ロングリストは、M&Aの相手企業を選ぶ際に欠かせない資料だ。買い手・売り手の双方にとって重要な書類であるため、いずれの立場でも作成方法を理解しておく必要がある。本記事ではロングリストの概要に加えて、作成時のポイントや注意点などを解説する。
目次
ロングリストとは? いつ使うもの?
ロングリスト(Long List)は、M&Aにおける相手企業をリスト化した資料である。買い手にとっては買収先の候補企業、売り手にとっては売却先の候補企業を記載したものであり、M&Aの当事者はロングリストを参考にしながら相手企業を絞っていく。
記載数の目安は20~30社程度だが、ケースによっては100社以上になる場合もある。各社の情報を合わせると膨大なボリュームになるため、長いリストという意味合いで「ロング」の文字が使われている。
ショートリストとの違い
ロングリストと混同されやすいものに、「ショートリスト」と呼ばれる資料がある。ショートリストとは、候補として残す条件をさらに細かく設定し、相手企業を数社程度に絞った資料のことだ。
ショートリストの作成時には、候補として残った企業に優先順位をつける。その順位に従って調査や交渉を進めていけば、M&Aにかかる手間やコストを大きく抑えられるだろう。
ロングリストの項目と作成方法
ロングリストは作成方法によって、比較のしやすさが変わってくる。その後のプロセスにも影響を及ぼすため、作成のポイントはしっかりと押さえることが重要だ。
一般的なロングリストには、主に次のような項目が記載されている。
ここからはステップに分けて、ロングリストの作成方法を分かりやすく解説しよう。
【STEP1】M&Aの目的を設定する
買い手・売り手のいずれの立場でも、M&Aには必ず実施目的がある。この目的が曖昧になっていると、候補企業を絞る希望条件の設定が難しい。
そのため、まずは「何のためにM&Aを行うのか?」を明確にし、分かりやすい目的を設定することが必要だ。自社に足りないもの、直面している課題などを意識しながら、M&Aの最終的なゴールを決めておこう。
【STEP2】希望条件を決める
M&Aの目的が決まったら、次は相手企業に求める条件を設定する。ロングリストの作成時には膨大な数の企業をチェックするため、「資本金○○円以上」「売上高△△円以上」のように具体的な条件を設定することが重要だ。
そのほか、販路に影響する会社所在地や、シナジーに影響する商品・サービスについても、可能な範囲で条件を決めておきたい。各項目の条件を細かく設定できれば、この後のプロセスを効率的に進められる。
【STEP3】候補企業の情報収集をする
候補企業の情報は、信用調査会社や各企業の公式サイトなどから収集する。相談先の専門家(M&A仲介会社など)によっては、企業のデータベースが提供される場合もある。
闇雲に情報収集をすると膨大な手間がかかってしまうため、このプロセスでは【STEP2】の希望条件を強く意識しておきたい。また、少しでも妥協すると目的を達成できなくなる恐れがあるので、ひとつでも条件を満たさない企業は候補から外しておこう。
【STEP4】リストに残す企業の情報をまとめる
候補となる企業を絞り込んだら、次はリストに残す企業の情報をまとめていく。基本的には前述の「ロングリストの主な記載項目」の通りにまとめるが、開示されていない情報はひとまず空欄のままで構わない。
細かい情報はショートリストの作成時に改めて調査するため、ロングリストの段階では「候補企業が網羅されているか?」に意識を向けることが重要だ。候補企業を絞りきれない場合は、多くても100社程度になるように希望条件を再調整しよう。
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ロングリスト作成時のポイントや注意点
ここからは、ロングリスト作成時のポイントや注意点を解説する。作成に失敗すると余計な手間やコストがかかってしまうため、ひとつずつ丁寧に確認していこう。
全体的なM&A戦略を明確にしておく
ロングリストに記載する企業は、M&Aの目的や方向性によって変わってくる。そのため、遅くても希望条件を設定する前には、全体的なM&A戦略を明確にしておかなければならない。
M&A戦略に曖昧な部分があると、交渉に移ってから相手企業の見直しが必要になったり、希望する契約を結べなかったりなどの弊害が生じる。M&Aは時間との戦いでもあるため、目的や方向性がブレないようにしっかりと戦略を考えておこう。
シナジー効果を考慮する
シナジー効果とは、複数の企業・事業の組み合わせによって生じる相乗効果のことだ。特に規模や販路の拡大を目指す買い手側にとって、シナジー効果は何よりも重視すべき要素になる。
M&Aのシナジー効果を発揮させるには、ロングリストの作成段階で以下のポイントを意識することが必要だ。
売り手側の立場からしても、シナジー効果が表れる相手を選ぶとスムーズに交渉を進めやすくなる。シナジー効果が最優先されるケースは非常に多いため、事業や経営資源の相性は必ず確認しておこう。
必要に応じて記載項目を調整する
ロングリストは外部に公開する資料ではないため、記載項目に関する特別なルールはない。前述では主な記載項目を紹介したが、必要に応じて内容を調整することにより、充実したロングリストを作成しやすくなる。
例えば、M&Aを通して海外進出を目指している場合は、海外支店の数や進出地域もまとめておくことが望ましい。ただし、情報が多くなり過ぎると複雑な資料になってしまうため、不要な情報を削ることも忘れないようにしよう。
経験豊富な専門家を頼る
自社だけでロングリストを作成すると、重要な企業が漏れてしまったり、不要な企業が含まれたりなどのミスが生じる。また、数十社のロングリストを作成する場合は、情報収集だけで膨大な手間がかかってしまうため、経験豊富な専門家を頼ることも検討したい。
M&Aアドバイザーや仲介会社などの専門家は、M&Aのあらゆる工程をサポートしてくれる。資料作成はもちろん、相談先によっては交渉や統合作業もサポートしてもらえるため、依頼をするだけで以下のようなメリットを得られる。
ただし、相談先によって得意分野や料金体系が異なる点には注意が必要だ。例えば、大規模案件の経験が少ない仲介会社や、相談をするだけで着手金がかかるケースなども存在するため、サービス詳細はしっかりと確認しておく必要がある。
ロングリストの活用方法
M&Aにおけるロングリストは、候補企業を絞るときに活用する。希望条件に合わせて売上高や資本金などを記載しておけば、分かりやすい数値で候補企業を比較することも可能だ。
その後はショートリストを作成してさらに候補を絞るが、実はこのプロセスはM&A以外のシーンにも活用できる。ここからは、M&A以外のロングリストの活用シーンを紹介しよう。
取引先企業のリストアップ
仕入先や納品先の企業でロングリストを作成すると、取引先企業のリストアップを行える。例えば、仕入先候補の企業名と原価(仕入れ費)を合わせて記載すれば、コストダウンにつながる仕入先を選びやすくなるだろう。
また、業務提携先や技術提携先についても、ロングリストを作成することでシナジー効果が発揮されやすくなる。業界動向のチェックにも役立つので、外部の企業を比較するシーンでは積極的にロングリスト・ショートリストを作成したい。
採用する人材のリストアップ
ロングリストやショートリストは、人材採用の場面にも役立つ。応募者の年齢や実務経験、スキル、学歴などをリスト化すれば、優れた人材を手っ取り早く見つけられるためだ。
ただし、採用活動で重視するポイントは人によって異なるので、リスト化する情報は入念に話し合っておく必要がある。即戦力になる人材を見つけるために、上層部・人事部・現場担当者の3者でしっかりと話し合っておきたい。
ロングリストはあくまで候補の羅列であるため、最適な選択をするにはショートリストまで作りこむことが重要になる。これはM&A以外のシーンにも当てはまるので、余裕がある方はロングリストと合わせてショートリストの作成方法やポイントも確認しておこう。
ロングリストは記載項目を調整することがポイント
M&Aの候補企業を絞るプロセスにおいて、ロングリストは欠かせない資料である。内容としてはシンプルだが、候補企業を手っ取り早く比較できるため、希望条件を意識してしっかりと記載項目を調整したい。
また、ロングリストやショートリストを作成する流れは、ほかのビジネスシーンにも役立つ。特に取引先の選定や人材採用の場面では、すでに採用している企業も多く見られるので、これを機にさまざまなシーンでの活用を検討してみよう。