業績不振,原因
(写真=PIXTA)

会社が業績不振に陥った場合には、原因分析を早急に行い、改善策を講じていくことが必要だ。業績不振の原因として考えられるのは、販売不振をはじめとして多くある。この記事では、業績不振の原因と対策、および減給や解雇を行わなければならない場合の手順と注意点を見ていこう。

業績不振とは?

業績不振とは、一般に売上高や利益が減少することだ。利益の減少についての原因は、売上高の減少とともにコストの増大も考えられる。業績不振に陥ると赤字が拡大して資金繰りが悪化し債務超過に陥ることもあり最悪の場合は倒産のリスクもあるのだ。そのため業績不振に陥った場合には、早急に改善策を講じることが必要だといえるだろう。

業績不振の9つの原因とその対策

業績不振の原因としてどのようなものがあるのだろうか。中小企業庁の統計によれば2018年における倒産の原因と件数および全体に対する比率は、下表の通りだ。

原因 件数 比率
販売不振 5,799 70.4%
既往のしわよせ 967 11.7%
放漫経営 409 5.0%
連鎖倒産 374 4.5%
過少資本 342 4.2%
設備投資過大 71 0.9%
信用性の低下 56 0.7%
売掛金回収難 27 0.3%
在庫状態悪化 8 0.1%
その他 182 2.2%
合 計 8,235 100.0%

出典:中小企業庁『倒産の状況』
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/tousan/

これら業績不振・倒産の原因とそれぞれについての対策を以下で詳しく見ていこう。

1. 販売不振

全体の約7割を占め倒産の原因として圧倒的に多いのが「販売不振」だ。販売不振とは、売上高が減少し利益が出ないことを意味する。売上高は、徐々に減少していくケースと急激に減少するケースとがある。徐々に減少していくケースでは、経営指標を適切に分析して原因を把握したうえで早期に対策を講じることが必要だ。

急激に減少するケースでは、迅速に経営判断を行ったうえで抜本的に事業を見直すことが必要となるだろう。経営指標を分析する方法は、以下のようなものがある。

・流動比率
流動比率とは「流動比率=流動資産÷流動負債」で計算され流動負債に対する流動資産の比率である。流動負債と流動資産はそれぞれに1年以内に支払う予定の負債、および1年以内に現金化される予定の資産のこと。したがって流動資産は短期的な支払い能力を意味している。流動資産が100%を上回っていれば負債を支払ってもまだ資金に余裕があるということだ。

逆に100%を下回れば支払いに問題が生じることを意味する。流動比率の値は大きければ大きいほどよい。一般に140%以上を目安とし200%あれば理想とされている。

・固定長期適合率
固定長期適合率は、長期的な支払い能力を示す指標である。「固定長期適合率=固定資産÷(自己資本 +固定負債)」で計算され固定資産に投資した資金が長期資金によってどの程度賄われるかを意味しているのだ。固定資産は長期にわたって使用されるもののため、自己資本と長期借り入れの範囲内にあることが望ましい。固定長期適合率でいえば100%以内が目安、50~80%が理想だ。

・総資本当期利益率(ROA)
総資本当期利益率(ROA)は、「総資本当期利益率=当期利益÷総資本」すなわち当期利益を総資本で割ることによって得られる指標だ。事業への投資がどの程度利益として還元されたかを意味している。1%以上が目安、5~10%程度が理想。

・自己資本利益率(ROE)
自己資本利益率は、「自己資本利益率=当期利益÷自己資本」で算出可能だ。自己資本は株主の持ち分となる。したがって 自己資本利益率は株主に対してどれだけリターンがあるかという指標だ。一般には、10%以上が目安で15~20%が理想とされる。

・売上高経常利益率
売上高経常利益率は、「売上高経常利益率=経常利益÷売上高」で算出。複数ある利益率のうち経営の効率性を知るために最も適しているといわれる。3%以上が目安、5%を超えられれば理想とされる。

・売上債権回転期間
売上債権回転期間は「(売掛金 + 受取手形)÷売上高÷12」で算出。売掛金と受取手形の合計は、売上債権を意味する指標だ。売上債権回転期間は、売上債権が売上高の何ヵ月分となっているかを意味している。売上債権は、なるべく早く回収することが望ましいため、売上債権回転期間は売上債権の回収効率の指標となり3ヵ月以内が目安だ。

・在庫回転期間
在庫回転期間は、「在庫回転期間=棚卸資産÷売上高÷12」棚卸資産とは、商品や原材料、貯蔵品などの在庫の残高を意味する。したがって在庫回転期間は、在庫が売上高の何ヵ月分あるかを意味し在庫の回転効率を知るための指標となる。0.5~1ヵ月が目安だ。

2. 既往のしわよせ

「既往のしわよせ」とは、業績不振が長期にわたって続いているにもかかわらず、それを把握せず何の対策も取らなかったために倒産にいたることを意味する。「適切な経営指標を用いて業績を把握する」「キャッシュフローの動きを把握する」といったことができていない企業は、この既往のしわよせによって倒産する可能性が高まるだろう。

既往のしわよせによる倒産を避けるためには、まずは経営分析を行い、業績を把握することが重要である。次に分析により問題点が明らかになったときには、先延ばしすることとなく対策に着手することが大切だ。

3. 放漫経営

「放漫経営」とは、主に以下の3つが原因となる。

・経営者の経営能力の欠如
・会社の私物化
・管理体制の不備

業績不振から倒産にいたるケースも多い。中小企業の業績不振の原因となりやすいので注意が必要だ。特にワンマン経営者などの会社に多く見られる。放漫経営の特徴として利益が出ているうちは問題が表面化しにくい。利益が出ているからといって必要以上の経費を使えば会社のお金がなくなることはいうまでもないことだ。また経営者の周囲の人が会社の意思決定を監視することも必要となるだろう。

4. 連鎖倒産

「連鎖倒産」とは、取引先の倒産により不良債権が発生し、それが原因となって倒産することである。親会社の倒産に子会社が連鎖するケース、あるいは大企業の倒産で下請けや取引先が倒産するケースなどさまざまだ。取引先に依存する傾向が強い建設業や製造業などで多く見られる。連鎖倒産を避けるためには、販売先や仕入先などを固定せず分散させることが必要だ。

5. 過少資本

「過少資本」による倒産とは、資本金が少なすぎるために運営が継続できなくなることによる倒産である。旧会社法では、会社を設立するためには最低資本金として株式会社は1,000万円、有限会社は300万円を準備する必要があった。最低資本金制度が撤廃されたため、自己資本が少ない会社は多く見られる。

過少資本による業績不振を避けるためには、利益が出た際には新たな投資を行うだけでなく内部留保して会社の体力をつけることが必要だ。

6. 設備投資過大

「設備投資過大」とは、設備投資を過大に行ったために資金繰りが悪化して倒産にいたるケースだ。設備投資を行った場合には、投じた資金は設備が生み出す利益によって回収されることになる。したがって設備が利益を生み出すようになるまで資金繰りは圧迫されるということだ。設備投資過大による業績不振を避けるためには、設備投資を適切な範囲内で行うことが必要となる。

設備投資の適切な範囲とは、上で見た「固定長期適合率」が100%を上回らないことだ。

7. 信用性の低下

「信用性の低下」とは、顧客や取引先、銀行などのステークホルダーの信用が低下することにより業績不振となって倒産にいたることだ。信用性が低下すれば売上高が減少したり銀行からの融資が受けられなくなったりすることが考えられる。近年では、SNSによって「ブラック企業」などと批判を受けることにより信用性が低下することもあるだろう。信用性の低下による業績不振を避けるためには、目先の利益を追い求めるだけではいけない。

例えば労働関係法令を遵守するなど周囲とのかかわり方をしっかりとしたものにすることが大切だ。

8. 売掛金回収難

「売掛金回収難」とは、売掛金が回収できなくなり業績不振に陥り倒産にいたることである。売掛金の回収が資金繰りに対して直接影響を与えることはいうまでもない。しかし特に中小企業の場合には、売掛金を回収しようとの意識が低く販売管理が甘くなっていることがある。売掛金回収難による倒産を避けるためには、売上目標や売掛金回収のルールを定めしっかりと売掛金を回収していくことが重要だ。

9. 在庫状態悪化

「在庫状態悪化」とは、過剰な在庫を抱えることにより業績が不振に陥り倒産にいたるケースである。在庫を抱え込んでしまえば会計上は黒字に見えても現金が底をつきて資金繰りが悪化することにより倒産することも少なくない。在庫状態悪化による業績不振を防ぐためには、在庫を適切に管理することが重要だ。上で見た「在庫回転期間」が1ヵ月以下になることが目安となる。

業績不振で減給・賃金カットを行う際の手順と注意点

会社の業績不振により従業員の賃金を減給・カットすることが必要となるケースがある。一般に労働法では、企業都合で賃金や各種手当を引き下げることは「原則として禁止」だ。なぜなら従業員にとって「不利益変更」となるものだからである。したがって減給・賃金カットを行う際には、しっかりとした手順を踏み従業員の納得と承諾を得ながら手続きを進めることが必要だ。減給・賃金カットのための手順は、以下のようなものとなる。

1. 減給の制度を策定する

まずしなければならないことは、減給の制度を策定すること。経営状態を分析しどの程度の減給で経営状態がどの程度改善されるのかをシミュレーションする。従業員がしっかりと納得できるよう根拠や計算式などは明確にすることが必要だろう。

2. 役員の報酬カットをする

次に従業員の減給に先立って役員の報酬カットを取締役会で決議したい。会社が業績不振に陥り従業員の賃金を減給するのに役員は高給を維持しているとなってしまえば減給が認められない可能性も出てくるからだ。

3. 従業員・労働組合に対して説明する

以上の手順を踏んだうえで減給について従業員や労働組合に説明。会社の経営状態や経費節減に努力したことなどを従業員・労働組合が納得できるように説明することが求められる。説明は、ただ説明会を開くだけではなく可能な限り個別に行い丁寧な対応をすることが必要だろう。

業績不振で解雇をする際の手順と注意点

業績不振が原因で従業員を解雇しなければならないことも出てくるだろう。解雇も減給・賃金カットと同様に業績が不振だからといって簡単に行うことは認められない。法的リスクを最小限に抑えるためには、きちんと手順を踏んだうえで所定の要件を満たすことが必要だ。

希望退職・退職勧奨・整理解雇の手順を踏む

人員を削減するためには、以下の3つの方法がある。

  1. 希望退職
  2. 退職勧奨
  3. 整理解雇

整理解雇は「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合」にのみ有効となる。したがってまず希望退職と退職勧奨を行ってそれでもどうしてもやむを得ない場合にのみ整理解雇を行うことが望ましい。希望退職と退職勧奨および整理解雇を行う際の手順や注意点について以下で見ていく。

希望退職を行う際の手順と注意点

希望退職とは、年齢などの一定の条件を満たす従業員全員に対し退職金の加算など優遇措置を提示したうえで退職を広く募集するものである。希望退職に応じるかどうかは、あくまでも社員の自由だ。希望退職において退職を強制することはできない。希望退職を募るにあたって重要なのは、優遇措置の対象になるかどうかの条件を合理的なものとしておくことである。

なぜなら条件が合理的でない場合には、不公平感を生み無用なトラブルが発生することがあるからだ。また会社として「辞めてほしくない」人からの応募があった場合に、どのようにするかの対策も考えておくことが必要だろう。なぜなら優秀な人材であれば転職先も見つけやすいため、条件がよいときに退職してしまうことも考えられるからである。

そのために有効な方法は「優遇措置は会社が希望退職を承認した場合に限る」としておくこと。退職者を選別していることにはなるが選別はあくまでも「優遇措置の可否」にあるため、公序良俗に反しないとみなされる。

退職勧奨を行う際の手順と注意点

退職勧奨とは、退職してもらいたい従業員に対して会社が退職を促すこと。従業員が退職勧奨に応じて退職届を提出すれば従業員の自由な意思にもとづく退職として合意退職とみなされる。退職勧奨を行うにあたっては「退職してもらいたい理由」をどのように伝えるかがポイントだ。その際に次のような理由は違法となり、損害賠償請求を受ける可能性もあるので注意しよう。

・男女雇用機会均等法違反
「女性だから」「産休を取ったから」

・育児・介護休暇法違反
「育休を取るなら辞めてくれ」

・労働組合法違反
「労働組合に参加しているから」

また退職することのメリットと会社に残ることのデメリットの両方を提示することも退職勧奨を成功させるためには重要だ。メリットは、退職金の割り増しや就職先のあっせんなどがあるだろう。デメリットとしては、以下のようなものがある。

 ・会社における評価が低い
 ・希望のポジションには就けない
 ・給与も大きくは上がらない

整理解雇を行う際の手順と注意点

整理解雇を行う際には、裁判所により「整理解雇の4要件」が次の通り示されている。

1.人員解雇の必要性
会社の業績不振が整理解雇をどうしても行わなければならないほど深刻であるのか

2.解雇回避のための努力
配置転換や希望退職、退職勧奨などの、整理解雇を回避するための努力が十分に行われたか

3.人選の合理性
整理解雇の対象となる従業員の人選が合理的で公平か

4.手続きの妥当性
整理解雇を行うにあたり、従業員や労働組合に対する説明や協議は尽くされているか

上記の整理解雇の4要件は、以前の判例では4つがすべてそろっていなくてはならないとされていた。しかし最近の判例では、必ずしもすべてがそろっていなくても総合的な判断のもと「相応の努力がされた」とみなされることも増えている。また整理解雇や減給は、従業員のモチベーションを大きく損なうこともあるだろう。整理解雇や減給を行ったことにより従業員の大量流出をまねくこともある。

したがって整理解雇や減給を行う際には、以下の2つを押さえておくことが大切だ。

 ・整理解雇や減給が本当に必要なのかをよく考える
 ・手続きや手順について、従業員の納得が得られるよう慎重に進める

業績不振の改善は先送りにしないことが重要

業績不振の原因として倒産件数の7割は「販売不振」となっている。業績不振を改善するためには、経営指標とキャッシュフローを常に把握し問題が発見されれば先送りせず対策を講じることが重要だ。業績不振に際しては、減給・賃金カットや人員削減も必要となる場合がある。減給や人員削減を行う際には、それらが本当に必要なのかを十分に検討し従業員の納得が得られるよう段階を踏みながら慎重に手続きを進めることが大切だ。

文・THE OWNER編集部

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