EU(欧州連合)委員会は、巨大テック企業に広範な規制を課す「デジタル市場法(DMA)」を2023年に施行することに合意した。施行後、巨大テック企業はEU圏内における独占または競争的行為を法的に禁じられ、運営や管理方法の根本的な再編に迫られることとなる。
EU史上最大のデジタル規制措置でGAFAMに対抗
DMA は2020年12月、コンテンツ監視やアルゴリズムの透明化を義務づける「デジタルサービス法(DSA)」とともに、EU圏で採択されたデジタル規制だ。「ゲートキーパー(門番)として機能するプラットフォームから生じる悪影響に対処し、デジタルセクターをより公平で競争力のあるものにする」ことを目的とする。
ゲートキーパーとは「国内市場で強力な経済的地位と影響力を有し、かつ複数のEU諸国で事業を展開しているオンラインプラットフォーム(プロバイダー)」を指し、年間売上高75億ユーロ(約1兆 86億円)以上、EU圏内の月間エンドユーザー4,500万人、ビジネスユーザー1万人以上の大企業だ。
つまりDMAとは、GAFAM(Google、Apple、Facebook※現Meta、Amazon、Microsoft)を筆頭とする巨大テック企業への規制強化を図るために張り巡らされた包囲網に他ならない。
EU委員会は過去10年間にわたり、「超大手デジタル企業による特定の有害なビジネス慣行」に対して莫大な制裁金を課してきた。「有害なビジネス慣行」には、市場独占行為や多国籍企業によるタックスヘイブンを利用した巨額の税金逃れなどが含まれる。
直近では5月上旬、Appleが自社の「Apple Pay」モバイル決済技術を巡り、反トラスト法違反で告発された。ロイターは、同社が「2021年の世界全体の売上高の10%または366億ドル(約4兆7,284億円)を上限とする制裁金を課される可能性がある」と指摘している。
セドリック・オ仏デジタル担当大臣はプレスリリースで、このような行為を封じこめることにより、「デジタル市場を活性化させ消費者の選択肢を増やすと同時に、デジタル経済におけるより良い価値の共有を可能にし、イノベーションを後押しするカギとなる」とDMAの必要性を強く主張した。
デジタル市場「公平化」で巨大テック企業の独占行為が違法に
DMAの施行に伴い、ゲートキーパーには以下のようなことが求められる。
・特定の状況において、自社のサービスとサードパーティーの相互運用を可能にする
・自社のプラットフォームで生成されたデータにビジネスユーザーがアクセスできるようにする
・プリインストールされたソフトやアプリをユーザーがアンインストールできるようにする
・自分の製品やサービスを他社の製品やサービスより優先しない
・アプリ開発者がスマホの補足機能(NFCチップなど)に公正にアクセスできるようにする
その一方で、新たなデジタル法の導入でデジタル市場が「公平化」されることにより、ユーザーや小~中規模のビジネスは多大なる恩恵を受けることが期待される。
例えば、現時点においては「WhatsApp」のユーザーと通信するためには自分も「WhatsApp」を利用する必要がある。しかし今後は、「WhatsApp」と「iMessage」のユーザー同士がメッセージやビデオ通話を楽しんだり、SignalやTelegramといったより小規模なプラットフォームと相互にアクセスしたりすることが可能になる。
DMA施行によるGAFAMへの影響
このような大胆な変革が、長年にわたりIT市場やデータを独占してきた巨大テックに、大きな打撃を与えることは疑う余地がない。
近年はプライバシー保護の一環として、ユーザーの同意なしにターゲティング広告(個々のユーザーの登録情報や閲覧履歴を分析し、そのユーザーに適した広告を表示するマーケティング戦略)に対する規制が強化されている。DMAの施行は、このような潮流をさらに強めると予想される。
ウェブ広告を主要収入源の一つとするGoogleやMetaは、新たなマーケティング戦略を模索する必要に迫られるだろう。
競合製品を発売するためにサードパーティーセラー(グローバルマーケットプレイスを介して製品を販売している販売業者)からデータを収集しているAmazonにとっても、他人事ではない。Appleは、ユーザーがサードパーティソースからアプリをインストールできるよう許可し、アプリストアでのサードパーティーの決済手段を受け入れざるを得なくなる。
AppleやGoogleが反発
当然ながら「EUの野心」は巨大テック企業に歓迎されていない。
AppleはABCニュースに、「デジタル市場法の一部がユーザーに不必要なプライバシーとセキュリティの脆弱性を生みだし、我が社が多額の投資を行う知的財産の請求が禁止されることを懸念している」と語った。
一方、Googleは「DMAが目指す消費者の選択と相互運用性に関しては概ね支持する」と歓迎する反面、「イノベーションと欧州の人々が利用できる選択肢を減らす可能性がある」との懸念を表明した。
EU側はDMAを遵守しなかった企業に対して、前会計年度の全世界の総売上高の最大10%」の罰金を課すなど、違反行為を厳しく罰する姿勢を示している。例えば、Amazonが違反した場合、2021年の年間売上高から試算すると最大260億ユーロ(約3兆4,972億円)の罰金を支払うことになる。違反を繰り返した場合、罰金は20%に引き上げられ、最悪はEU圏内での事業禁止を命じられる。
米国でも同様のデジタル法を求める声
米国は当初、EUによる巨大テック封じこめ計画に反発していたが、現在は一部の議員間で同様の動きを求める声が上がっている。EUの試みが成功すれば、他国がそれに続く可能性は十分に考えられる。
新たなデジタル規制は、巨大テック企業との法廷論争に関して黒星続きのEUに、今度こそ勝利をもたらすのだろうか。
文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)