日本人アーティストの花井祐介が手がけた著名人達のアバター
(画像=日本人アーティストの花井祐介が手がけた著名人達のアバター)

前澤友作、ジェイ・チョウ、ジェイ・Z、エミネム… 各界のセレブ達がこぞってNFTを所有している。なぜ、セレブ達はNFTに夢中になっているのだろうか?

結論からいえば、NFTは今やセレブ達の「ステータス」の一種なのだ。それはどういった意味なのか、また、こうした動きはこれまでにない新しいムーブメントなのだろうか、セレブ達のNFTを巡る事情を見てみよう。

▍セレブ達が熱狂するNFT

2022年2月に、日本人アーティストの花井祐介が発表した初のNFT1,000個が即完売し話題となった。前澤友作やジェイ・チョウら、著名人達が花井の手掛けたアバターを公開したことで、SNS上で「花井旋風」が巻き起こったという。1)

日本人アーティストの花井祐介が手がけた著名人達のアバター
(画像=日本人アーティストの花井祐介が手がけた著名人達のアバター)

画像出典:https://prtimes.jp/

このような形で話題となるNFTの多くは、「プロフィール画像 (PFP;Profile Picture)」 と呼ばれるジャンルのものだ。SNSなどのアイコンに設定することもでき、例えばtwitterでは他のアイコンと区別して、六角形のアイコンで表示できるようになっている。

こうしたPFPプロジェクトの多くは、一定のデータを用いたアルゴリズムでまとめられている。アルゴリズムによって同じものは2つとないということが保証されている。2)

最も人気のあるPFPのひとつは「BoredApe YachtClub」というシリーズだ。エミネム、トラヴィス・バーカー、ティンバランド、ジミー・ファロン、グウィネス・パルトローらがそのNFTを購入している。3)

エミネムのTwitterアイコンである「BoredApe YachtClub」のPFP(Courtesy of Twitter)
(画像=エミネムのTwitterアイコンである「BoredApe YachtClub」のPFP(Courtesy of Twitter) )

画像出典:https://news.artnet.com/

多様な女性の10,000点のアートワークをフィーチャーした「World of Women」シリーズは、女優のリース・ウィザースプーンとエヴァ・ロンゴリア、プロデューサーのションダ・ライムズといった女性陣が所有し、3) ジェイ・Zやセリーナ・ウィリアムズは「CryptoPunk」のシリーズを購入している。4)

なぜ、セレブ達はこぞってNFTを購入するのだろうか?

ジェイ・ZのTwitterアイコンである「CryptoPunk」のPFP (Courtesy of Twitter)
(画像=ジェイ・ZのTwitterアイコンである「CryptoPunk」のPFP (Courtesy of Twitter) )

画像出典:https://www.theblockcrypto.com/

▍「ビジネス」よりも「ステータス」?NFTが与える心理的影響

こうしたPFPのうち、希少価値の高いものは高額で取引されている。例えば、もともと約1万5,000ドル(約173万円)で購入した「CryptoPunk」の1つに、750万ドル(約8.6億円)以上の高値がついた事例などがある。5)

お金を稼ぐ能力に長けたセレブ達がNFTに熱狂するのは、こうした「ビジネス」としての魅力を感じているためだと考える人もいる。

一方、シカゴの経済学者であるカニス・プレンダーガストは、金銭的なものだけではなく、3つの「心理的」な影響があることを指摘している。6)

シカゴの経済学者であり、アーティストでもあるカニス・プレンダーガスト
(画像=シカゴの経済学者であり、アーティストでもあるカニス・プレンダーガスト)

画像出典:https://www.scmp.com/

1つ目は、次々とNFTの新しいキャラクターが生まれていく中で、自分が「次の時代の”ミッキーマウス”」にも化ける金の卵のオーナーになるかもしれないという「将来性への期待感」。2つ目は、2つと同じものが存在しないPFPに対しての「独占欲」という抗いがたい魅力だ。

エヴァ・ロンゴリアのTwitterアイコンである「World of Women」のPFP(Courtesy of Twitter)
(画像=エヴァ・ロンゴリアのTwitterアイコンである「World of Women」のPFP(Courtesy of Twitter))

画像出典:https://news.artnet.com/

そして3つ目は、このようなPFPの特典のもつ魅力だ。例えば、「Bored Apes」のオーナーは、そのクラブの会員になることができ、リアルな場でのパーティーや、グッズを買う権利などの特典が得られる。オーナーになることで、他のセレブ達と同じ「エリートクラブ」に所属しているという「優越感」を感じ、アイコンによってそのステータスを広く誇示することもできるのだ。

▍「ステータスとしてのアート」はNFTに限ったことではない?

こうした動きは、NFT特有の現象なのだろうか?

アンディ・ウォーホルは「将来は誰でも15分間だけ有名人になれるだろう」と言った。そこには、ウォーホルにポートレートを描いてもらうことで、誰でも有名人になれるという意味も含まれる。

ウォーホルは1970年ごろからビジネスライクな「注文肖像画」を手がけ、有名人だけでなく、誰もが2万5,000ドル (当時のレートで約900万円) を支払えば、その肖像画を制作してもらうことができた。

≪Ethel Scull 36 Times≫ / アンディ・ウォーホル
(画像=≪Ethel Scull 36 Times≫ / アンディ・ウォーホル © 2020 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. )

画像出典:https://magazine.artland.com/

結果、マリリン・モンローやエルヴィス・プレスリーを描いて名声を得たウォーホルに肖像画を描いてもらえば、同様な有名人のようになれると思われ、当時のお金持ちたちにとっては、ウォーホルにポートレートを制作してもらうことは一種のステータスになったという。7)

PFPの多くは特注のポートレートではないので全く同じとはいえないが、巨額を支払い、それを自身のアイコンとすることでより有名になり、ステータスを手に入れられる。これはウォーホルの注文肖像画とも似ていないだろうか?

NFTの心理的影響を解説したカニス・プレンダーガストは、セレブ達がNFTに熱狂するのは「彼らがプライベートジェットでアートバーゼル(アートフェア)に行き、VIPパーティーに参加するのと大差のないことだ」と指摘する。

NFTへの熱狂を白い目で見つめるアート関係者もいるが、この動きは、既存のアート界の動きから全くかけ離れたムーブメントというわけでもなさそうだ。

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文:ANDART編集部

参考)

1) 前澤友作、KAWS らも所有するアーティスト花井祐介初のNFT1000個が即完売。 オークションでは15倍に価格が高騰。(PR TIMES)
2) The Future of NFTs: How PFP-Based Projects Took Over the Market (ARTnews)
3) Which Celebrities Have NFTs as Profile Pics? Here Are 21 of the Most Unexpected, From Ozzy Osbourne to Shonda Rhimes (artnet news)
4) Jay-Z puts a CryptoPunk NFT as his Twitter profile picture (THE BLOCK)
5) What Silicon Valley sees in NFTs (FINANCIAL TIMES)
6) The economics behind NFTs – why celebrities such as Justin Bieber, Gwyneth Paltrow and Eminem pour millions into Bored Apes (South China Morning Post)
7) ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書) / 宮下規久朗