世界の美術館・博物館が活動資金の調達の新たな方法として、続々とNFTアート作品の販売に乗り出している。それは従来の資金調達方法ではないことは明らかであり、かつてないほど戦略的で効率的な方法でもある。その戦略に隠された美術館の狙いとは一体何だろうか?

大英博物館、北斎に続くNFTを販売

大英博物館
(画像=大英博物館)

出典:https://ja.m.wikipedia.org/

イギリスの大英博物館が2021年9月の葛飾北斎に続き、フランスのブロックチェーンプラットフォーム「LaCollection」と連携して、今年2月にJ.M.Wターナーの絵画作品をNFTとして販売を開始したことが注目を集めている。これは著作権の保護期間が切れた作品をポストカードなどのグッズにしてミュージアムショップで販売し利益を得るのと同様に、それらをNFT作品へと変換させたプロジェクト。北斎、ターナーともに実物の作品とは紐づいておらず、あくまでデジタル上に存在するデータのみ。ターナーの作品は2月9日から3月4日まで一般発売されている。まずは、この大英博物館のターナー作品の例から戦略を見ていこう。

NFT販売に隠れた2つの狙い
1:コレクターを刺激し、コミュニティを成長させる

美術館がNFTを販売するのは、もちろん利益を得るためだ。しかし、大英博物館の試みには「コレクターを刺激して、購買意欲をより駆り立てる」効果を狙ったものがある。このターナーのNFT作品は以下の3種類に分類されている。

・9点の「ウルトラレア」(2エディション、内1エディションは大英博物館に帰属)
・7点の「スーパーレア」(10エディション、内1エディションは大英博物館に帰属)
・4点の「オープンエディション」(最大99エディション)

レア度が上がると各エディション数も少なくなるというもので、なおかつ「ウルトラレア」と「オープンエディション」は、前回の北斎のNFTを購入した人を対象にプライベートセールを開催した。つまり、北斎を買った人だけに、誰よりも早くターナー作品を購入できるという「限られた特権」を与えたのである。「“限られた人だけ”が持っている作品」を所有し、「限られた人のみのコミュニティ」に加わるというステイタスは、コレクター心を非常にくすぐる心理。その心理が成長を進めるNFTの「コミュニティ」の輪をさらに大きくしているのだ。そういった作用が今回の大英博物館の販売例に見える。

ターナーのNFT化された《Bonneville》
(画像=ターナーのNFT化された《Bonneville》)

出典:https://lacollection.io/

また、購入したNFTは作品の価格を自由に設定し、LaCollectionと大英博物館が開設したマーケットプレイスで販売することが可能。ブロックチェーンの技術により、大英博物館は作品が再販されるたびに再販ロイヤリティを得られるため、美術館のNFT作品販売は、長期的かつ継続的な資金調達方法といえるだろう。

2:来場者数増加を促す

2つ目の狙いは、別の美術館の例で見てみよう。フィレンツェにあるウフィツィ美術館を含む4つ主要文化施設がレオナルド・ダ・ヴィンチやカラヴァッジョ、アメデオ・モディリアーニなどの名画6点のデジタルレプリカのNFT販売施策だ。

デジタルレプリカは、見分けがつかないほどオリジナルを忠実に再現した額縁に収めたスクリーンで展示され、ロンドンのギャラリー「Unit London」で開催されている展覧会「Eternalising Art History:ダ・ヴィンチからモディリアーニまで」(2月16日〜3月19日)で公開されている。

NFT化されたカラヴァッジョの《Canestra di frutta (Bowl of Fruit)》
(画像=NFT化されたカラヴァッジョの《Canestra di frutta (Bowl of Fruit)》)

出典:https://unitlondon.com/

このデジタルレプリカは、「DAW」と呼ばれる暗号化されたデジタルアート作品を作成する技術の特許を取得したイタリアのCinello社が制作したもの。Cinello社のディレクター、セレーナ・タバッチによると、これらの作品はイーサリアムのブロックチェーン上ではNFTとして販売され、大英博物館やその他のNFT作品と同様に再販のロイヤリティを得ることができるという。今回の販売で得た売却益の50%は、美術館の作品保管費に充てられる。

今回の例は、美術館が所蔵する名画をデジタルレプリカとして制作することにより、たとえ遠く離れた国でも、よりスピーディーに一般公開の機会を増やすことに繋がる。実際に「Unit London」の共同パートナーであるジョー・ケネディは「ブロックチェーン技術によって、これらの傑作を収蔵している美術館に観客や収益、入場者数を生み出す機会を見つけることはエキサイティングなこと」だとコメントしている。また、DAWは美術館の貸し出しでの輸送にかかる二酸化炭素排出量を削減への効果も期待できると語った。

ウフィツィ美術館
(画像=ウフィツィ美術館)

出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Uffizi

美術館が所蔵する名画をNFTにすることで話題を呼び、興味関心を引いて館への来場を促す。そしてコレクターにより楽しんでもらうために、作品の種類分けや販売方法を工夫し、コミュニティの成長へ大きく寄与する。実物のあるアートがNFTというデジタル作品へと姿を変えることに抵抗を感じている人もいるだろう。しかし、この勢いは誰にも止められず、アート業界をさらなる発展へと導く大きな可能性を秘めていることは間違いない。

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文:ANDART編集部

参考URL
https://www.theartnewspaper.com/2022/02/11/eternal-return-italian-museums-to-sell-digital-copies-of-masterpieces
https://www.artprice.com/artmarketinsight/the-british-museum-offers-certified-nfts-of-works-by-j-m-w-turner