過激陰謀集団「Qアノン」の正体がついに判明? 研究チームが発表した2名の人物とは
(画像=boumenjapet/stock.adobe.com)

過激派陰謀論「Qアノン」は、トランプ前米大統領の支持者による連邦議会議事堂襲撃や、新型コロナワクチン反対運動に影響を与えたとされる。「その正体を科学的に突き止めた」と欧州の研究チームが発表した。

一方では、「2024年の米大統領選挙に先立ち、Qアノンが新たな陰謀をもくろんでいる」とも報じられている。トランプの支持者を国務長官候補などに祭り上げ、主要州における投票結果に影響を与えようとしているというのだ。

FBIが「潜在的な国内テロの脅威」と警戒

Qアノン(Q Anon)は、インターネット上で拡散する陰謀論とそれを扇動する極右系陰謀集団の総称だ。「Q」なる人物が匿名掲示板「4ch」で投稿を始めたことがきっかけとされており、やがて「トランプ氏は自動売春組織を運営する闇の政府と戦っている」といった陰謀論に発展していった。

2019年には、FBIがQアノンを「潜在的な国内テロの脅威」と特定するほど、その暴力性を帯びたものへと変貌を遂げた。最も記憶に新しいQアノンの狂気は、2021年1月6日に発生した連邦議会議事堂の暴動事件だ。

大統領選の結果を不服とするトランプ氏の支持者が議事堂内になだれ込み、数時間にわたり警察と衝突した。5人の死亡者を出す悲惨な結末を迎えたが、襲撃にはQアノンの信者が多数参加していたとされる。

科学的分析から浮上した2人の「Q」

危険な陰謀論を背後で操る「Q」とは、一体何者なのか。過去にさまざまな憶測が流れたが、どれも決め手に欠けていた。ところが2022年2月、2組の欧州言語学者のチームが、信憑性の極めて高い調査結果を発表した。

ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、調査を行ったのはスイスの新興企業オルフアナリティクス(OrphAnalytics)と、フランスのフランス国立古文書学校、エコール・デ・シャルテ(École des Chartes)のコンピューター言語学者チームだ。

各チームは、QがSNSに投稿した10万語以上の文章と、13人の作家の1万2,000語以上の文章をサンプルに、AI(人工知能)技術やスタイロメトリーと呼ばれる数学的アプローチなどを駆使して、Qの投稿の文字列や文章の「癖」を特定・分析した。

その結果、2つの調査から同じ2人の人物が浮上した。Qアノンの信者である南アフリカのソフトウェア開発者、ポール・ファーバー氏と、インターネット掲示板「4chan」の管理人兼コンピューター起業家のロン・ワトキンス氏だ。研究者チームは「ファーバー氏がQとして活動を始め、2018年初頭にワトキンス氏に引き継いだ可能性が高い」と結論付けている。

両者は以前からQアノンの背後にいる人物と見られていたが、いずれも疑惑を否定し続けている。

複数のテキストに含まれる3文字のパターンの類似性を測定するソフトウェアを使用して、語彙や構文の複雑さを比較したスイスのチームによると、分析の精度は約93%だ。顔認識ソフトウェアで文章のパターンを学習する人工知能を使用したフランスのチームは、ワトキンス氏に関する分析の精度を99%、ファーバー氏を98%としている。

トランプ支持者、続々と議会選挙に立候補

「Q」の正体とともに懸念されているのは、疑惑の人物であるワトキンス氏が、アリゾナ州の連邦議会選挙に立候補している点だ。

Qアノンは連邦議会議事堂襲撃直前の2020年12月以降、メッセージを拡散せず沈黙に徹している。しかし、水面下では次期米大統領選に向けて、着々と陰謀が進められているとの見方が強い。

英ガーディアン紙によると、2022年2月の時点で、15人以上のトランプ氏の支持者がアリゾナ州やジョージア州、ミシガン州などの主要な激戦州の選挙管理責任者に立候補し、少なくとも8人が国務長官の地位を狙っているという。

これらの極右候補者が当選すればトランプ政権復興のために、あるいはトランプ氏の意思を受け継ぐ政権発足のために、自らの権力をもって選挙結果を歪めることができる地位に就くことになる。

Qアノン信者が「極右国務長官候補同盟」結成

これが単なる取り越し苦労でないことは、Qアノンの信者である候補者の証言から明らかになっている。

ネバダ州の選挙責任者候補で元共和党議員のジム・マーチャント氏は、2021年10月にラスベガスで開催されたQアノン関連のイベントで、「他のトランプ大統領同盟」の候補者同様、「ジュアン・O・サヴィン」なる偽名で活動しているQアノンの著名インフルエンサーに説得されて立候補したと語った。

さらに、ガーディアン紙の2022年1月の取材では、他の候補者とともに極右国務長官候補の同盟を立ち上げたことを認めた。「不正選挙に関する陰謀論を共有し、次の大統領選の正当な結果を覆せるような選挙システムへと、根本的に再構築するためのアイデアを交換し合っている」とも述べた。

陰謀論に詳しい監視団体メディア・マターズ・フォー・アメリカ(Media Matters for America)のシニア調査員、アレックス・カプラン氏は「Qアノンが憲法危機を引き起こす可能性がある」と警鐘を鳴らしている。

ファーバー氏はニューヨーク・タイムズ紙の取材で、Qアノンが「真のインサイダー」により「闇の政府に対する大規模な秘密戦争に人々を覚醒させる目的で」組織化されたものであり、「次の段階が来ている 」と確信していると述べた。

3月3日現在、トランプ氏自身はQアノンの「新たなプロジェクト」について沈黙を守っているが、2月に独自のSNS「Truth Social」のベータ版をローンチした。

岐路に立たされる民主主義

Qアノンの再燃は、パンデミックやロシアのウクライナ侵攻で激動する世界に、さらなる大混乱を引き起こす火種となることは疑う余地がない。民主主義は今、「改革」と「凋落」の岐路に立たされている。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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