1970年代にニューヨークから始まり、世界へと発展を遂げたストリートアート。その退廃的なイメージから、ギャングスターだったり治安の悪さの象徴だったりと、あまり良いイメージを抱かない人もいるのかもしれない。しかし、ジャン=ミシェル・バスキアキース・ヘリングバンクシーといった人気アーティストの活躍によりストリートアートはごく身近なものへと変化し、アート市場においても多くのコレクターから愛されている。そんなストリートアートを集めるべき適切な時期が「今」だと言われている。

グラフィティとストリートアートの違い

まずは、よく混同される「グラフィティ」と「ストリートアート」の違いを簡単に見ていこう。アート業界では一括りにストリートアートと呼ばれているが、厳密にはそれぞれ違う特徴がある。

初めにグラフィティは、日本語で“落書き”という意味で「文字」を形成することを前提にしたテキストベースのアートのこと。初期の時代は、ライターが「タグ」(自分の名前、または集団の名前)を残していくことが主な目的とされていたが、徐々に使われる色数が増えたり、より細密に書き込まれたりして独自の芸術性が磨かれていった。パンク・ロックやヒップ・ホップミュージックと深い関わりを持つ。

バスキアとバスキアの友人アル・ディアスのタグ「SAMO©︎」
(画像=バスキアとバスキアの友人アル・ディアスのタグ「SAMO©︎」)

出典:https://www.dazeddigital.com/

一方でストリートアートは、社会的・政治的などの「メッセージ性のある壁画」のこと。とりわけバンクシーのようなストリートアーティストは、美術館やギャラリーのような限定的な空間ではなく、多くの人の目に触れる街中に作品を残して人々に訴えかけ、意識の変化をもたらすことを目的の一つとしている。そのためストリートアートはアクティビズムとの結びつきが深く、「なぜその場所なのか?」「なぜその建築物なのか?」といった空間も含めて、作品に込められたメッセージを読み解く魅力がある。

手前の廃材を利用したバンクシーの壁画《We’re all in the same boat》(2021)
(画像=手前の廃材を利用したバンクシーの壁画《We’re all in the same boat》(2021))

出典:https://indianexpress.com/

アート市場におけるストリートアート

ストリートアートへの理解が深まってきたのは、1980年代のアメリカでバスキアやヘリングが頭角を表し始めてから。そして1990年頃にイギリス・ブリストルでバンクシーが活動を開始した。

アート市場の情報を提供するArtpriceの創立者ティエリー・アーマンによると、「ストリートアート市場は15年かけて整備され、ようやく成熟期に入ったところ」だという。スター・アーティストの誕生に始まり、オークションで記録的な落札価格がついたマスターピース、手頃な価格から高値のつく貴重なものまで、あらゆる価格レベルで需要を満たすことのできる多くのエディション作品が市場を形成している。

Artpriceが発表した2020/21年の現代アート市場レポートによると、同年欧米で開催されたオークションで最も売上の高かった現代アーティストの1位がバスキア(2億6,760万ドル/約307.7億円)、2位がバンクシー(1億4,720万ドル/約169.3億円)だった。

ジャン=ミシェル・バスキアIn this case
(画像=ジャン=ミシェル・バスキアIn this case)

2021年のオークションで2番目に高額で落札されたバスキアの《In This Case》(1983)
出典:https://www.bloomberg.com/

欧米は、同年の現代アートオークション売上高の国別シェアの半分以上(※1)を占め、アート市場の骨組みとも言える集合体。そのトップ2をストリート出身のアーティストが占めた結果から、ストリートアートがどれだけ需要があるのかは容易に想像できる(ちなみに3位はNFTで話題をさらったBeeple)。成熟期に入ったストリートアートは、アート市場全体にインパクトを与える実績を着々と残しているのだ。

なぜ「今」なのか?

それでは、なぜ今ストリートアートを集めるべきなのだろうか?マイアミにあるグラフィティを専門とする「ミュージアム・オブ・グラフィティ」の共同設立者アリソン・フレイディン氏によると、それは「まだ歴史が浅いから」だと言う。

例えば、クロード・モネらの印象派に続きフィンセント・ファン・ゴッホらの後期印象派、パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックを創始者とするキュビスムなどを含めた近代美術は、アート市場を支える大きなファクターとして寄与しているが、長い年月をかけて“既に”完成されたジャンルとも言える。

その一方で、ストリートアートはどうだろうか?フレイディン氏は、「私たちが生きている間に始まった唯一のジャンルであり、コレクターにとっては、ムーブメントの創始者たちが生きているうちに参入するチャンスがあるのです」と語る。

ダミアン・ハーストは学生だった1981年、アーティスト仲間たちとグループ展「Freeze」を開催した際に、後のスポンサーとなる著名アートコレクターのチャールズ・サーチに才能を見出されたことをきっかけに現在の活躍に至っている。アーティストの芽が咲くのは、あるコレクターに見出されてから、というケースが非常に多いのがアート業界。コレクターたちはその審美眼でアーティスト、または作品の将来性を見抜き、サポートすることに力を注いでいる。アーリーアダプター(※2)となって、一つの時代の始まりに立つことはコレクター冥利に尽きると言えるのではないだろうか。

「Freeze」のオープニングパーティー。左から2番目がダミアン・ハースト
(画像=「Freeze」のオープニングパーティー。左から2番目がダミアン・ハースト)

出典:https://www.phaidon.com/

自分が生まれてから始まり、また自分が生きている間にもさらなる発展を遂げている。その発展をさらに切り拓いていく最前線に立てるのがストリートアートだ。今後、バスキアやバンクシーに続く新たな新生アーティストの登場も期待され、大きな可能性を秘めているアートに参加してみてはいかがだろうか。

ANDARTで現在取り扱い中のストリートアートは、バンクシー(8作品)、KAWS(2作品)、バスキア(1作品)です。是非気になる方は下のボタンから取り扱い作品一覧をご覧ください。

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文:ANDART編集部

(※1)国別シェア内訳(中国40%、アメリカ32%、イギリス16%、フランス2.2%、ドイツ1.7%、その他8%)(2020/21年の現代アート市場レポートより) (※2)新しいサービスや商品、ライフスタイルに敏感で、比較的早い段階で取り入れて他のユーザーへ影響を与える人のこと

参考URL
https://www.prnewswire.com/news-releases/artprice-by-artmarketcom-condition-of-the-street-art-market-worldwide-301155799.html
https://news.artnet.com/buyers-guide/museum-of-graffiti-street-art-2066143