ロシアと中国、ウクライナ・台湾を巡って「協力」? 軍事的支援はナシか
(画像=klenger/stock.adobe.com)

2022年2月4日、約2年ぶりの中露首脳会議が北京で行われた。両国は、北大西洋条約機構(NATO)の拡大に反対すると同時に両国間の結束を誇示する声明文を発表した。緊迫するウクライナ・台湾情勢を巡り西側諸国の圧力が増す中、中露関係は前例にないほど緊密化している。

しかし、「中露が軍事同盟になる可能性は低い」との指摘もあり、あくまで西側諸国の対中露包囲網に反発するための共闘体制強化との見方が強い。

「民主主義の多様化」国際社会に呼びかけ

会談は同日に開幕した北京冬季五輪に合わせて行われた。

声明文には、ウクライナのNATO加盟申請や2021年9月に発足した三国間安全保障パートナーシップAUKUS(米英豪安全保障協力)に対する懸念などが盛り込まれた。具体的には、北大西洋同盟に対して「イデオロギー化された冷戦アプローチ」を放棄し、「他国の平和的発展に対して客観的な態度を保つ」ように要求している。

また、「特定の国、軍事および政治的同盟や連立が不公正な競争慣行を採用すること、地政学的競争を激化させること、敵対および対立を助長することを含む他者の安全を損なう一方的な軍事的利益を得ようとしていると確信している」「(中露に)隣接する共通地域の安全と安定を損なう外力の試みに抵抗し、いかなる口実の下でも主権国の内政における外部干渉に対抗する」とも述べた。

興味深いのは、声明文が米国主導の「覇権型民主主義」への反発に留まらず、より「国際的な民主主義」を国際社会に訴えかけるものとなっている点である。

中露が唱える国際的な民主主義とは、「各国・地域の社会的および政治的制度や歴史的背景、伝統および独特の文化的特徴に基づく多様性」を尊重するものだ。欧米式の一様的な民主主義は国際秩序を乱す元凶であり、「新時代に突入する国際関係と世界の持続可能な開発」の重要性について提唱している。

中国、ウクライナ信仰支持せず

長年にわたり、米国の一極支配に反発してきた中露が協力関係の強化を改めて宣言したことにより、「欧米VS中露」という世界の勢力図が現実味を増している。当面の焦点はウクライナ・台湾情勢にある。すなわち、両国がウクライナ・台湾を巡る軍事行使を相互支持するか否かだ。

声明文に「両国間の友好には限界がなく、禁じられた協力分野はない」という下りがある。これを額面通りに受け取れば、欧米VS中露戦争の勃発という最悪のシナリオも想定されるが、両国の関係は「軍事同盟」ではない。

「中国が台湾を巡る紛争でロシアに軍事的支援を期待しないように、ロシアもウクライナ問題で中国に軍事的支援を期待しないし、その必要もない」と指摘するのは、シンガポールのS.ラジャラトナム国際大学院(RSIS)の李明江准教授だ。

そもそも中国は、一貫してウクライナ危機が対話により平和的に解決されることを求めてきた。首脳会談に先立って1月28日に行われた定例記者会見においても、ウクライナ情勢で緊張を高める行動に断固反対する姿勢を趙立堅報道官が改めて示した。

このような言動から推測する限り、中国側はウクライナ情勢には介入せず、ロシアに対する国際非難に関与しないことで「友好関係」を示す可能性が高い。

ロイターはその一例として、中国は過去2回、国連安保理会合の開催を巡り中立的立場を示した事実を挙げている。安保理は国際平和の構築を目的に、常任理事5ヵ国(米・露・中・英・仏)と非常任理事10ヵ国(任期2年で現在はインド、アイルランド、ケニアなど)で構成される国連機関だ。会合の開催及び阻止は、参加国による投票で決定する。

2014年にウクライナのクリミア地方併合を阻止すべく米国が会合の開催を要請した際、中国は投票を棄権した。今回のウクライナ情勢を巡る会合開催についても、中国は唯一反対票を投じた。

外交・経済戦略的な利害関係

ロシア側はどうか。

折しも、欧州率いるNATOは旧ソ連圏中、経済・人口最大のウクライナを、米国率いるAUKUSは脱中国を図るオーストリアを取り込もうとしている。欧米VS中露の陣取り合戦だ。

しかし、李明江准教授が指摘しているように、ロシアがウクライナ問題で中国の直接的な支援を期待しているとは思えない。それどころか中国が下手に首を突っ込むと、両国の関係のバランスはたちまち崩れるだろう。同じことは中国の台湾問題にも該当する。

両国ともにその点をわきまえていることは、声明文からも読みとれる。ロシア側は「一つの中国の原則への支持を再確認し、台湾のいかなる形態の独立にも反対する」、中国側は「欧州で長期的かつ法的拘束力のある安全保障を構築するというロシア連邦の提案に共感・支持する」意向を表明しているが、お互いの問題に「介入する」とは一言も述べていない。

そうなると両国の思惑は、あくまで欧米の中露封じ込め策で優位に立つための、「軍事同盟を結ばない外交・経済戦略的な利害関係」と考えるのが自然だろう。

政治学でも急加速する世界の二極化

両国は中露を軸とする経済圏の発展にも挑む。

中国の一帯一路と並行して、アジア太平洋とユーラシア地域間の提携強化を意図する「大ユーラシアパートナーシップ」の構築に注力する構えだ。

二国間貿易も拡大しており、中国側の発表によると、2021年の貿易高は2015年の2倍を上回る1,400億ドル(約16兆799億円)に達した。首脳会議では年間貿易高をさらに2,500億ドル(約28兆7,141億円)に引き上げることで合意した。

もう1点、両国が2018年から中国の人民元を拡大し、世界の基軸通貨である米ドル依存からの脱却を目論んでいる点も注視される。人民元を米ドルの対抗通貨としてぶつけることができれば、西側からの制裁で外貨獲得に気をもむ必要もなくなるというわけだ。

世界の二極化は、地政学においても急加速している。欧米と中露の動きはその象徴といえるのではないだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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