「ラーメン二郎」はなぜ、人々の心と胃袋を掴んで離さないのか
(画像=mizinra/stock.adobe.com)

大きな丼に山盛りにされた麺と野菜が特徴的な「ラーメン二郎」は、「ジロリアン」と呼ばれる熱狂的なファンを持ち、根強い人気を持つ。二郎に影響を受けたいわゆる「インスパイア系」の店も多数あり、ラーメンのジャンルの一つとして確立されていると言っても過言ではない。

「ラーメン二郎」の歴史

ラーメン二郎の歴史は長い。1968年に山田拓美氏が創業し、東京都目黒区の都立大学駅近くに最初の店舗を開いた。その後、港区三田の慶應義塾大学近くに移転し、慶大生をはじめ続々と人気を集め、現在は有限会社ラーメン二郎として都内を中心に全国展開する。

「食べたことがない」のに始めたラーメン屋

ファンから「総帥」と呼ばれている山田氏は、メディアの取材をほとんど受けないことでも有名だ。数少ないインタビューによると、料亭で働いた後、20代でラーメン屋を始めた。しかし当時は、ラーメンを「食べたことも作ったこともなかった」と言う。開店当初はお客さんがほとんど入らない日もあったそうだ。

店を辞めようとさえ思ったこともあるが、その後別のラーメン屋で修行をし、調味料を変えたり麺の量を増量したりして工夫を凝らした。大盛りの麺、野菜、豚(チャーシュー)、脂などを特徴とする現在の二郎スタイルに近い形になった。

支店や「二郎系」、「二郎インスパイア系」も

ラーメン二郎で修行を積んだ店主による支店は全国に約40店舗ある。各店舗は独立採算で、年に1度の店主会議が開かれる他、「認定証」があるという。

一方で、二郎グループの加盟店ではない、いわゆる「二郎系」「二郎インスパイア系」と呼ばれるラーメン屋も全国にある。ラーメン二郎はこれらについて、加盟店を装ったり修行経験を偽ったりしない限りは寛容なようだ。

ラーメン二郎の特徴

ラーメン二郎のスープは、豚の背脂や豚ガラと香味野菜で旨味を引き出しており、脂が溶けて白っぽく濁る「乳化」が特徴だ。極太で硬め、ボリューミーな麺と、山盛りのもやしやキャベツも印象的で、一番小さいサイズを頼んでも普通のラーメン屋の大盛り以上のボリュームがある。ジロリアンは「ラーメンではなく二郎という別の食べ物」とさえ表現する。

二郎グループ、人気の店舗は?

2022年7月17日時点で、食べログの評価における全国のラーメン二郎(本店・支店)のランキングは以下の通りだ。いずれも評価が5段階のうち3.7を超えている。

二郎グループ、人気の店舗は?

熱狂的な人気の理由

近年の「健康志向」からは程遠いような商品と、のれん分けではない「パクリ」とさえ言えるインスパイア系も台頭する中で、ラーメン二郎はなぜ根強いファン層を確立しているのか。

二郎「系」も許容で広がるファン層

正式なのれん分けによる支店ではない二郎系、インスパイア系を許容している点が、かえってファン層を広げている。類似店舗を開く追随者を、否定して市場から弾き出すのではなく受け入れていくことで、さらに知名度やファンが拡大しているという構図だ。

山田氏もインタビューでは、インスパイア系に「宣伝してもらっているんだから、気にするな」と述べている。もちろん、実際には系列店ではないのに二郎グループをかたるような誇大広告や虚偽表現には厳しく対処しているようだ。

ブレないスタイルを貫く

ヘルシーや健康志向を売りにした商品や飲食店が人気を集める中で、二郎はたっぷりの油と豚を使ったそのスタイルを維持する。創業当初の「腹いっぱい食べてほしい」というストレートな思いをそのままに、ボリューム満点な量も変わらない。ファンにとっては、このブレないスタイルが魅力の一つなのだろう。

インスパイア系の多様化も?

インターネット上で「二郎インスパイア系」として紹介されている中には、独自の路線で多様なアレンジを加えているメニューも多い。例えば、醤油だけにとどまらずカレー味やポン酢味のラインアップを揃えた「凛」(東京都渋谷区)や、天かすを唐辛子で味付けしたトッピング「辛揚げ」が名物の「千里眼」(目黒区)などがある。

ラーメンではなく野菜炒めの二郎系とも呼ばれる「ベジ郎」(渋谷区)なども注目だ。

多様化する「二郎系」も巻き込み成長する市場

ラーメン二郎は、ジロリアンたちによる熱狂的な支持を得て、系列店だけではなく類似店までも巻き込んでファンを虜にしてきた。多様化するインスパイア系と共に成長していく姿は、ラーメン市場に限らず参考にしたいスタイルだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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