2022年3月10日、世界最大のNFTデータベース「NonFungible.com」が2021年度のNFT調査レポートを公開。デジタル市場の分析を行う企業「L’Atelier BNP Paribas」と共同でリリースしたレポートは、全188ページにわたって、データとインタビューをもとに1年間のNFTの動向を伝えている。
本記事では、アートに関わる部分を中心に内容を抜粋し、7つのポイントを紹介する。(為替レートは2021年の平均レートである1USD=111円で計算)
目次
1) NFT全体の取引高は、約200倍に増加
アート以外も含めたNFT全体の取引高は、2020年度には約91億円(8,200万ドル)だったが、2021年度は約2兆円(176億ドル)に。200倍以上の増加を見せた。
NFT取り引きの参加者数を示すアクティブウォレットの総数は、2020年の約89万が2021年には250万を超え、およそ2.8倍となっている。
買い手は230万人(前年7.5万人)、売り手は120万人(前年3.1万人)。いずれも大きく増加しており、NFT市場の活性化が進んでいることがわかる。
2) NFTアートの平均価格は約10倍に上昇
NFTアートの平均価格は、1年間で約10倍に跳ね上がった。2021年初頭には3.3万円(300ドル)前後だった価格が、8月頃のピーク時には111万円(1万ドル)を超えている。ピークが過ぎ、年末には33万円(3千ドル)前後に落ち着いた。
新規クリエイターの参入も増えており、流通しているNFTアートの質や価格には開きがある。平均価格は、高額で取り引きされる一部の人気プロジェクトによって押し上げられたものと考えられる。
3) NFTアートのコレクターは21万人以上
NFTアートの保有者は世界に212,579人、NFTアートに限ったアクティブウォレット数は148,124だった。幅広い層が参入している一方で、全体の取引額は一部のコレクターによる高額売買の影響によって引き上げられている。
特に有力なプロジェクト「CrpytoPunks」と「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」だけで、全体の取引量のおよそ3分の1を占めた。
また、取引数はプライマリー市場が6割近くを占めているが、取引金額で見るとセカンダリー市場が4分の3となっている。つまり、セカンダリー市場で取り引きされる作品の資産価値が圧倒的に高いということだ。
理由として、NFTアートの次の特徴が挙げられる。
新たにNFTに参入してくるアーティストによって、価値の低い作品が濫立している
4) NFTの平均的な保有期間が大幅に短縮
「転売されればされるほど価値が高まる」というNFTの特性もあって、ひとつのNFTを保有する期間が短くなる傾向にある。NFT全体では、2020年度には平均156日だったが、2021年度は48日に。NFTアートはさらに短く、33.3日だった。
NFTアートは大手オークションハウスでも取り扱われており、伝統的なアートのコレクターも参入し始めているが、投資目的で購入され傾向にある。
5) 転売による利益が損失を大きく上回る
NFTアートを転売した場合に赤字になるケースは比較的少ない。平均価格も上昇していた2021年8月から9月にかけて、一時的に大幅に増加したものの、基本的には低い水準で推移している。
ただし年末には黒字転売(オレンジの線)と赤字転売(青い線)が交差しており、転売によって利益が出るケースよりも損失が出るケースが多かったということになる。
累計利益は1,332億円(12億ドル)超で、累計損失の約180億円(1億5,300万ドル)を大きく上回った。この結果は、8月の著しい利益増加によるところが大きい。
6) NFT市場の取引高は伝統的なアート市場の16%
勢いのあるNFT市場だが、いわゆる「伝統的な」アート市場に比べると、それほど規模は大きくない。アートのトークン化のパイオニアであるArtoryのデータによると、伝統的なアート市場の取引高約1兆6,206億円(146億ドル)に対し、NFTアートは約3,108億円(28億ドル)で、およそ16%にすぎない。
なお、伝統的なアート市場の取引高のうち、およそ45%が戦後・現代アートであり、NFTもこのトレンドの一部であると考えられる。
ただし世界の有名美術館もNFTに乗り出すなど、今後NFTの評価が高まり、市場がさらに拡大していく可能性はある。
7) オークションハウスでの売上が全体の約10%
大手オークションハウスは、すでにNFTに参入している。NFTアート市場における売上のおよそ10%を3大オークションハウスが占めた。順調に存在感を増していると言っていいだろう。
内訳はクリスティーズが約166億円(1億5千万ドル)、サザビーズが約111億円(1億ドル)、フィリップスが約6.8億円(620万ドル)。
サザビーズは2021年10月、独自のNFTプラットフォーム「サザビーズ・メタバース」を開設した。専門家が選んだNFTコレクションを販売する、オークションハウス初の試みとなった。
レポートには、「サザビーズ・メタバース」の創始に関わったデジタルアート部門責任者、ミハエル・ブハンナ氏のインタビューが掲載された。(以下、一部抜粋)
――NFTと伝統的なアート市場のギャップを埋めることについて
従来のお客様も、熱心にNFT市場を理解しようとしています。そういったお客様に配慮しながら、NFTコレクターの大きな期待にも応える。それが私たちの挑戦です。
――「CryptoPunks」や「BAYC」など高額で取り引きされるNFTコレクションについて
「CryptoPunks」は純粋なアート作品です。歴史的な要素が付与されれば、その作品は“アート”という領域に入りますから。「BAYC」はもっと新しいですが、やはり当てはまりますよ。
――NFT市場と従来の現物美術品市場の違いについて
NFTは購入して消費するのも早いし、手放すのも一瞬。だから取引回数が増えるんです。たとえば世界最大規模のNFTマーケットプレイス「OpenSea」では、作品購入、代金引き落とし、受け取り、全てワンクリック。1分後には転売することもできます。
一方、従来の現代アート作品をギャラリーで購入するとしましょう。展示期間が終了するのを待って、1ヶ月、2ヶ月経ち、配送を手配するためのメールのやりとりがあって、ようやく作品を壁に掛けられる頃には3ヶ月が過ぎています。もう次に欲しい作品のことを考えていますよ。
NFTアートの契機となったのは、2021年3月に約76.9億円 (6,930万ドル) という高額で落札されたBeepleの《The first 500 days》。2020年から成長の兆しを見せていたNFT市場は、2021年、さらなる躍進を見せた。
一時期のバブルという声もあるが、2021年8月のピーク以降も市場は順調に成長しているようだ。いまや、従来のアートファンから投資家まで、幅広い層がNFTの今後に注目している。2022年にはどのような動きを見せるのだろうか。
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文:ANDART編集部
参考:https://nonfungible.com/news/corporate/yearly-nft-market-report-2021