コロナ禍の影響もあり早期退職者を募る企業が相次いでいる。もちろん企業の業績によるケースは多いがそればかりではないようだ。近年の早期退職、希望退職の状況を紹介する。
2021年・2022年(4月現在)の企業の希望退職状況
東京商工リサーチの調査によると上場企業では、2021年に84社が希望退職者を募集した。2020年には93社であったため少し改善したともいえるが、2年連続の80社越えはリーマンショック後の2010年の85件に次ぐ水準だ。募集人数は、公表している企業分を合わせただけで1万5,000人を超えている。
前年同時期に比べるとペースは緩やかになっているが、2022年に入ってからも希望退職者の募集は相次いでいる。募集人数を公表している主な企業を紹介しよう。
新型コロナや原材料価格などの影響を強く受け、経営体質の立て直しを目的に希望退職を募る企業も多い。しかし異なる目的で希望退職を募る企業も少なくないことが分かるだろう。そのひとつが偏った年齢構成を是正する目的で40~50代の社員の早期退職を募集する企業だ。これらの年齢層は、バブル期やその後に大量採用された社員たちである。
この年代層を少しでも減らしていきたい狙いが企業側にあるのだろう。
社会の変化に対応できる企業体制を整える目的も
本田技研工業やパナソニック、富士通のように変わりゆく社会のニーズに対応するべく構造改革を進めるために、社員の新陳代謝を図る目的で希望退職を募る企業も出てきている。
例えば自動車業界では、脱炭素化に伴う動きが加速している。中国や米国、日本など世界中でEVへのシフトの動きは早まっており、本田技研工業は30年までに世界で30種のEVを発売し、世界生産の4割にあたる年200万台の生産を目指している。そのためのEVや車載ソフトウエアの開発に10年間で5兆円を投じると発表した。このなかには開発費に加え、生産に対応できる人材にかかる費用も含まれる。
逆にいえば、EVや車載ソフトウエアの開発・生産に対応できない人材は希望退職してもらうということになる。パナソニックや富士通もDX(デジタルトランスフォーメーション)分野の事業強化に伴う人員構成見直しが一環となっている。
対象となる場合は受け入れるべきか
希望退職を募集する企業の多くは、退職金を通常よりも上乗せする。ちなみにフジテレビの早期退職者へは特別優遇加算金が支給され、その額は1億円とも1.5億円とも言われている。そのため現職のほかにやりたいことがある場合やキャリアに沿った転職が可能な場合は、希望退職制度にうまく乗るのもいいだろう。
しかし転職後の給料や肩書きを考えると現職に留まりたい人もいるかもしれない。希望退職に伴う転職後の賃金は、年齢が上がるにつれて前職よりも減少する傾向があり、管理職の経験が長い総合職型の社員で苦戦する人が多いのも実情だ。
自らキャリア形成に取り組み、受け入れ体制を整えることが必要
コロナや原材料価格といった影響は一過性のものかもしれない。しかしホンダやパナソニック、富士通のように社会の変化に伴う人員構成見直しは、今後もさらに増えることが予想される。「希望退職で他業種・他職種にキャリアチェンジする」「同じ企業に残る」、どちらを選択するにしても今と同じキャリアがいつまでも続くわけではない。
そういった覚悟を持って会社の内外で通用するスキルや知識を身につける必要があるだろう。社会人大学院などで学び直したり副業で本職以外の経験を積んだり、スキルを身につけたりするのも選択肢のひとつといえる。自発的に自分のキャリア形成に取り組み、希望退職の受け入れ体制を整えることも必要ではないだろうか。