株主や取引先のような外部関係者からすると、企業の上場廃止とは否定的なイメージが強いかもしれない。しかし経営状況が悪化したケース以外にも、企業戦略の一部として上場廃止が行われる場合がある。
企業を経営する上では、上場の意味についての正しい知識を身につけ、上場廃止後の株式がどうなるかも知っておく必要があるだろう。ここからは上場廃止について、基礎的知識から具体的な事例まで、さまざまな角度から検証してみよう。
目次
上場廃止とはどういうことか?
上場廃止の本質を理解するために、まずは企業が上場する意味について考えてみよう。2021年12月現在、日本国内の株式市場では3,793社が上場している。当然この中には、日本を代表する大手企業が数多く名を連ねている。では、そもそもなぜ企業は株式の上場を行うのだろうか。
企業が上場する仕組みと意味
企業が発行した株式を売買する場が株式市場であり、日本国内には四つの株式市場があるが、発行された全株式の99.9%が東京証券取引所(東証)で取引されている。その東証には、以下に挙げる六つの市場がある。
・東証第一部(上場企業数2,184社)
・東証第二部(470社)
・マザーズ(400社)
・JASDAQスタンダード(656社)
・JASDAQグロース(37社)
・Tokyo Pro Market(46社)
企業が株式市場に上場することは「IPO(Initial Public Offering):新規株式公開」とも呼ばれ、自社の株式を市場に公開することで、より多くの株主から資金調達をすることが可能になる。
もちろん上場するためには条件があり、東京証券取引所の上場審査基準を満たした上で審査を受け、正式に上場を承認されなければならない。
企業が株式市場に上場することは、単純に資金調達だけが目的ではない。上場審査基準は非常に厳しい条件であり、それを通過したという実績は企業の社会的信用度を高めることになる。
さらに取引先や金融機関へのアピール効果もあり、ほかにも広告宣伝効果や人材確保に関わる効果など、非常に多くのメリットをもたらす。別な見方をすると、もしも上場廃止をすれば、こうしたプラスの効果のほとんどを失うことになるのだ。
上場廃止に至る要件とは?
上場廃止は企業にとって重大な決断であり、場合によっては今後の経営に多大なダメージを与える危険性もある。それでも上場廃止が行われるのはなぜなのか。その理由の一つは、経営上の問題で上場基準を満たせなくなることだ。これが上場廃止のネガティブなイメージにつながっているとも言える。
しかし別な理由として、合併や買収による上場廃止もあり、経営戦略の一環で行われる上場廃止もある。こうした理由をもとに、ここからは企業が上場廃止を実施する流れや影響について考えてみよう。
企業にとっての上場廃止を考える
東京証券取引所に上場することは、国内企業にとっては一つのステイタスである。当然上場後は経営規模の拡大を目指すことになるだろう。その中で毎年いくつかの企業が、さまざまな事情から上場廃止に至っている。その理由は何だろうか。
上場廃止に至る理由
上場廃止に至った企業の上場廃止理由をみてみると、主に以下に挙げるような内容に分類できる。
・破産や倒産などにより上場基準を満たせなくなる
・親会社による完全子会社化
・第三者による買収
・企業合併による会社消滅
・株式の併合
・MBO(Management Buyout:マネジメント・バイアウト)
・経営戦略上の上場廃止
企業の経営悪化以外では、買収や合併による上場廃止があり、この場合には該当する企業が存在しなくなるため、上場企業のリストから外されることになる。また経営効率化などにより、企業が親会社に組み込まれる場合にも上場廃止が行われる。
その一方で、敵対的買収を防衛する場合などに、経営陣が株主から自社株を買い上げて、自らの経営権を強化する目的で行われるのがMBOによる上場廃止である。さらに経営立て直しのために上場廃止を行う企業もある。
いずれにしても、上場廃止は企業の価値を下落させるかもしれないが、場合によっては将来の経営を見すえた上場廃止の可能性もある。企業経営者も株主も、この点を理解しておく必要があるだろう。
上場廃止の基準
上場廃止基準は上場審査基準と同様に、東京証券取引所により厳密に規定されている。上場廃止基準は、上場の基準を満たさなくなった企業に対する指標であり、主に経営悪化による上場廃止が対象になる。
上場廃止基準にはさまざまな要件があり、非常に細かい点にまで解釈が及んでいるが、特に重要な要件として以下の四つを挙げておこう。
・債務超過(1年以上債務超過が継続した場合)
・破産、再生、更生手続きの開始
・事業活動の停止
・銀行取引の停止
これらの要件以外にも、株主数、株式時価総額、売上高などが上場廃止基準に抵触すると、東京証券取引所により上場廃止が行われる場合がある。近年では企業体質や社会的責任への貢献なども重視されるので注意が必要だ。また、東証一部・二部、マザーズなどの各市場によっても要件が異なるため、詳細は東京証券取引所の上場廃止基準で確認しておくべきだろう。
上場廃止の進め方
企業と株主の双方にとって上場廃止で注意すべき点は、ほとんどの場合株価が暴落するケースになるため、上場廃止に至る流れをつかみ、移行期間内に適切な対策を講じることである。
自主的に上場廃止を申請する場合以外には、その企業が上場廃止基準に抵触しそうになった時点で、東京証券取引所により「監理銘柄」に指定される。株式は通常の方法で売買できるが、監理銘柄に入ることによって市場に危険度が公開される。
この段階で上場廃止基準に抵触する恐れが回避できれば、監理銘柄を解除されるが、できない場合には「整理銘柄」に指定されて上場廃止が決定する。指定日から1ヵ月間は引き続き株式の売買が可能で、株価が大きく動くことが多い。上場廃止決定後から1ヵ月、こうして株式の売買が終了して当該企業は上場廃止に至る。
企業戦略としての上場廃止
さて、経営悪化以外の理由で上場廃止を行う場合、特に経営戦略の一環として上場廃止を行うことにはどのような意味があるのだろうか。
まず一つめの理由として考えられるのは、企業にとっての経営自由度を高めることである。企業経営では運営者側の経営陣と、出資者側の株主とが明確に分けられているが、最近では株主が経営に介入するケースが増えている。これは経営陣からすると負担になる。
そこで経営陣は上場廃止をすると共に、MBOなどの手法により自社の株式を買い上げることで、部外者の介入を抑えて経営の自由度を高めることができるわけだ。この方法は、経営の立て直しなどにも活用される。
もう一つの理由が上場を維持するコストである。上場を維持するためには、上場手数料や監査費用などのいわゆる上場コストがかかる。このコストと上場によるメリットを比較して、費用対効果の面から上場廃止を決める企業もあるのだ。
上場廃止のメリットとデメリット
企業があえて上場廃止を実行する理由には、前述したように経営戦略の一手段という側面がある。それ以外にも、企業買収のリスクを回避するために、上場廃止によって外部からの影響力を最小限に抑えられるというメリットも生じる。
一方で上場廃止には、企業経営にとって見過ごせないデメリットも伴う。まず、取引先・金融機関と従業員に対して、その理由を説明して理解を得なければならない。それが成功しないと、経営上で大きなダメージを被ることになるだろう。
株式が非公開になるということは、資金調達の手段が制限されることでもある。当然今までのように、幅広く投資を募ることはできなくなる。さらに、上場廃止は企業ブランドの低下を招き、社会的な信用を失う要因にもなり兼ねない。上場廃止にあたっては、そのメリットとデメリットとを比較して、十分な検証と検討を重ねなければならない。
上場廃止の事例と影響
これまで解説してきた上場廃止のさまざまなポイントを総括して、上場廃止が行われた場合の影響について、最後に実例を交えて紹介しておこう。
最近行われた上場廃止の事例
日本取引所グループによると、2021年の1年間で上場廃止となった株式銘柄は86にも及ぶ。その中から特に認知度の高い企業と、上場廃止の理由を挙げてみよう。
・日本通運(完全子会社化)
・沖縄銀行(完全子会社化)
・大塚家具(完全子会社化)
・オンキョーホームエンタテイメント(債務超過)
・東京ドーム(株式の併合)
・日立キャピタル(合併)
・沢井製薬(完全子会社化)
・よみうりランド(株式の併合)
上場廃止の理由で最も多いのが、「完全子会社化」である。その次に多いのが「株式の併合」で、これは同一企業の複数の株式を1株に統合することである。株価が変更されるため、株式の資産価値は変わらない。株式併合の目的はいくつか考えられるが、主に1株の価値を高める場合に行われる。
これらの理由での上場廃止は、企業の経営戦略の一つかもしれない。その一方で「債務超過」のように、明らかな経営悪化による上場廃止は、86の銘柄の内でわずかに二つだけである。上場廃止=経営悪化という一般のイメージは、現実とはかなりのズレがあるようだ。
上場廃止後の株式はどうなる?
上場廃止に伴って懸念されることは、企業にとっては対外的な信用が下がることだろう。取引先や金融機関との信頼関係に傷がついたり、企業のブランドイメージが低下したりすると、資金調達が難しくなるなど経営に悪影響が出るかもしれない。このようなリスクを避けるためには、上場廃止のメリットとデメリットとを比較して、企業の戦略を決定する必要があるだろう。
一方で株主にとっては、保有する株価の下落が最も大きな問題になるはずだ。一般的には経営悪化による上場廃止の場合、株価は大きく下落することが予想される。それ以外の理由による上場廃止では、その後の企業の将来性などの条件により価格が変動する可能性がある。通常は投資リスクが高まるため、株式に価値がある間に売ってしまうことが多い。
「上場廃止=危ない会社」ではない
最近の事例からも分かるとおり、明らかに経営危機から上場廃止に至るケースは極めて少ない。中には経営悪化を表面化せず、別な理由で上場廃止をする企業もあるかもしれないが、多くのケースでは経営戦略の一端として行われているようだ。
こうした状況は、企業が置かれているビジネス環境の変化とも関連しているのかもしれない。いずれにせよ、上場廃止=危ない会社と即断することは避け、その企業が何を目的に上場廃止を決めたのか、十分に検証することが必要ではないだろうか。
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