上海のロックダウンが1ヵ月経過……中国が「ゼロコロナ政策」にこだわる4つの理由
(画像=atiger/stock.adobe.com)

オミクロン株が猛威を振るう上海で、完全都市封鎖が実施されてから1ヵ月が過ぎた。中国で最も裕福な都市のひとつであるにもかかわらず、住民は深刻な食料不足に直面しているという。コロナとの共存を選択し、規制の緩和あるいは撤廃に踏みだす他国を横目に、なぜ中国はかたくななまでに「ゼロコロナ政策」にこだわるのか。

23都市が封鎖、上海では食料難も

湖北省武漢で世界初の感染が公式に報告された翌月の2020年1月23日、中国政府はまん延防止措置として湖北省の都市封鎖(ロックダウン)に踏みきった。省内の住民の移動が制限され、すべての人は屋内にとどまることを要求された。ゼロコロナ政策の始まりだ。

それに続く世界的感染の拡大に伴い、各国が同様の措置を講じた。しかし、発生から2年以上が経過した現在、多数の国がワクチン普及をきっかけに「通常の生活」に戻る方針に舵を切っている。

ところが、中国はオミクロン株の感染拡大を機に、厳格なまん延防止策をさらに強化するという世界の流れに逆行する動きに出た。

ロイターによると、2022年4月5日の時点で「中国の23都市が全面的または部分的に封鎖され、1億9,300万人の生活に影響を及ぼしている」と推定される。

3月28日から都市封鎖が実施されている上海では、4月22日時点でも一部の地域において外出制限や徹底した検疫検査などが継続されており、多数の住民が食料不足を訴えている。また、検査結果が陽性だった数千人の住民が症状の有無にかかわらず検疫施設に収容され、子どもと親が引き離されるケースも出ている。

9割近くがワクチン接種完了、死亡率も米国の1,000分の1に

統計サイト、Our World in Dataによると、2桁台を推移していた中国の新規感染者数は、2022年に入り一気に急増した。4月19日には2万8,000人を突破したという。

しかし、感染者の再急増は中国に限ったことではない。規制を緩和・撤廃した国においても、感染者は軒並み増えている。コロナ死亡者数も中国は欧米よりはるかに少ない。2019年末以降、米国では人口100万人あたり3,000人死亡しているのに対し、中国はわずか3人だ。3月~4月20日現在までの死亡者数はゼロである。

ワクチンの普及率も世界で5番目に高い。4月11日の時点で86%以上がワクチン接種を完了していた。

つまり、現在の中国の感染水準は、他国が規制を緩和・撤廃を検討する水準と同等あるいはそれ以下と言える。ただし、中国においては基礎疾患のある患者がコロナ感染後に死亡した場合、死亡原因をコロナと認定しないこと、公式データに改ざん疑惑があることなどは考慮すべきだろう。

「ゼロコロナ政策」にこだわる4つの理由

それにもかかわらず、中国がゼロコロナ政策に固執するのはなぜなのか。以下の4つの要因が指摘されている。

1.「武漢モデル」へのこだわり

パンデミック初期に封じこめに成功した武漢の都市封鎖を、中国政府はいまだに「模範」としている。しかし、2年以上前に武漢を制圧した初期ウイルスと現在主流の変異株では、症状も感染状況も全く異なる。

例えば、上海で3月以降に感染した25万人以上の住民のうち、97%が無症状か軽度の感染者である。上海市衛生委員会によると、重篤な症状を呈した感染者のうち、病院で治療を受けているのはわずか9人だという。

2.高齢者のワクチン接種率が低い

上海は住民の4分の1近くが60歳以上という国内で高齢者率が高い地域のひとつだが、高齢者のワクチン接種率は低い。3月中旬時点でワクチンを接種した高齢者の割合は70〜79歳で82%、80歳以上で約51%だった。

中国の医療水準は経済成長とともに進歩しているが、包括的なインフラが確立されているとは言い難い。封鎖を解除して高齢者の入院患者が急増した場合、ただでさえ脆弱な医療システムが一気にひっ迫する可能性がある。

3.中国製不活化ワクチンは有効性が低い?

それに加えて、シノファーム(中国医薬集団)やシノバック・バイオテック(科興控股生物技術)などが開発した中国製不活化ワクチンは、その有効性を巡り懸念されている。つまり、一部の都市ではワクチン未接種の高齢者が多い上に、中国製のワクチンを接種している者も感染リスクが低くないということだ。

「感染病対策の世界的リーダー」を自負してきた中国としては、重症者増加による医療システム崩壊を何としてでも回避し、中国製ワクチンの有効性に対する否定的な評価を挽回したいというのが本音とも考えられる。

4.政権3期続投への影響

おそらく習近平政権が最も懸念しているのは、今年秋に開催が予定されている与党共産党の全国代表大会(通称党大)への影響だろう。

党大会は5年に1回開催される、実質的な最高意思決定機関である。2018年の憲法改正により、2期10年と定められていた国家主席・副主席の任期制限規定が撤廃された。そのため、今回の党大会の焦点が習近平国家主席の異例の3期続投となることは確実だ。

経済の減速や米中対立が不安材料となっているところへ、ゼロコロナ政策解除により感染者がさらに拡大した場合、3期続投の地盤が揺らぐことも起こり得る。

ゼロコロナ政策継続は習政権にとって大きな賭け?

中国政府は自国のコロナ対応について、「民主党の優れた統治能力を象徴している」と主張している。しかし、強硬な規制に対する国民の不満の声が高まっている今、ゼロコロナ政策の継続は習政権の続投を賭けた正念場ともなるだろう。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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