改正建設業法,建設業許可,変更点
(写真=ベンチャーサポート行政書士法人編集部)

2019年(令和元年)6月5日、国会で「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」が全会一致で可決・成立しました。

今回の改正は、時代の流れに合わせた大きな改正であると言われています。

はたしてどのような改正点があるのでしょうか。

また、この改正にあわせて検討しておくべき事柄はあるのでしょうか。

この改正のねらいと主な改正点

今回の建設業法の改正における一番のねらいは、建設業界の労働環境の改善です。

建設業界における長時間労働や労働力の高齢化、人材不足といった問題が今後さらに進行すると予想されており、その結果、建設業界自体の存亡に関わる可能性もあります。

そのため、将来にわたって業界を維持していくとともに、生産性を向上させてより良い環境で働けるようにしていこうと考えた結果、今回の改正が行われたのです。

今回の改正項目は以下のようになっています。

(1) 働き方改革に関する事項
長時間労働を是正するとともに、社会保険の加入など働く人の処遇改善を行うこととしています。

(2) 生産性の向上に関する事項
一定の条件を満たす場合、制度を柔軟化して生産性の向上を図ることとしています。

(3) 持続可能な事業環境の確保に関する事項
建設業界への人材の流入や、事業承継に関する制度の導入が図られています。

(4) 災害時における対応に関する事項
災害が発生した際や災害に備えた対応が盛り込まれています。

これらの改正点について、その内容を確認していきます。

主な改正点(1)働き方改革に関する事項

働き方改革が業界を問わず、盛んに議論されるようになってきました。

建設業界は以前から長時間労働が当たり前とされる一方で、実際に働く人の条件は改善されないケースもあり、その見直しが特に必要とされていた業界の1つです。

そこで、まず「長時間労働の是正」という観点から、中央建設業審議会が工期に関する基準を作成するとともに、著しく短い工期での請負契約締結を禁止することが定められました。

これによって、強い権限を持つ発注者から無理な工期で請負契約を締結することを強いられ、結果的に建設業者が長時間労働しなければならない悪循環に陥ることを防ぐねらいがあります。

また公共工事の発注者に対しては、工期の確保や施工時期における平準化を講じるための努力義務が課されることとされており、このことも建設業者にとっては仕事の確保と長時間労働の是正につながるものと考えられています。

一方、「働く人の処遇改善」の観点からは、社会保険への加入が建設業許可を得るための要件とされたことがあげられます。

これまで建設業許可を受けていた業者が更新する場合、あるいは新規に建設業許可を取得しようとする場合には、社会保険に加入していなければならないのです。

このような要件が設けられた背景には、経営状態の悪い業者や、従業員に対する意識が低い建設業者を排除し、労働環境を整備しようとするねらいがあります。

また、下請け業者に対して支払う代金のうち労務費に相当する金額については、現金払いが求められることとなりました。

労務費相当額についても、掛けや手形による支払いとなっているために、その回収まで何か月もかかるような状況では、下請け業者が資金繰りに窮してしまいます。

一人親方の事業者も多いため、実際に働く人に配慮した改正となっています。

主な改正点(2)生産性の向上に関する事項

建設工事の現場における様々なトラブルに対応するため、監理技術者と呼ばれる資格者を各現場に1人配置しなければならない、とされていました。

しかし、すべての現場に監理技術者を配置するのは建設業者にとっては大きな負担となっていました。

そこで、新たに技術士補の制度を創設し、元請けに技術士補がいる場合には監理技術者が複数の現場を兼任することが認められることとなりました。

また、下請の主任技術者について一定額未満の工事については設置不要とすることや、施工不良が資材の欠陥による場合、国土交通大臣は建設業者への指示に併せて建設資材製造会社に対しても改善勧告や命令ができるように変更されました。

主な改正点(3)持続可能な事業環境の確保に関する事項

これまでは建設業の許可を得るために、経営業務管理責任者の要件を満たす人が役員に就任する必要がありました。

しかし、経営業務管理責任者となるには実務経験が最低5年必要とされるため、中小の建設業者の場合は、そのような人材を安定的に確保しておくことが難しいうえ、設立間もない業者の場合は、新規に建設業の許可を得ることができない場合もありました。

今回の改正では、経営業務管理責任者の要件を満たす役員がいなくても、事業者全体として責任体制を有することで建設業許可が得られることに改められました。

そのため、これまでのように経営業務管理責任者の資格者の確保に苦労することはなくなると考えられています。

また、建設業の事業者が減少する傾向にあり、地方を中心に後継者がいない会社・事業者も増えています。

個人の財産は相続で、会社の財産は役員が交代することで承継することができますが、建設業の許可をそのまま引き継ぐことができない場合がありました。

たとえば、法人どうしで合併した場合に、合併で消滅した法人が持っていた建設業許可は存続会社には引き継がれないため、合併後に存続会社があらためて建設業許可を申請するようなケースです。

このやり方では合併してからでないと建設業許可を受けることができません。

スムーズな事業証券を考える人にとっては、望ましくない状態にあったのです。

そこで、合併、事業譲渡等に際し、事前許可の手続を踏むことで、空白の期間なく事業承継ができることとなりました。

これまでは、合併のたびに事業承継の手続きを行わなければならない場合もあり、数か月間の空白期間が生じるのが普通でした。

これからは合併や事業承継がある場合には事前に準備しておくことで、空白期間が生じないようにすることが可能になります。

主な改正点(4)災害時における対応に関する事項

災害時、あるいは災害発生後の建設業の果たす役割は非常に重要なものとなっています。

災害時に大きな混乱を引き起こさないよう、発注者である地方公共団体は緊急性に応じて随意契約・指名契約の適正な選択を行うものとされました。

また、発注者としての地方公共団体は災害時対応を円滑に行うため建設業団体との災害協定を締結しておくべきとされています。

どのように改正に対応するか

今回の改正で最も大きく変わると言われているのが、経営業務管理責任者の要件を満たす役員がいなくても建設業の許可を受けることができるようになる点です。

この改正によって、法人の役員人事に頭を悩ませる必要がなくなり、新たに建設業許可を受けることも今までより容易になると思われます。

ただし、それに代わる会社としての体制が求められていることから、経営業務管理責任者の確保が許可を受ける際の要件からは外されたものの、管理業務を行える体制を作る必要があります。

また、社会保険の加入が建設業許可の要件とされたことで、社会保険未加入の事業者についてはその対応が必須となります。

働き方改革に対応した改正となっていることから、改正点以外にも長時間労働の是正など適正な従業員の管理を行う必要がありそうです。

なお、今回の改正は2020年秋以降に施行されるため、特に建設業許可の要件に関するものについては早めに対応する必要があります。(提供:ベンチャーサポート行政書士法人