公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)の集計によれば、2020年度のネット通販市場規模は前年度比20.1%増、経済産業省の発表したデータでも前年度比21.71%増となるなど、ネット通販の市場はここ数年大きな伸びを見せている。要因には、新型コロナウイルス感染症の拡大による巣ごもり需要などの影響も含まれるだろう。これが契機となり、人々の生活にネット通販が「ごく普通の買い物の方法」として根付いたことも大きな要因といえる。
ただし、ネット上に存在するすべてのECサイトの売上が二桁成長を遂げているわけではない。では市場が拡大しているにも関わらず、売上が伸びないECサイトにはどのような要因があるのだろうか?今回はECサイトの売上が上がらない3つの失敗要因と、その対策について解説していく。
目次
ECサイトの売上が伸びない3つの理由
売上が上がらないと悩んでいるEC(electronic commerce)サイトに共通する要因をまとめると、おおよそ以下の三つに集約できる。次章からはそれぞれに解決策について解説していくが、まずはそれぞれがどのような状況なのかを確認しておこう。
1.サイトへの流入数が少ない
そもそもECサイトへの訪問者が少ない状況がこれだ。どんなに魅力的な商品をお得感のある価格で揃えていても、サイトへの訪問数(セッション数)が少なければ売上が上がるわけはない。もし貴社のサイトがこのような状況であれば、サイトへの流入数を増やす対策が急務だ。
2.サイトからすぐ離脱してしまう
サイトへの流入数は十分あるのに、訪問者が買い物をせず、自社のサイトからすぐに離脱してしまう状況も売上が上がらない要因だ。これはグーグルアナリティクス(Google Analytics)などを使えば、「直帰率」や「離脱率」、「回遊率」というデータで確認することができる。直帰率とは、サイト内のページ(通常はランディングページ)に訪問したユーザーが他のページに移動することなく、すぐにサイトを離れてしまった割合を表す。この数値(パーセンテージ)が高いことを直帰率が高いという。
離脱率はユーザーが最初に訪問したページでなくとも、そのページを最後にサイトから離れた確率だ。つまり直帰率とは、最初にユーザーが訪問した時点で興味を示さなかったことを、離脱率とはユーザーが興味を失ったページ自体を表していると考えれば良い(離脱率の高いページ、などという使い方をする)。
回遊率とは、ページ単体ではなくサイト全体で計測する数値だ。サイトを訪問したユーザーが、サイト内をどの程度見て回った(回遊した)かのパーセンテージだ。
これらは簡単にまとめると、以下のようなサイトの状態を表す数値となっている。
・直帰率が高い:ランディングページ(ユーザーが最初に訪問したページ)に魅力がない
・離脱率の高いページ:そのページに魅力がない
・回遊率が低い:サイト全体に魅力がない
3.客単価が低い
客単価とは、一人のユーザーが一回の訪問で購入する商品の合計価格を表す。単純に1つの商品の単価が高い/安いということではなく、ネットスーパーなどでは一回の訪問でどれだけまとめ買いをしてもらうかで客単価が決まる。そのサイトに訪問するユーザー数がほぼ一定ならば、客単価を上げることによって売上は伸びることになる。
このようなECサイトの売上が伸びない理由(要因)は、どのように解決していけば良いのだろうか?次章からはその対策について解説していく。
ECサイトへの流入数を増やす
先述したように、どんなに魅力のあるECサイトであっても、その存在をユーザーに知ってもらい訪問してもらわねば売上は上がらない。ここではサイトへの流入数を増やす3つの対策について解説する。
1.SEO対策
サイトに訪問してくるユーザーは、GoogleやYahoo!といった検索エンジンを使って欲しいものや情報の載っているサイトを見つけることが多い。このように検索サイトを使うユーザーを、自社のECサイトに導く有効な手段がSEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)対策だ。
検索エンジンは、クローラーと呼ばれる巡回プログラムを使って定期的にインターネット上の情報を収集する。このクローラーに効率よくサイトの情報を見つけさせ、検索結果の上位に自らのサイトを表示させることをSEO対策という。検索エンジンのアルゴリズム(情報を収集しランキングする手順)は常に変化しているため、SEO対策を専門とする会社などに相談しながら、自社のECサイトが上位検索されるようにサイトの構成などを調整していく必要がある。
2.ネット広告の利用
検索結果のページ、msnやYahoo!などのポータルサイト、ウェブメディア、SNS、無料アプリなどに表示されている広告をネット広告という。検索エンジンなどで検索上位にならなくとも、広告料を支払えば自社のサイトや扱っている商品をユーザーにアピールでき、クリックしてもらえればサイトに誘導できる。広告の表示回数やクリック数などで広告料は変化し費用はかかるが、流入数を増やすには着実な方法といえる。
3.オムニチャネルの活用やSNSとの連携
オムニチャネルとは、インターネット上のチャネル(ユーザーとの接点)だけでなく、実店舗やイベントなどのオフラインチャネルも使うマーケティング手法を指す。メールやスマホのアプリ、ポータルサイト、SNSなどのオンラインチャネルから実店舗にユーザーを誘導し、そこで売上を上げることもECサイトの売上を上げることと同じ意味を持つ。要はオンラインとオフラインの境界をなくし、ユーザーの利便性を上げる購買方法を提供することが売上の向上につながるのだ。
ECサイトの魅力を上げるには?
直帰率や特定ページの離脱率が高い、サイトの回遊率が低いということは、ひと言でいえばサイトに魅力がない、ということだ。もしくは検索サイトから訪問したユーザーの目的とする情報が置かれていないなど、ユーザーの期待に応えていないサイトともいえる。このような事象を解決するには、ユーザーの期待に反しないサイト作りが重要になる。
1.商品構成の見直し
直帰率が高いということは、ユーザーが検索したKW(キーワード)と訪問したページの内容が合っていないということだ。これがECサイトであれば、検索KWと商品が合致していないか、価格が希望に合わなかった可能性が高い。先述したグーグルアナリティクスには、サイトを訪問したユーザーがどのようなKWを検索したかを分析するツールが実装されている。このような機能を使ってユーザーの検索KWを確認し、商品構成の見直しや商品の価格が適正かどうかを調査することが直帰率を下げることにつながる。
2.UIを工夫する
離脱率の高いページを分析すると、住所やカード番号を記入したり、購入条件を確認したりするページであることが多い。つまり購入までに手間がかかることや、いくつものページを移動させられる(これをページ遷移という)ことをユーザーは嫌うのだ。
これを解決するには、カゴからレジまでの購入手続きをシンプルにするなどしてユーザーの手間を省くこと、商品の写真を多くし、購入までの説明はシンプルにするなどUI(User Interface)を工夫することが必要になる。
客単価を上げる
ここでは、サイトに訪問してきたユーザーの客単価を上げる方法を解説していく。また一回の訪問での単価を考えるだけではなく、ユーザーにリピーターとなってもらいLTV(Life Time Value : 顧客生涯価値)を上げる4つの方法も合わせて紹介しよう。
1.クロスセル
クロスセルとは、訪問したユーザーに購入した商品以外の商品を「併せて買ってもらう」ことだ。実店舗での例を挙げるなら、車を購入したユーザーにメーカーのロゴが入った洗車セットを同時に勧めることや、スーパーのレジ前にちょっとした和菓子を置き、同時購入を促す場合などがクロスセルにあたる。
ECサイトであれば、デジタルカメラを購入したユーザーにメモリーカードやカメラバッグを勧めることなどがクロスセルとして考えられるだろう。Amazonなどでは、該当する商品を購入したユーザーが、購入後によく閲覧する商品を必ずWebに表示している。
2.アップセル
アップセルとは、ユーザーが希望する商品よりさらに高い商品を勧めて買ってもらうことだ。上記の車の例を引用するなら、ユーザーが検討しているグレードの車より上位の車種を、メリット(性能やリセールバリュー等)を強調して購入してもらうことがアップセルに該当する。ECサイトでいえば、ユーザーが検索した該当製品と並べて、常に上位の機種も表示するように工夫することなどがアップセルの手法だ。
3.ユーザーをファンにする
ここからはユーザーをリピーターに変える工夫を説明していく。たとえ客単価の低いユーザーでも、何回も自社サイトに来訪し買い物を続けてくれるならそれはとても優良なユーザーだ。このようなユーザーをリピーターというが、ユーザーがリピーターになるにはそのサイトのファンになってもらう必要がある。
たとえばメルマガの配信やSNS(公式ページ)での交流を通してユーザーに有益な情報を伝えるなど、双方向のコミュニケーションはユーザーのロイヤルティ(忠誠度)を醸成する。加えて以下のようなイベントを定期的に開催し、リピーターを増やしていくのが一般的な手法だ。
4.キャンペーンの実施
ECサイトの会員になってもらったユーザーに限定してキャンペーンなどを開催すれば、特別感を与えることができ、ユーザーのロイヤルティはさらに向上する。メルマガでクーポンを発行してキャンペーンに誘導し、特別割引やポイント制度などを併用してファンを増やす施策を行うのだ。
ECサイト売上アップの成功事例
最後に、ECサイト売上アップの成功事例について紹介しておこう。
ユニクロ
ユニクロは、実用的な衣料品の製造・小売を日本や世界各地で展開するアパレル企業だ。特に日本国内の店舗については、ECサイトと連携したオムニチャネルを採用し売上のアップにつなげている。
ECサイトと実店舗の一番の違いは、販売に際して送料があるかないかだ。ユニクロは実店舗の優位性をECサイトの優位性と組み合わせ、この弱点を解消してユーザーの利便性を向上させている。ユニクロのECサイト(ユニクロ公式オンラインストア)では、一回の注文で商品代金の合計が4,990円以上になった場合、送料が無料となる。ただし自宅までの配送ではなくユーザーが指定した店舗での受け取りにすれば、4,990円未満でも送料が無料となるのだ。自宅近くにユニクロの店舗がなければ勤務先の近くなど、受取店舗の指定は自由にできる。
またユニクロでは店舗の在庫とECサイトの在庫は別になっていて、店舗で在庫切れになった商品でもECサイトでは販売している、という場合が往々にしてある。ユーザーは実店舗で品切れしている場合には、スマホなどからECサイトにアクセスし在庫があればすぐに注文することができるのだ。ユニクロはオムニチャネルの特長を最大限に活かし、現在も売上を拡大し続けている。
ECサイトの成功には継続的な改善が不可欠
今回はECサイトの売上が伸びない3つの理由とその対策を紹介したが、それぞれの理由はお互いが影響し合っていることがほとんどだ。1つの対策を徹底的に実施したからといって、その効果はすぐにでるものではない。試行錯誤を繰り返し、その効果を確認しながら着実にECサイトの改善を続けていこう。
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