セブンやモスの成功を支えた”事業ドメイン”の重要性とは?
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経営戦略を立てる工程のなかでも、事業ドメインの設定は特に悩まされやすい。そこで今回は設定の目的やメリット、方法、活用できるフレームワークなど、事業ドメインに関する基礎知識をまとめた。成長を目指している企業は、ぜひ最後まで読み進めてほしい。

目次

  1. 事業ドメインとは?設定する主な目的
    1. 事業ドメインを設定するメリット
    2. 事業ドメインと経営理念の違い
  2. 事業ドメインを設定する方法
    1. 【STEP1】現状の把握
    2. 【STEP2】大まかな方向性の設定
    3. 【STEP3】事業ドメインの設定と検証
    4. 【STEP4】役員への説明と承認
    5. 事業ドメイン設定に役立つCFTフレームワークとは?
  3. 最適な事業ドメインを設定する2つのポイント
    1. 1.将来性のあるものを積極的にとり入れる
    2. 2.全社で共有することを前提に設定する
  4. 事業ドメインの成功例と失敗例
    1. 【事例1】モノではなく「便利」の提供/セブンイレブン
    2. 【事例2】利益よりも顧客満足度を追求/モスフードサービス
    3. 【事例3】動き出しの遅れが致命的なダメージに/フィルムメーカー A社
  5. 成長を目指す企業にとって事業ドメインは欠かせないもの
  6. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

事業ドメインとは?設定する主な目的

事業ドメインとは、企業が経済活動を行っている事業領域のことである。分かりやすく言えば「どの業界でどんな商品・サービスを展開するか?」を明確にしたものであり、事業ドメインを設定すると自社の本業やコア事業が分かりやすくなる。

企業が事業ドメインを設定する目的は、より効果的な経営戦略を立てるためだ。事業ドメインを設定すると、自社の目指すべき姿や目標などが明確になるので、効率的な成長を実現させやすくなる。

事業ドメインを設定するメリット

事業ドメインを設定すると、企業には以下のようなメリットが発生する。

・一貫性のある経営体質を築ける
・事業の多角化を目指しやすくなる
・コア事業に経営資源を集中できる
・競合他社やターゲット層が明確になる
・商品価格を上げやすくなる

上記のうち「商品価格を上げやすくなる」という点に関しては、少しイメージが湧きづらいかもしれない。

例えば、事業ドメインの設定によってターゲット層が明確になると、提供すべき商品・サービスや的確なアプローチ方法などもはっきりとする。つまり、高品質な商品・サービスを提供することにつながるので、その結果として顧客からの評価が高まり、自社のブランド力を価格に反映させやすくなる。

このように、事業ドメインを設定すると多くのメリットが発生するため、後述で解説する設定方法までしっかりと読み進めてもらいたい。

事業ドメインと経営理念の違い

予備知識として、事業ドメインと経営理念の違いについても理解しておこう。

経営理念とは、会社が目指すべき理想の姿を言語化したものだ。事業ドメインと同じく経営の軸となるものだが、事業ドメインと経営理念は設定する目的が大きく異なる。

・事業ドメイン…事業展開や規模拡大など、今後の経営戦略を立てるために設定する。
・経営理念…会社や従業員の進むべき方向性をはっきりとさせるために設定する。

つまり、経営理念はあくまで会社・従業員の行動指針であり、基本的には事業領域などの細かい部分までは設定しない。場合によっては事業ドメインと経営理念がほぼ同じ内容になることもあるが、ビジネス用語としては異なる意味をもっているため、混同しないように注意しておこう。

事業ドメインを設定する方法

事業ドメインの設定には準備が必要であり、準備不足の状態で作業を進めると経営戦略に活かすことが難しくなる。ここからは基本的な設定方法をまとめたので、ひとつずつ丁寧に確認していこう。

【STEP1】現状の把握

まずは改善したい経営体制や事業などに関して、現状を把握するところから始める。例えば、「どんな課題を抱えているか?」や「どういった強み・弱みがあるか?」などを改めて分析すると、将来性や業界内でのポジションを見極めやすくなる。

また、大きな変革を実現したいのであれば、自社の経営理念などを再定義することも必要だ。目指している企業像を意識しながら、自社が置かれている現状を慎重に分析していこう。

【STEP2】大まかな方向性の設定

次のステップでは、競合の存在や自社の強みなどを意識しながら、事業ドメインの大まかな方向性を決めていく。まず決めておきたいポイントは、「どの市場で事業ドメインを設定するか?」という点だ。

例えば、すでに参入している市場と新しい市場とでは、設定すべき事業ドメインが変わってくる。中心となる市場を決めたら、事業内容や展開エリアなどの細かい部分を煮詰めていこう。

【STEP3】事業ドメインの設定と検証

事業ドメインを煮詰める作業では、以下の3つを重点的に考える必要がある。

事業ドメインとは? その意味や目的、設定方法のポイントを事例つきで解説

ここまで進めば事業ドメインの大部分を設定したことになるが、設定後には入念な検証が必要だ。将来も踏まえて「どのような効果を得られるのか?」を分析することで、修正すべきポイントや漏れている部分が見えてくる。

もしこれらの不備が見つかったら、【STEP1】【STEP2】で決めた内容も振り返りながら、事業ドメイン全体を丁寧に見直そう。

【STEP4】役員への説明と承認

事業ドメインは設定がゴールではなく、社内の理解を得て上手に運用していく必要がある。そのため、設定が完了したら取締役会を開催し、役員からの承認を得なくてはならない。

承認作業では一方的に意見を押し付けるのではなく、周りの意見もとり入れながらブラッシュアップしていくことが重要だ。経営資源の確保にも関わる部分なので、丁寧に説明をしながら話し合いを進めていこう。

事業ドメイン設定に役立つCFTフレームワークとは?

CFTフレームワークとは、前述の「顧客・技術・機能」の観点から事業ドメインの範囲を見極める分析手法のことだ。例えば、【STEP2】~【STEP3】で以下のような分析を行うと、理想的な事業ドメインの全体像をつかみやすくなる。

事業ドメインとは? その意味や目的、設定方法のポイントを事例つきで解説

上記は簡易的な例であり、実際の分析では各要素をさらに細分化していく。業界動向や市場の変化なども踏まえて分析をすれば、より質の高い事業ドメインを設定できるだろう。

最適な事業ドメインを設定する2つのポイント

事業ドメインの設定時には、以下で紹介する2つのポイントも強く意識しておきたい。

1.将来性のあるものを積極的にとり入れる

事業ドメインは実現性も重要ではあるが、参入のハードルを意識して新しいものを避けると、成長の機会を失ってしまう恐れがある。そもそも、事業ドメインは会社の成長のために設定するものなので、「将来性のあるもの」は積極的にとり入れたい。

特にCTFフレームワークにおける「機能」「技術」に関しては、成長の余地があるものをとり入れることが重要だ。また、企業を取り巻く環境は日々変化していくため、事業ドメインは定期的に見直すことも必要になる。

2.全社で共有することを前提に設定する

設定した事業ドメインを経営戦略へと活かすには、すべての従業員が同じ方向を向く必要がある。つまり、従業員に浸透させてこそ効果が表れるので、事業ドメインは「全社での共有」を前提に設定しなければならない。

最初からこの点を意識しておくと、従業員の優れたアイデアをとり入れることにもつながる。また、現場の負担や実現性なども考慮しやすくなるため、前述の【STEP1】の段階で全社に共有することを意識しておこう。

事業ドメインの成功例と失敗例

事業ドメインを設定するコツやポイントは、実際の成功例・失敗例からも学べる。ここでは3つの事例をまとめたので、自社の状況と比較しながら参考にしてみてほしい。

【事例1】モノではなく「便利」の提供/セブンイレブン

国内の代表的な成功例としては、大手コンビニチェーンの『セブンイレブン』の事業ドメインが挙げられる。コンビニと言えばさまざまなモノを販売するイメージが強いが、同社は事業ドメインとして「便利を提供すること」を設定した。

この事業ドメインの通り、セブンイレブンは荷物の受け取りやATM、公共料金の支払いなど、利便性の高いサービスを次々と生み出している。駅前などのアクセスが良い場所に店舗が多い点も、同社の売上に大きく貢献しているポイントだろう。

このセブンイレブンのような成功を収めるには、固定観念にとらわれず事業ドメインを見直すことが重要になる。

【事例2】利益よりも顧客満足度を追求/モスフードサービス

全国でハンバーガーチェーンを展開する『モスフードサービス』も、斬新な事業ドメインの設定によって成功を収めた企業である。日本国内では低価格帯のハンバーガーチェーンが人気を集めているが、同社はあえて「安心・安全・高品質」という方向に舵を切ることで、他店との差別化を実現した。

この思い切った事業ドメインが功を奏し、今やモスバーガーは満足度の高いファーストフード店として人気を集めている。会社を成長・存続させる上では、利益だけではなく顧客満足度を高める努力も必須になるため、モスフードサービスのこういった姿勢はぜひ参考にしたい。

【事例3】動き出しの遅れが致命的なダメージに/フィルムメーカー A社

主に写真フィルムを製造していたA社は、かつて世界トップクラスのメーカーとして知られていた。しかし、撮影機器のデジタル化によって写真フィルムの売上が下がり、コア事業の売上が大きく減ってしまう。

A社は事業ドメインを再定義する必要性に迫られたが、なかなか新たな事業には乗り出そうとしなかった。結局、動き出しの遅れが致命的なダメージにつながり、最終的にA社は倒産をしてしまった。

この事例のように、リスクを意識しすぎるあまり新しいものを拒むと、市場の変化についていけなくなる恐れがある。

成長を目指す企業にとって事業ドメインは欠かせないもの

成長を目指す現代企業にとって、いまや事業ドメインの設定は欠かせないものだ。設定に手間はかかるが、明確な事業ドメインがあると経営資源を投下すべきビジネスや、会社の正しい方向性などを見極めやすくなる。

これまで事業ドメインが曖昧になっていた企業は、本記事を参考にしながら最適な事業ドメインを設定していこう。

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文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)

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