遺産分割協議,争い
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

相続が開始した場合、相続財産は相続人に承継されます。

その際の手続としては、相続人間で遺産分割協議を行い、相続財産に含まれる個々の財産を、誰が相続するのかを具体的に決定することになります。

しかし、現実には、遺産分割協議がなされなかったり、協議がなされてもなかなか合意に至らず、何年もの間放置されているという事例も現実に見られます。

そこで、本稿では、相続トラブルがどのようなデメリットをもたらすかを確認した上で、具体的にどのようなことが相続トラブルの原因となっているのか、さらに、それらを回避するためにはどのような点に気をつけて遺産分割協議を行ったらいいかについて考察してみたいと思います。

1. 遺産分割におけるトラブルのデメリット

遺産分割トラブルによって、遺産分割がなされない状態が続いた場合、具体的にどのようなデメリット、問題があるのでしょうか。

1-1. 相続人間の対立

遺産分割の当事者となるのは、配偶者と子供が相続人の場合には、親子・兄弟、配偶者と被相続人の両親が相続人の場合には義理の親子、配偶者と被相続人の兄弟が相続人の場合には小姑・小舅、兄弟という関係の人たちという、いわば近しい親戚関係といえるでしょう。

それが、遺産分割を巡ってトラブルとなった場合、近しい関係だけに感情的なしこりが残り、関係の断絶といったことにもなりかねないという危険があります。

1-2. 相続財産の有効活用ができない

相続が開始された場合、相続財産は遺産分割がなされるまでは相続人の共有となります(民法第898条)。

その結果、相続人が単独では処分等できないことになります。

また、預金債権等についても、判例は相続財産として遺産分割の対象となるため、遺産分割協議が完了するまでは、各相続人が勝手に引き出すことはできないとしています(最高裁判決平成28年12月19日民集70-8-2121、最高裁判決平成29年4月6日判例時報2337-34)。

その結果、これらの預金債権は凍結されたまま、活用できないこととなってしまいます。

さらに、相続財産の中に賃貸物件があった場合の賃料債権についても問題があります。

判決は、賃料債権は相続人が可分債権として相続分に応じて取得できるとしていますが(最判平成17年9月8日民集59-7-1931)、賃借人は誰が相続人か、また、その相続分を知ることはできないため、現実には相続人からの請求に応じることは困難です。

その結果、賃借人は賃料を債権者不確知として供託したり、遺産分割協議確定まで支払いを留保するといった対応をとる可能性が高いことになります。

その結果、賃料債権についても、現実に受領することができない等の問題が生じかねません。

1-3. 相続税の問題

相続税の計算を行うためには、各相続人が具体的に相続する財産を確定する必要があります。

一方で、相続税の申告・納付は相続開始後10ヵ月以内に行わなければなりません。

そのため、相続トラブルの結果、この期限までに遺産分割が完了しないと、相続税も正確に申告・納付することができないことになってしまいます。

仮に相続税の申告納付を行わなかった場合、延滞税などを課されることになります。

具体的な対応としては、仮の申告を行った上で、遺産分割完了後に修正申告を行うことになりますが、結局二度手間になるなどの問題が生じることになります。

1-4. 利害関係人の増加等

遺産分割協議がまとまらないまま長期間が経過すると、当初の相続人の中でも亡くなる方が出てくるといったことも考えられます。

そうすると、その亡くなった相続人の相続人も当初の遺産分割協議の当事者に入ってくることになり、ますます権利関係が複雑化したり、利害関係が対立するなど、問題の解決が困難になりかねません。

2. 具体的なトラブルの原因

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それでは、なぜ、遺産分割が早期に合意に至らないという事態が生じるのでしょうか。

具体的に遺産分割におけるトラブルが生じる原因を見てみましょう。

2-1. 相続財産についてのトラブル

遺産分割の対象となる相続財産の内容について相続人が疑義を持つ場合があります。

具体的には、相続人が「もっと財産があるはず」と考えている場合です。

これには、一部の相続人が相続財産を隠しているのではないかとか、被相続人の財産を勝手に費消したのではないかとか、さらには、被相続人から贈与等を受けていたのではないか、といった疑いを、他の相続人が持つ場合も含まれます。

2-2. 誰がどの財産を相続するかについての対立

相続人の相続分は民法が定めています。

相続財産が現金などの場合には、その相続分に応じて現金を分けることができます。

しかし、建物等のように、それ自体を分割することができない場合、その具体的な財産を誰が取得するかということについて相続人間で対立が生じる場合があります。

建物など以外の動産などでも、思い入れのある財産だったり、先祖伝来の財産等について、それを取得したいという相続人が複数いた場合には、最終的に誰に相続させるかについて、相続人間に対立が生じ、遺産分割について合意に至らない場合が考えられます。

2-3. 相続分の公平を巡る対立

相続財産が相続財産の現金や預貯金や金融商品以外の物の場合には、その財産価額の評価という問題が生じます。

そしてさらに、このような具体的な個々の相続財産を遺産分割によって振り分ける場合、振り分けられた財産の価額が、民法の定める相続分に合致するということは現実的に難しいといえるでしょう。

その結果、相続人間において、不公平ではないかという感情が残ってしまい、遺産分割についての合意に至らないという場合があります。

2-4. 特別受益についてのトラブル

相続財産の範囲の問題とも関係しますが、一部の相続人が、被相続人の生前に贈与を受けていたり、事業資金の提供などを受けていた場合、遺贈を受けている場合などには、その価額を持戻しして、それらを含めて遺産分割を行うことになります(民法第903条)。

そこで、特定の相続人が受けた利益がこの特別受益に当たるか否か、また、その場合の持戻しの価額をいくらとするかに関して、相続人間で争いが生じる場合があります。

2-5. 寄与分を巡るトラブル

被相続人の生前に、被相続人の事業に貢献したり、財産上の給付をしたり、被相続人の療養看護等に務めるなどして、被相続人の財産の維持・増加に務めた相続人については、寄与分として、その寄与度に応じた財産を当該寄与者に先渡しし、相続財産から寄与分の財産を控除した残りを持って遺産分割を行う形になります。

そこで、この寄与分を認めるか否か、認めるとしてもどの額はどうするか、について、相続人間で対立が生じたり、トラブルとなる場合がよくあります。

2-6. 遺言の有効性を巡るトラブル

被相続人が遺言を書いていた場合でも、その内容によっては遺産分割のトラブルになる場合があります。

通常、遺言は相続人間での相続争いが生じないようにという意図で書かれることが多いと思われます。

ただ、被相続人が民法の遺留分に関する定めを知らないなど、その内容が一部の相続人のみに多くの財産を残すものであり、他の相続人の遺留分を侵害する内容である場合などには、遺言があることでかえってトラブルを生じさせる場合があります。

また、遺言の有効性について争いとなることもあります。

3. 遺産分割協議の進め方

以上の遺産トラブルの原因を前提とした上で、以下では具体的に遺産分割協議を進める際の手続について、これらのトラブルを回避する上で配慮すべき事項を含めて、考えてみたいと思います。

3-1. 相続財産の確認

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遺産分割手続を進める際に、相続財産として何があるかを確認し、明らかにすることです。

これは相続財産の範囲を確定する為に必須の作業ですので、正確に行う必要があります。

そして、その際に注意しなければならないことは、相続財産を正確に列挙して、目録等に記載することです。

安易にこれは価値が低いだろうといって対象から外してしまうと、他の相続人からは勝手な判断で相続財産から除外した物がほかにもあるのではないかと、疑われる原因となってしまいます。

とにかく、透明性を確保することが最も重要です。

また、被相続人が生前に処分した財産についても、めぼしいものについては可能な限り、明らかにすることが好ましいでしょう。

相続人の中には、昔見たことのある財産が目録に載っていないことを取り上げて、それらの財産を隠匿したのではないかとか、疑いの目を向けてくる人がいないとも限りません。

面倒でも、そういった疑いの目を一つ一つクリアにしていくことが、遺産分割を巡るトラブルを回避する上では重要となってきます。

さらに、被相続人の預金などを相続人の一人が管理していたような場合には、その預金通帳なども提示して、引き出した金額についても、何の目的で引き出して、何に使ったか等を説明できるようにしておくことも必要です。

特に、被相続人が亡くなる直前、直後には、被相続人の預金が凍結されることを想定して、預金の引き出しを行うことがあるようです。

これらの引き出したお金についても、相続人の財産に紛れることのないように、厳格に別管理するなどして、それらの引き出した現金を私的に流用したといった疑いを持たれないようにする配慮が必要となります。

3-2. 相続人の範囲の確認

相続財産の確認と並行して、誰が相続人になるのかの確認も必要です。

通常は、相続人が誰かということは問題にならないと思われますが、例えば、被相続人が再婚していた場合には、前の配偶者との間に子供がいる可能性もあります。

また、認知した婚外子がいる可能性もゼロではありません。

これについては、通常、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等を取り寄せて、ほかに相続人となるべき者がいないか確認する形がとられます。

万一、相続人となるべき者がほかにいるにもかかわらず、その者を除外して遺産分割協議がなされた場合、それは無効とされてしまいます。

したがって、相続人として誰がいるのかについては、わかりきっていると思われる場合でも、必ず、戸籍謄本等で確認するべきです。

3-3. 遺言の有無の確認

被相続人は、遺言によって、法定相続分と異なる相続分を指定したり、相続財産の遺産分割方法を定めたり、遺贈したりすることができます。

そして、遺言の中で特定の財産について遺産分割方法が指定されている場合には、その効力が発生したとき、すなわち遺言者が死亡したときに、その財産は指定した者に当然に帰属することとされています(最高裁判決平成3年4月19日民集45−4−477)。

したがって、遺産分割を行う際には、このような被相続人の意思を表明した遺言がないかを確認する必要があります。

遺言の存在が判明したときは、家庭裁判所の検認の手続をとる必要があります(民法第1004条第1項)。

万一、検認の手続をとらなかった場合、過料の罰則を科される可能性があります(民法第1005条)。

なお、法律上は検認を行わなかった場合でも遺言の効力には変わりはありませんが、場合によっては他の相続人から、遺言を偽造したのではないか、といった言いがかりをつけられる可能性もありますので、法律に定められた手続を遵守するべきです。

また、封印された遺言が出てきた場合にも、これを勝手に開封してはなりません。

必ず家庭裁判所において相続人の立ち会いの下で開封する必要があります(民法第1004条第3項)。

これに違反した場合には過料の罰則を科される可能性がありますし(民法第1005条)、同様に、偽造等したのではといった疑いを持たれる可能性もありますので、注意するべきです。

3-4. 遺産分割協議

遺産分割協議は、必ず、すべての相続人を関与させなければなりません。

一人でも相続人が関わらなかった場合には、遺産分割協議書が作成された場合でも、その全体が無効とされます。

ただし、遺産分割協議自体は、相続人が一堂に会して行う必要はありません。

各相続人が電話や手紙やメールなどで連絡を取り合って、最終的に遺産の分割方法について合意した場合には有効です。

遺産分割の方法としては、

現物分割:個々の財産をそのまま相続させる方法、または、分割可能な物は相続分に応じて分割して相続させる方法
例えば、A建物は長男、B建物は次男、山林は長女、といった形。

または、土地を3等分に分筆して、それぞれを長男、次男、長女が相続するといった形。

換価分割:相続財産を売却して、その対価として得た金銭を相続分に応じて分割する方法。

代償分割:相続財産を相続人の一人が相続し、その者が他の相続人に対してそれぞれの相続分に相当する代価を支払う方法。

例えば、1,200万円相当の自宅の土地・建物を長男が相続し、その代償として長男が次男、長女にそれぞれ400万円ずつ支払う。

という方法があります。

このような形で、すべての相続財産について誰の所有とするかを決定します。

3-5. 遺産分割協議書の作成

遺産分割協議においてすべての相続人の合意が得られたら、その内容を遺産分割協議書にまとめます。

書き方に特にルールはありませんが、誰がどの財産を相続したのかがわかるように明確に記載する必要があります。

遺産分割協議書の作成は、相続人の義務ではありませんが、現実には被相続人の預貯金を解約したり、その引き出しを行ったりする際に銀行に提示することが求められます。

また、相続財産に不動産がある場合には、その所有権移転登記をする際の添付書類として必要になります。

また、それ以外の場合でも、誰が何の財産を相続したのかを明らかにするために作成しておくことが、後日のトラブル等を防ぐ上でも必要です。

遺産分割協議書への署名・押印は、法律上は記名・押印でもかまわないとされていますが、後日のトラブルを避けるためには、できれば相続人が自署することが好ましいでしょう。

また、押印については、不動産の所有権移転登記が必要となる場合には、必ず実印を押印する必要があります。

また、不動産がない場合でも、意思確認のためという意味も含めて、実印を押印して、印鑑証明書を添付することが好ましいでしょう。

実印の押印、および、印鑑証明書、さらに自署による署名があれば、後日、その内容について知らないといった主張を遮断することができるでしょう。

4. 遺産分割の調停・審判

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遺産分割について相続人間で協議が整わないとき、および、協議ができないときは、相続人は家庭裁判所に調停または審判の申立をすることができます(民法第907条第2項)

①遺産分割調停は、調停委員が当事者から事情を聞いたり、資料の提出をしてもらうなどして、当事者の意向を踏まえた上で、第三者の立場から適切な解決案を提示したり、助言を行うことで、相続人間の合意を目指す裁判上の手続をいいます。

あくまでも、裁判所が相続人間の合意に至るようにサポートする手続です。

したがって、最終的に合意に至らない場合には調停不調として手続は終了します。

②遺産分割審判は、家庭裁判所が当事者の申立および当事者から提出された証拠を元に、法律に従って遺産分割方法を決定する手続です。

ここでは法律の定めに従った、すなわち、相続分に従った遺産分割ということが主眼となります。

このように、最終的に当事者間で合意に至らなかった場合については、家庭裁判所が、法律に従って最終的に遺産分割を行う方法がもうけられています。

5. まとめ

以上、遺産分割協議におけるトラブルの原因、および、それらへの対応を含めた遺産分割の手続についてまとめてみました。

いずれにしても、遺産分割をいつまでも放置したり、長期間トラブルが継続している状態は、当事者にとっても、社会的にも好ましい状態ではありません。

相続人間で、相互理解を進めることで、円満な合意に至ることがベストであり、そのためにも感情的にならずに、冷静かつ合理的に協議を進めることが必要といえるでしょう。(提供:ベンチャーサポート法律事務所