(本記事は、橋口 孝司氏の著書『ビジネスエリートが身につける教養 ウイスキーの愉しみ方』=あさ出版、2020年12月25日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
ウイスキーを愉しむための作法
では、「味覚」「嗅覚」の基礎知識をふまえたうえで、ウイスキーをおいしく愉しむときにどんなふうに活かせばよいのでしょうか。
ここでは、次の5つのポイントを押さえておきましょう。
①自分の味の嗜好性を知る
ウイスキーを愉しむにあたっては、自分の「味の嗜好性を知ること」が大切です。味の嗜好性とは、甘いものが好きなのか、スモーキーなものが好きなのかなどの好みです。味の好みをもとにいくつか試してみて、「おいしい」と感じる1杯に出会うところから始めましょう。そこから、これから紹介する方法で愉しみ方を広げていくといいと思います。
私がバーテンダーだったとき「おまかせで」という注文をされる方が多くいらっしゃいました。常連のお客様の場合は問題ないのですが、はじめて来店されたお客様の場合は何をお出ししたらよいか迷ってしまいます。そんなときに、ご自身の好みを伝えてくださる方はとても助かりました(好みを見つけるヒントは161ページから紹介します)。
②シーンを見極めて選ぶ
昼なのか夜なのか、どんな場所なのか、どんな相手と愉しむのか、といったシチュエーションによって、適するウイスキーは異なります。
たとえ同じウイスキーでも、飲む順序はもちろんのこと、飲む場所の環境、1人で飲むのか複数で飲むのかによっても、味わいは異なるのです(シーン別のウイスキーの選び方については、184ページから紹介します)。そのため、「あのときおいしかった」という自分の記憶ばかりに頼ると、失敗してしまうこともあります。
また、ウイスキーの商品紹介には、よく「香味」について記載されていますが、その香りや味わいをすべての人が必ず感じるわけではありません。商品に書いてある説明は、一定の方向性というくらいに捉えておくのがよいでしょう。
これらをふまえたうえで、飲んだとき自分自身がどう感じたのかを記録しておくと、後日参考になります。
③順序を決めて飲む
複数のウイスキーを愉しみたい場合は、香味の薄いものから濃いもの、熟成年数が短いものから長いもの、アルコール度数の低いものから高いものという順序を意識することです。
私はお客様に「本日は何杯くらい愉しまれますか?」という質問をすることがあります。その杯数によって、お出しするウイスキーをコース仕立てのように考えて、順序を考えるためです。その日によって体調も違いますし、どんな食事をしたのかといった状況も異なります。それぞれの状況にも合わせてウイスキーを選べるようになると、愉しみ方のバリエーションが増えます。
④味覚と嗅覚をリセットする
先ほど説明した通り、ウイスキーを飲む順序によっては、感じなくなってしまう(慣れてしまう)香りや味があります。自分自身が感じた味やおいしさはその日そのときだけのもので、別の日に別の場所で別の順序で飲んだときには、まったく違う感じ方をします。そこで、さまざまなウイスキーの香りや味を愉しみたい場合は、1杯ごとに味覚と嗅覚をリセットすることが大切です。
一番簡単なリセットの方法は「水を飲む」ことです。また「パンを食べる」という方法もお酒のテイスティングの際にはよく使われます。噛むことでグルテンと唾液の作用で、嗅覚と味覚がリセットされるといわれています。
香り(嗅覚)をリセットするには「自身の服や肌のにおいを嗅ぐ」という方法も使います。嗅覚が一番フラットな状態になるのは、自分自身のにおいを嗅ぐときです。自分が着ている洋服の袖や手首などのにおいを嗅ぐことで嗅覚がリセットされるのです。
また可能であれば、その場を離れて空気の違う場所に移動する(屋内にいる場合は一度屋外に出てみるなど)方法もおすすめです。
⑤ウイスキーの状態を把握する
ワインのように神経質になることはありませんが、ウイスキーの状態によってもその香りや味わいは異なることがあります。
ウイスキーの場合は、「発売年代」をチェックしたり、「抜栓時期」をメモしておくといいでしょう。
特に長期熟成ウイスキーなどは大切にするあまり、残り少なくなってもそのままにしている場合も少なくありません。しかし、一度封を開けたらボトルの中には空気が入るので、ウイスキーは変わっていきます。
まれに古いウイスキーの場合は封を開けてから少しずつよい状態(ウイスキーが目覚めてくる感じです)になっていく場合もありますが、たいていの場合は悪くなっていきます。なるべく早めに飲むことをおすすめします。保管する場合もウイスキーに触れる空気の量はなるべく少なくなるようにしましょう。
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