アパレル企業におけるサプライチェーンマネジメントの最優先課題は「在庫の最小化」
~在庫の最小化を可能にするマスカスタマイゼーションの取組みは現状1割だが、5年後は2~3割に~
株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、アパレル企業におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)の課題に関する法人アンケート調査を実施し、現状と展望の分析結果を公表する。
図1. サプライチェーンマネジメント(SCM)の優先課題
図2. マスカスタマイゼーションの取組み(現状と5年後の比較)
1.調査結果概要
2019年6月に国内主要アパレルメーカー、小売業などの法人75社を対象に、国内アパレル産業におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)の実態と課題に関するアンケート調査を実施した。
本調査結果から、アパレル企業におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)の優先課題(複数回答)は「在庫の最小化」が54.7%で最も多く、次いで「人材確保、育成」36.0%、「販売機会のロス軽減」「物流の効率化」の29.3%の順だった(図1参照)。
アパレル企業が抱えるSCMの課題である「在庫の最小化」を可能にする方法の一つにマスカスタマイゼーションがある。マスカスタマイゼーションとはアパレル業界において、従来の大量生産と同様の効率性でオーダーメイドの一点物を生産・販売する取組みであり、見込生産以外の受注生産の1つである。
現在と5年後のマスカスタマイゼーションへの取組みについて(単数回答)、現在は1割台が14.7%と概して低い回答比率であるが、5年後は2~3割台が12%を占めている。本調査結果から、マスカスタマイゼーションへの取組みは今後、現在よりも進むことが窺える(図2参照)。
2.注目トピック
ESGやSDGsの取組みとしても求められるアパレルの不良在庫の最小化
経済産業省「生産動態統計」によると、アパレル製品の国内供給数量は2017年で約38億点、この10年で2億点増えている。一方で、総務省「家計調査」によると、衣料品の家計消費支出(総世帯の洋服、シャツ・セーター、下着の合計)は2017年は約8万円と、10年前と比較すると約2万円の減少である。
一般にアパレル業界では国内供給量の6割程度が購買されれば大成功といわれているが、この38億点の6割が購買されたと仮定しても、その点数は約23億点となり、残りの15億点は不良在庫という計算になる。これはアパレル製品が見込生産であること、また需要予測は品番数、サイズ、色、柄、流行、シーズンサイクル、天候など不確定要素が多く、元来難しいことに起因している。
アパレル製品の見込生産と実需要との需給ギャップから生じる不良在庫を最小限にとどめるための最適な方法は受注生産であり、その方法の一つにマスカスタマイゼーションがある。
不良在庫の最小化はアパレル企業の経営の健全化のみならず、環境への配慮(ESG; Environment、Social、Governance)や持続可能な社会(SDGs; Sustainable Development Goals)という観点から、社会的にも要請されているのが現状である。
アパレル企業は見込生産に基づく大量生産というビジネスモデルから、不良在庫を極力もたない在庫レスといったビジネスモデルへの転換が求められているものとみる。