金融庁、消費者庁、デジタル庁、復興庁……。日本にはさまざまな「庁」が存在するが、将来的には「スタートアップ庁」も誕生するかもしれない。経団連が創設を提言しており、政府がこの提言を重視すれば、設置に向けた動きが徐々に本格化する可能性がある。
経団連がスタートアップ庁の創設を提言
日本経済団体連合会(経団連)は2022年3月、「スタートアップ躍進ビジョン」を発表し、このビジョンの中でスタートアップ庁の創設を政府に提言した。
具体的には、スタートアップ庁を「スタートアップ振興政策を遂行する司令塔としての機能を果たす組織」と位置付け、以下の3つの役割を担わせる計画だという。
・「スタートアップ立国」への継続的なコミットメント
・国のスタートアップ振興関連施策の一元的な遂行
・スタートアップに対する国の一元的な窓口
岸田首相「2022年はスタートアップ創出元年」
日本ではいま、スタートアップ(新興企業)の振興・支援に向けた機運が高まりつつある。
岸田文雄首相は2022年1月4日の年頭記者会見で、2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けるとし、「戦後の創業期に次ぐ日本の第2創業期」の実現に向け、「スタートアップ5ヵ年計画」を設定するとした。
このスタートアップ5ヵ年計画について岸田首相は、今年の6月までに内容を決定するという方向性を示している。このような政府の方針に共鳴し、経団連もスタートアップ躍進ビジョンを発表した。官民で日本のスタートアップを盛り上げていこうとしているわけだ。
GDPでは世界3位、でもユニコーン数では世界13位
岸田政権が、スタートアップの振興に対して力を入れようとしているのにはワケがある。日本はGDP(国内総生産)ランキングで世界3位の経済大国と言えるが、ユニコーンの数では上位をほかの国に譲っている状況だ。
ユニコーンとは、時価総額が10億ドル以上の非上場企業のことを指し、ユニコーンの数は各国のスタートアップの盛り上がりを示すバロメーターとされている。ちなみに、2021年末時点における各国のユニコーン数は以下の通りだ。
「アメリカ」が487企業で1位、「中国」が301企業で2位と、他の国を圧倒する結果となっており、「日本」は6企業にとどまる。隣国の「韓国」よりも、そして東南アジアの発展途上国である「インドネシア」よりも少ない。
ユニコーンは、将来的に各業界をリードする大企業へと成長する可能性を秘めたスタートアップだ。このユニコーンが日本に少ないことについては、以前から日本政府も経済団体も危機感を持っていたが、効果的なアクションができていなかったのが現状だ。
このような状況の中、岸田首相は2022年をスタートアップ創出元年と位置付け、経団連はスタートアップ庁の創設を提言したのだ。
スタートアップ庁に担わせるべき3つの役割
この記事の前半で、経団連の提言において、スタートアップ庁に担わせるべき役割として「『スタートアップ立国』への継続的なコミットメント」など3つを挙げていることを説明したが、それぞれについてもう少し詳しく説明しよう。
1.「スタートアップ立国」への継続的なコミットメント
1つの目の役割に関しては、過去にも「(国・政府は)一過性の取り組みや類似した検討を繰り返した」と指摘した上で、今後はこのようなことがないよう、「推進すべき施策を体系的に定め、KPI(評価指標)を置いて司令塔組織にて実施状況をモニタリングすべき」としている。ここでいう司令塔組織とは、スタートアップ庁のことだ。
2.国のスタートアップ関連施策の一元的な遂行
スタートアップに関連する施策は担当省庁・部局が複数にまたがることから、「施策を一元的に方向付けし、推進する体制の構築が不可欠」と指摘している。そのためにスタートアップ庁に関連施策を統合し、予算や人材も有効に活用するべきだとしている。
3.スタートアップに対する国の一元的な窓口
これまではスタートアップが先進的な取り組みを展開しようとしても、国の支援制度や規制に関する相談窓口が分散しており、取り組みのスピードがなかなか上がらないという課題があった。経団連はこのような課題の解決に向け、スタートアップに対する国の窓口をワンストップ化するべきだとしている。
世界的企業が誕生する土壌の形成に向けて
スタートアップ業界が盛り上がるかどうかは、将来の日本の国力に大きく関わってくる。アメリカの「GAFAM」(Google、Amazon、Facebook=現Meta、Apple、Microsoft)のような企業も、元々はスタートアップだった。
日本から世界を代表するような企業が生まれる土壌を形成していくため、国、そして経済団体がどのように取り組みを進めていくのか、注目したい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)