、守秘義務や独占交渉権の付与などに法的拘束力を持たせるものの、それ以外の項目には法的拘束力がない構成であることが一般的です。法的拘束力がなければ基本合意書に定める意味がないように思えますが、M&Aのスキームや売買価格などは今後の交渉次第で変更になる可能性もあるので、あえて法的拘束力がない条項と定めておくのです。

デューデリジェンスを実施する

トップ会談が終了したら、買収する会社の分析を実施します。このタイミングでは買い手はデューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスの対象は、事業、財務、法務、税務、人事、IT、など非常に広範にわたっており、専門的な知識が求められる分野も多い点に特徴があります。したがって、弁護士や公認会計士などのプロフェッショナルにデューデリジェンスを依頼するケースが非常に多いと考えられます。特に個人M&Aの場合には、自身でデューデリジェンスに対応することは難しいため、外部の専門家に依頼することをおすすめします。

デューデリジェンスで売り手側企業のリスク・問題点を洗い出し、対応を検討したうえで、買収希望価格を算定・決定します。デューデリジェンスの結果が買収価格に反映されるので、慎重かつ丁寧にプロセス・結果を確認しておきましょう。

最終条件の調整・最終契約を締結する

デューデリジェンス実施後、さまざまな項目を協議・調整したのちに最終的な合意ができたら、最終契約を締結します。最終契約はM&Aスキームの種類によって契約書のタイプが異なります。株式譲渡の場合であれば株式譲渡契約書の締結になり、事業譲渡の場合であれば事業譲渡契約書の締結になります。
個人M&Aの場合には契約書の内容の精査は、弁護士など専門家に依頼することをおすすめします。最終契約を締結してクロージング手続き(株式の移転や売買代金の支払いなど)を完了させれば、基本的にはM&A手続きは完了しますが、買い手側には買収後もしなければいけないことがたくさんあります。具体的には、従業員や取引先への説明することや新たに雇用契約や取引契約を結び直すことなどが必要です。買収後の事業をスムーズに運営するためには、こうしたフォローをしっかりと実施しておくことが極めて重要なのです。

個人・法人が会社を買って成功するための 3つのポイント

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個人・法人が会社を買って成功するためのポイントは、基本的には個人でも法人でも大きな違いはありません。ただし、個人M&Aの場合に特有であるポイントは補足的に説明します。個人・法人が会社を買って成功するための基本的なポイントは、デューデリジェンスでリスクを洗い出す、買収した会社が「空箱」にならないようにする、M&Aの専門家に依頼・相談する、自社・自分に見合ったサイズ・事業内容の会社を買う、などの点です。

デューデリジェンスでリスクを洗い出す

会社を買って成功するためには、個人でも法人でもきちんととデューデリジェンスを実施して売り手側企業のリスクをしっかりと抽出することが必要です。デューデリジェンスをきちんと実施するには、M&Aにおけるデューデリジェンスの経験や実績が豊富な弁護士や公認会計士、あるいはM&A仲介会社に依頼することをおすすめします。

特に個人M&Aの場合には、自分自身で実施できるデューデリジェンスの範囲には限りがあるので、費用がかかったとしてもプロフェショナルサービスを徹底的に利用すると良いでしょう。中途半端なデューデリジェンスで終わってしまうと、買収後に想定外の大きな費用・損失が発生してしまうリスクがあります。

買収した会社が「空箱」にならないようにする

「空箱」とは中身がない、つまり会社という箱はあるものの、従業員がいない、あるいは高いスキルやモチベーションを持っている従業員がいない会社を指す言葉です。空箱のような会社を買ってしまった場合には、当初考えていた目標や戦略を実現させることが困難になってしまう可能性があります。したがって、買った会社が空箱にならないようにする必要性は極めて高いといえます。

買収した会社が空箱にならないようにするためには、辞めて欲しくない従業員には買収後の会社のビジョンや事業計画を丁寧に説明して、「会社の目標を達成するためにはあなたの協力が絶対に必要である」ことを納得してもらわなければなりません。そして、「買収後の会社はあなたの協力があれば、これだけ素晴らしい職場・会社になる」ことを新たな経営者として情熱を持って伝えることが重要です。

従業員にM&Aの情報を開示するにはタイミングが重要です。また、前の経営者に対する思い(寂しさや不満など)が溜まっている従業員も少なくないと考えられるので、個人だけでそうした従業員の対応をすることは難しいかもしれません。M&A仲介会社を利用している場合では、こうした従業員対応もしっかりとバックアップしてくれますので、このような事態が想定される場合には利用しておくと良いでしょう。

M&Aの専門家に依頼・相談する

M&Aのディールには専門的な知識や経験が必要不可欠です。したがって、些細なことであってもいつでも相談できる相手がいれば心強いでしょう。M&A紹介会社を利用していれば、困った時に頼りになるプロフェッショナルを紹介してもらえますが、その他の方法でM&Aを進める場合には自分で専門家を探さなければなりません。特に個人でM&Aに取り組む場合には、専門家が不可欠です。自分の人的ネットワークの中に役立つ専門家がいなければ、信頼できる専門家を紹介してもらうよう公的なM&A支援機関に相談することも一つの方法です。

自社・自分に見合ったサイズ・事業内容の会社を買う

法人でも個人でも、会社を買う際には自分に見合った規模や事業内容の会社を買うことが重要です。資金的な問題もありますが、それ以上に自分では管理しきれなくなってしまうリスクがあるからです。特に個人の場合は、自分でコントロールできない規模の会社を買ってしまうと、リスクが顕在化した時に想定以上の損失をこうむってしまう可能性があります。

また、これまで経験したことがないビジネスを展開しているような会社を買ってしまうと、事業展開の落とし穴(素人では気付かない注意点など)に落ちてしまい、会社を安定的に経営できなくなってしまうリスクもあります。そのため、自分で制御可能な規模や事業内容の会社を買うことが重要なのです。

例えば、多くの従業員を抱えている大規模な工場を有する会社を個人で買うケースを考えてみましょう。この場合、従業員への対策に苦労することがまず考えられます。また、専門的なスキルや技術を持っている従業員も多数いると考えられるので、経営施策を実施する際には、そうした従業員に対して、経営に必要であることを理解してもらわなければなりません。しかし、知識や経験などの面で従業員が経営者を上回っていれば、施策に納得してもらえないばかりか求心力の低下などを招きかねません。
このように自分の手に余るような会社をM&Aで買ったとしても、大いに苦労すること懸念されます。ただし、そうした苦労をしたとしても、将来的に会社が成長して自分も従業員も幸せになれる確信があれば、リスクを十分に踏まえたうえで企業買収に臨む方法もあります。

終わりに

会社を買うには、本記事で紹介したように様々な選択肢があります。それぞれのメリットやデメリットを踏まえて自社・自分に適した方法を利用して買収候補先を見つけることが重要です。また、法人でも個人でも会社を買う基本的な流れは同じですが、個人ならではの気をつけるポイント(専門家を利用する必要性は法人が会社を買う場合よりも高いなど)に配慮する必要があります。

そして、M&Aは買収が完了すれば成功というわけではありません。もちろん最終契約の締結やクロージング手続きの完了まで至ることは重要ですが、買った会社を成長させることや経営者も従業員も楽しく幸せに仕事が続けられることはより大切です。
したがって、デューデリジェンスをしっかりと実施して会社を買うリスクを詳細に調査・検討して、表明保証なども利用して、リスクの顕在化に備えておくことは、会社を買う際に極めて重要です。

著者

M&Aコラム
M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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