企業が意思決定を下す手段としては、ボトムアップとトップダウンが有名だ。今回はこれらの違いやメリット・デメリット、それぞれに適した企業などをまとめた。2つの方法の組み合わせ方も解説しているので、体制を見直したい経営者はぜひ参考にしてほしい。
目次
ボトムアップとは?
ボトムアップとは、企業の下層部が意見やアイデアを出し、その提案を上層部が吸い上げる方式の意思決定手段である。ここで言う下層部とは主に現場のことであり、ボトムアップ型の企業では現場のメンバーや従業員に多くの裁量が与えられる。
○ボトムアップのイメージ
ボトムアップ型は事業の多様化や経営人材の育成に適していることから、近年では成長局面に入っている企業などから注目されている。
ボトムアップとトップダウンの違い
一方で、経営者などの上層部が提案・意思決定をする方法は「トップダウン」と呼ばれている。
○トップダウンのイメージ
上図を見るとわかるように、トップダウン型の企業では提案などの承認作業が必要ない。経営者が会社全体の方向性を決め、その内容が「命令」や「指示」といった形で下層部に伝えられるため、ボトムアップ型に比べると意思決定のスピードが速くなる。
したがって、トップダウン型は経営者にカリスマ性がある企業や、早期の成長が必要なベンチャー企業などに多く採用されている。
ボトムアップを採用する3つのメリット
トップダウンに比べると意思決定のスピードは落ちるものの、ボトムアップにもいくつか魅力的なメリットがある。その中でも、以下では経営者が特に押さえておきたいメリットを紹介する。
1.現場の状況を反映しやすい
ボトムアップ型の企業では、常に現場の状況を反映した意思決定を下しやすくなる。現場の課題をスピーディーに解決できるだけではなく、わずかな変化にも気づけるため、深刻なトラブルを防ぐことにもつながるだろう。
企業の事業活動を支えるのはあくまで現場であり、上層部が商品やサービスを提供しているわけではない。したがって、ボトムアップ型によって現場の声を拾えるようになると、商品・サービスの品質も向上させやすくなる。
2.主体性のある従業員を育てられる
下層部が積極的に意見できる企業では、主体性のある従業員が育ちやすくなる。さらに、従業員の立場からすると自分の意見が会社を動かすことになるため、なかにはモチベーションが向上する従業員も現れるはずだ。
また、下層部が気軽に意見できるような環境を整えれば、近年注目される「働き方改革」や「ハラスメント防止」にもつながる可能性がある。
3.斬新なアイデアが生まれやすくなる
トップダウンに比べると、ボトムアップは提案をする人数が圧倒的に多い。そのため、ボトムアップ型の企業は良いアイデアが生まれやすく、イノベーションを実現できる可能性も高いと言われている。
ただし、ボトムアップ型によってイノベーションを生み出すには、下層部にも優秀な人材を集めることが必要だ。採用活動や人材育成の方向性によっては、アイデア全体の質が下がってしまうので注意しておきたい。
ボトムアップには注意すべきデメリットも
一方で、ボトムアップには以下のようなデメリットも潜んでいる。
1.意思決定に時間がかかる
前述の通り、ボトムアップ型の企業では提案を承認するための作業が必要となるため、意思決定のスピードが遅くなる。もし適切なタイミングでの投資判断が遅れた場合は、大きなビジネスチャンスを逃してしまうこともあるだろう。
また、設備トラブルや自然災害などの際にも、意思決定の遅れは致命的なダメージにつながる。
2.思い切った改革ができなくなる
基本的に下層部の従業員からは、会社に大きな変革をもたらすようなアイデアは生まれにくい。そもそも、業務内容の変化を望んでいない従業員も存在するため、ボトムアップ型の企業では思い切った改革は実現しづらいだろう。
また、現場に多くの裁量を与えていたとしても、すべての従業員が自由に発言できるとは限らない。自らの立場を意識して委縮する可能性もあるので、ボトムアップ型の企業では上下の人間関係や企業文化などにも目を向ける必要がある。
3.従業員の能力や意志に左右される
前述でも触れたが、ボトムアップ型の経営を成功させるには、とにかく優秀な人材を集めることが必要だ。もし従業員の提案能力が不足していると、会社が間違った方向に進んでしまう恐れがある。
また、従業員によっては会社の成長のためではなく、自らの業務負担を減らす目的で提案をする場合もある。したがって、ボトムアップの採用前には従業員の能力を把握し、意思確認のためのコミュニケーションにも力を入れなくてはならない。
ボトムアップとトップダウンはどちらが優れている?メリット・デメリットの比較
ボトムアップとトップダウンに優劣はなく、どちらにも一長一短がある。つまり、会社の状況によって適した意思決定手段は異なるので、ボトムアップ・トップダウンの違いは正しく理解しておくことが重要だ。
具体的にどのような違いがあるのか、以下でメリット・デメリットを比較してみよう。
トップダウン型の最大のメリットは、意思決定のスピードが速い点にある。承認作業を挟まずに会社の方向性を決められるため、緊急事態やトラブルなどが発生しても迅速に行動できる。
ただし、トップダウン型ではカリスマ性のある経営者が必要になるため、世代交代を機に経営が傾くリスクもある。また、主体性のある従業員が自然と育ちにくいので、採用活動や人材教育に工夫をとり入れる必要があるだろう。
ここまでをまとめると、ボトムアップ・トップダウンはそれぞれ以下のような企業に適している。
どちらを選ぶべきか迷っている企業は、上記を参考にしながら自社の現状をチェックしてみよう。
ボトムアップ型の経営を成功させるポイント
どちらの意思決定手段にもメリット・デメリットがあるため、導入前には環境づくりが欠かせない。では、ボトムアップ型の経営を成功させるには、どのようなポイントを意識すれば良いだろうか。
経営トップが責任をもつ
ボトムアップを機能させるには、従業員が伸び伸びと意見できる環境づくりが必要だ。責任を求めると従業員が委縮する恐れがあるため、どのような意思決定でも経営トップが責任をもつようにしたい。
このような仕組みを作れば、業績を大きく左右するような意思決定であっても、現場から多様なアイデアが生まれやすくなる。
どのような内容でも意見を潰さない
現場からの声を承認要求する際に、経営者や上司がその意見を潰してしまうケースは珍しくない。特に経験が少ない新入社員や、非正規労働者の声は潰されがちだろう。
すべてを受け入れる必要はないが、ボトムアップ型ではどのような意見でも尊重する姿勢が重要になる。例えば、経験不足を理由にスタッフの意見を潰すと、意思決定を下すのはベテラン社員や上司となるため、トップダウン型寄りの仕組みになってしまう。
提案を採用するかどうかは後でも決められるので、まずは現場の声をしっかりと聞く態勢を整えよう。
従業員が挑戦できる企業文化をつくる
ボトムアップを導入しても、すぐに優れたアイデアや企画が生まれるわけではない。提案や意見にもスキルがあるため、従業員の失敗を受け入れながら、長い目で能力を伸ばしていく覚悟が必要だ。
ただし、会社の経営が傾くような失敗については、未然に防がなければならない。そのため、従業員個人で判断させるのではなく、うまく機能するチーム・組織も構築する必要があるだろう。
ボトムアップ・トップダウンの組み合わせも選択肢のひとつ
ボトムアップ・トップダウンにはそれぞれ強みと弱みがあるため、可能であればシーンに合わせて使い分けることが望ましい。例えば、迅速な意思決定が求められるシーンではトップダウンを、現場を改善したい場合はボトムアップのように使い分ければ、理想により近い体制を築ける。
実は、ボトムアップとトップダウンを組み合わせた方法はすでに存在しており、この方法は「トップダウンデモクラシー」と呼ばれている。どのような手順で意思決定を下すのか、基本的な流れを以下で紹介しておこう。
【STEP1】上層部による提案
まずは、経営者などの上層部がプロジェクトなどに関するアイデアを出す。ただし、そのまま指示をするだけではトップダウンと同じであるため、トップダウンデモクラシーでは「変化の必要性」を訴えることが重要だ。
従業員に変化の必要性が伝わると、社内全体が現状に危機感をもつようになり、新たなプロジェクトや変革を進めやすくなる。
【STEP2】下層部によるプロジェクトの推進
次のステップでは、上層部から伝えられたプロジェクトを下層部が推進する。現場が中心となって試験運用を行えば、本格的な運用の前にリスクや課題などを見つけやすくなる。
ここではより多くのリスク・課題を見つける必要があるため、事前に以下のような体制を築いておくことが望ましい。
・さまざまな立場や部門の従業員を集めておく
・各従業員の役割を明確にする
・積極的に課題解決に取り組めるような環境を用意する
例えば、各従業員に十分なリソース(資金や設備など)が与えられていない場合は、積極的な課題解決が難しくなってしまう。少しでも多くの課題・リスクを見つけることが将来の成功につながるので、準備にかける時間やコストは惜しまないように意識したい。
【STEP3】上層部による意思決定
下層部(現場)から課題解決に関する提案が届いたら、その内容をもとに上層部が最終的な意思決定を下す。ここで意識しておきたいポイントは、現場の意思をできるだけ反映させることだ。
上層部が独断で最終決定をすると、トップダウン型と変わらない企業体質になってしまう。トップダウンデモクラシーのメリットは、上層部・下層部の提案をバランスよく反映できる点なので、現場の意思をくみ取りながら最終決定を下すことを心がけたい。
なお、上層部・下層部のやり取りが多いトップダウンデモクラシーは、ボトムアップに比べても意思決定のスピードが遅い。つまり、緊急性が求められるシーンには適していないため、その点に注意しながら導入する範囲を検討しよう。
最適な意思決定手段はシーンによって変わる
企業が意思決定をする方法は、大きく「ボトムアップ」「トップダウン」「トップダウンデモクラシー」の3つに分けられる。いずれの方法にもメリットとデメリットがあるため、意思決定の流れは一律で固定すべきではない。
最適な意思決定手段はさまざまな要因によって変わってくるので、シーンに合わせてうまく使い分けることを心がけよう。
ボトムアップとトップダウンのよくある質問集
自社に適した意思決定手段を選ぶには、ボトムアップ・トップダウンの基礎を理解しておく必要がある。ここからは経営者が気になるポイントを中心に、ボトムアップ・トップダウンの質問集をまとめた。
Q1.ボトムアップの特徴やメリットは?
ボトムアップ型の特徴は、現場の声を経営に反映させやすい点である。顧客対応やサービス提供をするスタッフの意見をとり入れられるため、外部環境(顧客や得意先など)の変化に対応しやすい。
ほかにも生産性アップや離職率の低下など、ボトムアップ型では従業員を主体としたメリットが生じる。現場の課題を解決すれば、企業側もさまざまなメリットを得られるだろう。
Q2.ボトムアップとトップダウンの違いは?
ボトムアップ型とトップダウン型の違いは、意思決定や立案をする人物である。
ボトムアップ型:現場の従業員が立案し、上司や経営者に承認要求をする。
トップダウン型:経営者や上層部が方向性を決めて、部下や部署に指示を出す。
意思決定の仕組みを変えると、これまでとは別の人物が企画やアイデアを生み出すため、その企業の特色も大きく変化する。
Q3.ボトムアップとトップダウンはどちらが良い?
業種や業態、会社の規模、事業内容などによって、最適な意思決定手段は異なる。そのため、自社の強み・弱みを客観的に分析し、会社の特色に合った方法を選ばなくてはならない。
ボトムアップ:ダイバーシティやイノベーションを目指す企業に向いている。
トップダウン:とにかく生産性を高めたい企業や、カリスマ性のある経営者に向いている。
上記はあくまで目安だが、グローバル化や働き方改革などの影響で、近年ではボトムアップ型が注目されてきている。
Q4.ボトムアップの注意点とは?
ボトムアップの導入時には、以下の点に注意する必要がある。
・意思決定に時間がかかりやすい
・現場に優秀なスタッフがいないと、経営の方向性を誤ってしまう
・従業員の主体性が求められる
・現場の声をまとめる過程で、無難な意思決定になりやすい
ボトムアップは、良くも悪くも現場に判断を任せる方法だ。そのため、経営者と従業員の方向性が異なると、ボトムアップ型はうまく機能しない可能性がある。
Q5.ボトムアップのやり方・導入方法は?
ボトムアップの導入前には、従業員が挑戦しやすい、かつ声を上げやすい環境を作る必要がある。企業文化を変えることが必須となるので、まずは会社全体の仕組みを見直さなければならない。
また、ボトムアップ型では現場から上層部に情報伝達をするため、チーム間でのコミュニケーションも促進することが重要だ。
Q6.ボトムアップの事例を知りたい
ボトムアップを導入している有名企業としては、ネット関連サービスを手がける『Google社』や『DeNA社』が挙げられる。
例えば、Google社には業務時間の20%を自由に使える「20%ルール」があり、従業員ひとり一人の挑戦を促している。また、管理職に多くの権限を与えないことで、従業員の主体性を尊重している点も特徴的だ。
ワンマン経営になりがちな中小企業にも、ボトムアップで成功を遂げている企業は多く存在する。