富裕層が資産を隠しやすい国ランキング! あの大国は抜け穴だらけ? 日本は何位?
(画像=Kuzmick/stock.adobe.com)

世界141の国と地域のオフショア金融活動の秘密性とその規模を評価した「金融秘密度指数(FSI)」が発表された。タックスヘイブン(租税回避地)というと税金がゼロ、あるいは低税率の国を思い浮かべる人も多いだろうが、FSIには高税国も多数上位にランクインしている。

2022年版では米国が首位に選ばれた。日本は順位を1つ上げ、6位となった。

「富裕層が資産を隠しやすい国」トップ10

ランキングは、税制の理不尽な仕組みと戦う英NGOタックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)が順位付けしたものだ。各国の法律・金融制度がどれぐらい富裕層の資産隠しや犯罪のマネーロンダリングをしやすくなっているかを指標化して表している。

4つの領域(所有権登録・法人の透明性・税及び金融規制の完全性・国際基準と協力)と20項目の指標(銀行の機密性・信託および財団登録・記録された会社の所有権・法人税の開示・税務管理能力・マネーロンダリング防止など)に基づき、各国の秘密保持の度合いを100点満点で評価している。指数が高い国や地域ほど、租税回避がしやすい。

最新版のトップ10は以下の通りだ。

「富裕層が資産を隠しやすい国」トップ10

「世界一資産を隠しやすい国」米国は税法の抜け道だらけ

今回のランキングで最も大きな変化は、2020年版で首位だったケイマン諸島が14位と大幅に後退し、米国が「資産を隠しやすい国」の1位となった点だ。

米国のFSI値は1950.8ポイント(以下、pt)と、金融秘密指数が初めて発表された2009年以来、最高値を記録した。

FSI値は金融機関の機密保持の度合いを示す指標で、機密保持スコア(各国・地域の法制度及び金融制度が富の隠蔽をどの程度許容しているかの指標)とグローバルスケールウェイト(銀行口座の開設や会社の設立などの金融サービスを非居住者にどの程度提供しているかを示す指標だ。非居住者に対する世界の金融サービスを占める割合=%)の組み合わせにより算出される。

米国は「銀行の秘密度(31pt)」は低めだが、法人や信託・財団関連、「その他の資産」の所有権・登録情報(各100pt)の規制が緩く、ペーパーカンパニーを設立・運営しやすい環境だ。

すべての州が所有権情報の提出を義務付けているわけではないため、法的所有者の身元情報が不透明な場合も会社を比較的容易に設立・登録できる。企業の所有・管理情報を収集しているのは3州のみ、企業の定期報告書で企業の所有・管理情報を収集しているのは4州のみに留まる。非居住者でも金融サービスを利用しやすいという利点もある。

TJNは米国が非居住者の金融口座に関する情報を開示しないなど、情報交換に関する国際基準と慣行を満たしていない点を環境の悪化の原因と特定している。

2021年1月に企業透明化法(Corporate Transparency Act /CTA))が成立し、受益者情報を政府当局に登録することが義務付けられた。しかし、登録が必要な法人や受益者の定義が限定的であるほか、信託に関する要件がないなど、税法の抜け道だらけの実態が浮き彫りになっている。

日本の税制システムは法人・富裕層の資産監視が不透明

アジア圏からはシンガポールと香港、日本がトップ10入りした。

前回から2つ順位を上げたシンガポール、変動なしの香港共に法人の所有権に関して極めて寛大で資産隠しをしやすい環境だ。

日本は「銀行の秘密度(21pt)」が低く、「信託・財団の登録(38pt)」についても比較的厳格な規制を設けている。ところが、法人活動や富裕層の資産保有状況の監視となると米国同様に不透明な部分が目立つ。「会社名義の登記」「公開会社の登記」「その他に資産の登記」「上場企業の会計」「法人税の開示」「国別報告事項」「法人認識情報」などの項目は、軒並み100ptとなっている。

秘密スコア自体は前回から0.2pt増加したのみだが、ケイマン諸島が圏外落ちしたことで、日本の順位が1つ繰り上がった。

「透明性法」が実施されたドイツが上位に返り咲き

TJNによると、世界的な脱税・マネーロンダリング・金融犯罪の取締り強化が功を奏し、133ヵ国の金融秘密は過去2年間で平均7%削減したという。

それにもかかわらず、2020年から7つも順位を上げ、再びトップ10入りしたのがドイツである。「銀行の秘密度(50 pt →37 pt)」は改善されたが、一方で「信託・財団の登録(25 pt →88 pt)」などが悪化した。

TJNはその主な原因として、2020年に可決された企業・信託・パートナーシップの所有者に情報の登録を義務付ける「透明性法」の実施が「危険なほど不十分」で、富や資産を隠すために信託が利用されている点を挙げている。

年間62兆円以上の税収が失われている?

TJNは多国籍企業や富裕層によるグローバルな税制の乱用により、世界中で年間4,830億ドル(約62兆1,748億円)の税収が失われていると試算している。そのうち3分の1以上は、富裕層のオフショア脱税によるものだ。特に大きなダメージを受けているのは低所得国で、合計した年間公衆衛生予算のほぼ半分に相当する額が税制の乱用で失われているという。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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