2022年5月18日、ニューヨークでフィリップスオークション「20th Century & Contemporary Art Evening Sale」が開催された。
20世紀を代表する巨匠たちの作品を中心に37点が出品され、落札価格TOP5は全て10億円以上の値を付ける結果となった。出品された作品は完売し、一晩でフィリップス史上最高の売上を記録。特に注目を集めたのは、ZOZO創業者の前澤友作氏が所蔵していたジャン=ミシェル・バスキアの大作で、バスキア作品歴代3位の高値で落札された。
この記事では、落札価格TOP5の作品とANDART関連アーティストの落札情報を紹介。落札価格は手数料込み、1USD=127.92円(2022年5月18日終値)で計算。
5)パブロ・ピカソ《Figures et plante》(1932)
落札価格:約13億1,332万円($10,267,000)
《夢》や《鏡の前の少女》のモデルとしても有名なパブロ・ピカソのミューズ、マリー・テレーズ・ウォルターを描いた作品。彼女は17歳でピカソと出会い、愛人という立場ながら子どもも産んでいる。本作には2人の人物が描かれており、一方をマリー・テレーズの妹とする説もあるが、マリー・テレーズの二重肖像とする説もある。ピカソの伝記作家は、マリー・テレーズが存在感を発揮していた1932年を「奇跡の年」と表現している。
対照的な色彩による光の表現や、窓を人物像の枠とする手法は、同時代に活躍したフォービスムの画家アンリ・マティスに通ずるものがある。1931年にマティスが回顧展を開催したギャラリーで、翌年ピカソも大規模な回顧展を開催しており、本作はその開催直前に描かれた。(予想落札価格:約5億1,167万〜7億6,750万円 / $4,000,000 – 6,000,000)
4)草間彌生《Untitled (Nets)》(1959)
落札価格:約13億4,262万円($10,496,000)
草間彌生作品の中でも希少かつ有名な、初期の白い「無限網」シリーズに属する一作。白い無限網が初めて描かれたのは、1959年にニューヨークのギャラリーに展示された5点の壁画サイズの作品だとされる。同様の作品は、ドナルド・ジャッド、フランク・ステラなど草間と同世代のアーティストたちが個人的なコレクションとして購入した。
草間自身は、自分の筆跡を「機械の歯車のように単調に正確に繰り返される」と表現し、抽象表現主義の感情的な表現から抜け出すための意図的な試みだったと回想している。この試みにより、草間は前衛芸術の中で独自性を確立し、戦後の抽象画の文脈において重要なアーティストとなった。(予想落札価格:約6億3.959万〜8億9,542万円 / $5,000,000 – 7,000,000)
3)アレクサンダー・カルダー《39=50》(1959)
落札価格:約20億171万円($15,648,500)
動く彫刻「モビール」を発明したアレクサンダー・カルダーの作品。カルダーは1940年代から1950年代にかけて、マサチューセッツ州ボストンの自宅に降る雪の儚さにインスピレーションを得て、モビール作品シリーズ「Snow Flurry」を制作した。本作はタイトルで区別されているものの、デザイン的には同シリーズを踏襲している。
《39=50》という一風変わったタイトルの背景にはエピソードがある。カルダーは親しい友人から「妻の50歳の誕生日を記念して、50個の白いエレメントを使ったモビールが欲しい」と依頼された。しかし、50個のエレメントで構成された彫刻作品がなかったため、39個のエレメントによる本作にこのタイトルをつけて贈ったという。(予想落札価格:約13億4,313万〜18億5,480万円 / $10,500,000 – 14,500,000)
2)イヴ・クライン《Relief Éponge bleu sans titre (RE 49)》(1961)
落札価格:約25億5,828万円($19,999,500)
「クライン・ブルー」と呼ばれる高貴な青色の顔料を開発し、一面を青く塗った絵画を発表したイヴ・クライン。本作は天然スポンジを使った傑作で、縦12m、横10mを超える。クラインが34歳で早逝する前年、存命中の最初で最後となる美術館での回顧展の年に制作された。
クラインは本作を親友チャールズ・ウィルプに捧げている。宇宙飛行士ガガーリンが1961年に宇宙飛行を実現する以前から、クラインは「地球は青い」と主張しており、自ら「宇画の画家」と名乗っていたウィルプと興味を共有していた。(予想落札価格:17億9,084万〜23億251万円 / $14,000,000 – 18,000,000 )
1)ジャン=ミシェル・バスキア《Untitled》(1982)
落札価格:約108億7,294万円($85,000,000)
横幅約5mという、バスキアのキャンバス作品で最大級のサイズ。ストリートからキャリアをスタートさせたバスキアがアート界で頭角を現し、一気にスターダムにのぼり詰めた黄金期1982年に制作された。
本作は、2016年5月に前澤友作氏がクリスティーズから5,730万ドル(当時のレートで約62億円)で入手したもの。当時、バスキアのオークションレコードでもトップ3に入る高額を記録して話題になり、6年近い保有期間を経ての今回の出品に注目が集まっていた。フィリップスのサイトでは予想落札価格は公開されていないが、開催前には7,000万ドル(約81億円)以上となる可能性が示唆されていた。結果、予想を大きく超える高額での落札となり、前澤氏の入手時から1.5倍近く価格が跳ね上がっている。マーケットでのバスキアの人気の高まりを物語る結果となった。(予想落札価格:非公開)
【ANDART取り扱いアーティスト落札情報】
アンディ・ウォーホル《The Star (Greta Garbo as Mata Hari)》(1981)
落札価格:約12億2,544万円($9,580,000)
サンタクロースやミッキー・マウス、スーパーマンなど文化的・商業的なアイコン10人を描いた「神話」シリーズの一作。「スター」と題された本作は、1931年のアメリカ映画『マタ・ハリ』で主演を務めた女優グレタ・ガルボを描いたもの。ウォーホルは彼女から多大なインスピレーションを受けたとされる。
ウォーホルといえば、マリリン・モンローやエリザベス・テイラー(リズ)といった大女優の肖像画を多く手掛けてきた。本作のアイシャドウの明るいブルーや唇の緋色は、1960年代に描かれたマリリンやリズのポップな色彩に通じつつ、グレタの個性を的確に表現している。(予想落札価格:約8億9,542万〜12億7,917万円 / $7,000,000 – 10,000,000)
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文:ANDART編集部