東京生まれの女性ペインターLY。モノクロの街並みに黒いモンスターがさまよう独創的な絵は国内外で脚光を浴びている。黒い服に身を包んだアーティストLYの魅力はどこにあるのだろうか。そして彼女のアイコンともなっている謎のモンスター“LUV”とは何者なのか? その答えを探るため、 LYらしさが詰まった作品《I’M LUV 25》を3つのポイントで解説する。
東京生まれ。ペインター。白と黒と、30種類以上の多彩なグレーを使い、海外で訪れた街並みや、幼い時から想像していたランドスケープ(風景)を描く。
その風景には自身の気持ちや想いを投影したモンスター”LUV”(ルーヴ)が彷徨う。
7歳よりアートスクールで絵を描き、高校の時、ストリートアートに出会い、ミューラル、グラフィティの魅力を知り、影響を受ける。
東京を中心に日本、アメリカ、パリ、バンコク、マレーシアなど国内外でミューラルを残し、 自分が想像する完璧なランドスケープをストリートの壁に描くために制作している。
また、残したミューラルやストリートアートがローカルに根付くこと、その作品を通した人々とのコミュニケーションを 目指し制作している。
(アーティストサイトより引用)
1. 空想の世界を実寸で再現できる壁画制作
この黒いモンスター、どこかで見たことがないだろうか?
LYは国内外で多数のミューラル(壁画)を制作しており、日本の街角でも作品を目にすることができる。たとえば東京・原宿のアパレルショップ「THE NORTH FACE STANDARD」やアメリカンダイナー「San Francisco Peaks」には、LYが手がけたミューラルがある。アメリカ、パリ、バンコク、マレーシアなど海外の壁にも描いてきた。
LYがストリートカルチャーに興味を持ったのは10代の頃。昔から大きな絵が好きだったというが、特に大きな影響を受けたのは映画監督・俳優のハーモニー・コリンだという。コリンは『KIDS/キッズ』(1995年)の脚本や『ビーチ・バム まじめに不真面目』(2019年)の監督などストリートカルチャーを絡めた作品に携わっている。
また、LYの頭の中に生まれたモンスターについてモンスターについて「実寸は2.5mくらい」と語っており、実寸に近いサイズで描こうとすると、どうしても大きな画面が必要になる。巨大な壁は彼女にうってつけの制作場所といえるだろう。
2. 心情を反映するモンスターたち
ミューラルにもキャンヴァス作品にも登場する黒いモンスターたち。丸みを帯びた細長い姿は、どこかメランコリックかつユーモラスだ。
モンスターたちはLY自身の気持ちから生まれた、分身もしくは友達のような存在。代表的なLUV以外にも何体か存在し、それぞれ名前がついている。上のInstagramに投稿されている、目のない真っ黒なモンスターの名前は“HATE”。10歳の頃から描いているモチーフで、その名のとおり「何もかも嫌」という強い感情から出てきたもの。がっくり肩を落とす様子からは、底しれぬ闇のような暗い雰囲気がかもし出されている。
その4年後に登場したのがLUV。まっすぐにこちらを見つめる瞳が印象的で、「これからもずっと描いていく」という真剣な覚悟を表している。LUVには未来と向き合うポジティブな気持ちが反映されており、観る者を応援してくれているようにも感じられる。
ほかにも、男性器を象徴するDIK、アンニュイな瞳の白い女の子など、モンスターたちは個性豊か。どれもシンプルな形態なので、モンスターをとおしてアーティストの想いに考えを巡らせるだけでなく、自分自身の感情を重ねてみるという楽しみ方もできそうだ。
3. 白×黒×グレーだけが「使う意味のある色」
LYの作品はすべてモノクロ。使われている色は白、黒、グレーのみだ。黒はLYにとって特別なカラーで、いつも黒い服しか着ない。両親が好む色でもあったため、幼少時代から部屋や持ち物も黒ばかりだったという。アーティスト活動を始めてからも、当初は白と黒のみで感情のままに描いていた。理由や背景となるストーリーがなければ、他の色は使わないと決めていたという。
そんなLYに転機が訪れたのは2013年、「もう絵を描きたくない」というほどの挫折を味わった頃のこと。スケートパークで見たコンクリートのグレーが自分の沈んだ気持ちに重なったため、作品にグレーという色を取り入れることができた。そこから表現の幅が広がり、街や風景などを奥行きのある世界を描くように。今では30種以上の多彩なグレーを、心情に合わせて巧みに使い分けている。
LUVを始めとするモンスターたちは、LYが訪れた海外の街や、森林、犬のいる室内など、さまざまな場所を背景として変わらず描かれ続けている。これからどこに登場するのか、LYの世界の広がりが楽しみだ。
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LUVくんはスケボーデッキやフィギュア、ARとしても展開されており、海外でも人気が高まっています。ぜひあなたも、グローバルに活躍する注目の女性ペインターの作品のオーナーになってみませんか?
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文:ANDART編集部