あのときこうしていれば!失敗から得たマネジメントの勘所

私は、識学のコンサルタントになる前に、某東証1部上場インターネットグループの子会社における営業責任者として、6拠点、60名の部下を管理する立場にいました。

責任者である私と一般職の社員の間に、部長、課長、係長、そして主任がいましたが、当時の私は部長や課長を無視して、係長や主任、一般職の社員にまで直接指示を飛ばし、週報のチェックまで行っていました。

今回は、そんな私が犯してしまった失敗談を披露し、マネジメントはどうあるべきかについて、考えていきたいと思います。

目次

  1. 感覚頼りのマネジメントで内紛勃発
  2. 上司を批判した部下が「評価して下さい」
  3. 部下は上司を評価しない
  4. 完全結果で指示をする
  5. 上司は感情を表に出さずに報告を聞くべし

感覚頼りのマネジメントで内紛勃発

当時の私のマネジメントは、昔の上司にやられて嫌だったことはせず、されて良かったことをするというものです。

また、本やセミナーの良いとこ取りをして、切った貼った、くっ付けたの我流のマネジメントをしていました。

当時の私の信条は、山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」でした。

私が責任者だった営業部のテーマは、「本気、本音、本物」の「3本の矢」でした。

アベノミクスの成長戦略である「3本の矢」を念頭に置いたものです。

「本気」はがむしゃらにやること、「本音」は言い難いことこそ本音で言い合うこと、そして「本物」は結果を出すこと、という意味です。

今思えば、あまりに感覚頼りのマネジメントです。

ある日、私が管理する支店の1つで内紛が起こりました。係長が上司である支店長を呼び出して「貴方は無能だ」と突き付けたのです。

上司を批判した部下が「評価して下さい」

この件について、双方にヒヤリングしました。係長に確認すると、今期の営業部のテーマである「本音」を意識し、「言い難いことだったが面と向かって言った」のだというのです。

反省するどころか、「テーマ通りに動いた私を評価して下さい」という態度でした。

対する支店長は、部下に正面から批判されたために自信喪失となり、退職を希望しました。

その支店長は、トップセールスを何度も獲得する実力者で、私は支店長の機嫌取りをして、愚痴や言い訳を聞くことにしました。

すると、今度は支店長がルールや目標管理に甘くなって、徐々に業績が低迷。

最終的にその支店は赤字拠点となってしまったのです。

その後、支店長と係長以下3名との溝が埋まることはありませんでした。

支店長は部署異動となり、係長が支店長代理の職に就きましたが、業績悪化に歯止めがかからず、数カ月後、その支店は閉店となったのです。

私はどこで間違えたのでしょうか。

それは、感覚とか感情を重視したマネジメントをしていたことに他なりません。

そのせいで、「言い難いことこそ本音で言い合おう」という言葉に、認識のずれが起きてしまっていたのです。

当時の営業部は指示待ちの社員が多くいて、部下が私の一方的な指揮命令で動いていたために、部下からの情報が上がってこないという組織でした。

この状態を改善すべく、私は言い難いことこそ重要な意見だと考え、本音で語ろうと奨励していたのです。

その結果、係長は部下である自分が上司である支店長を評価できると勘違いしていました。支店長も、係長を自分の言葉でなんとか納得させねばならないと悩んでしまっていたのです。

部下は上司を評価しない 上司は部下に納得を求めない

部下が上司を評価することは、会社にとって損だらけです。

例えば、部下が上司の責任範囲に首を突っ込んで、自身のリソースの5割を使うとします。「私だったらこうします」と意見するわけです。

その分自責が疎かになりますから、目標達成率は下がりやすく、自身の評価も落ちてしまいます。そんな部下はいずれ上司の指示を聞かない厄介者となり、指示が浸透していきません。

一方で、上司が部下を納得させるべきという考えも、会社にとって利を生むものではありません。

これは、「部下が自らの仕事の意義に納得して取り組んだ方が良い成果が生まれる」というもっともらしい考えから生まれた落とし穴です。

そもそも上司と部下とでは見ている景色が異なるため、部下が上司の指示に心底納得することは困難です。

また、中長期目線の上司と、短期目線の部下は、利益が相反することが少なくありません。

些細な指示に対して、部下が上司に納得いくまでその意義を問うてくるようでは、初動が遅くなります。

また、納得しなければやらなくて良いと錯覚する部下まで出てきてしまうかもしれません。

完全結果で指示をする

では、私はどうすれば内紛を防げたのでしょうか。答えはシンプルで、完全結果の指示をしていればよかったのです。

完全結果とは、「期限と状態」を明確にして、解釈が入る余地をなくすことです。

例えば、「10kmを60分以内に走る」という完全結果に対して、不完全結果は、「10kmを全力で走る」といったものです。

後者は、走者が50分で走ったとき、「素晴らしい結果だ」と捉える人もいれば、「遅い。もっと速く走れるだろう」という厳しい見方の人もいるかもしれません。

つまり、「全力で走る」という部分の解釈次第で、結果が変わってしまうわけです。

先述の、「言い難いことこそ本音で言い合う」を今の私がテーマとして設定するのであれば、「本音とは、組織を良くするために、事実情報を上げること。

また、自責を果たす上で、事実情報と提案をセットで持ってくること」という完全結果の形にします。

上司は感情を表に出さずに報告を聞くべし

繰り返しますが、上司と現場社員の利益は相反することが多いです。

よって、上司は部下が迷わないための明確な指示が必要であり、部下は上司が適切な意思決定をするための事実情報を上げる義務があります。

そのためには、事実情報を上げないと責任が果たせないよう、部下の結果責任を明確にしなければなりません。

さらに、部下が事実情報(特にネガティブ情報)を上げてきた時、上司は感情を表に出さないことが必要です。

感情を表に出すタイプの上司に対して、部下はネガティブ情報を隠そうとしてしまうからです。

そうではなく、たとえネガティブ情報であっても逐一報告できるような、風通しの良い組織を構築していくのです。

本来の風通しの良い組織とは、部下からの事実情報を元に上司が部下に明確な指揮命令ができる組織のことなのです。