ビットコイン大暴落の真相 カザフスタンの採掘業者大移動が原因!?
(画像=RuslanIvantsov/stock.adobe.com)

暗号資産は、ボラティリティが大きいことで知られる。2022年1月下旬のビットコインの時価総額は、2021年11月の高値更新時から6,000億ドル(約69兆2,133億円)以上、暗号資産市場全体では1兆ドル(約115兆3,593億円)以上減少した。

今回の暴落の要因の一つとして、「ビットコイン採掘天国」と呼ばれるカザフスタンの国内情勢の混乱が指摘されている。その真相に迫る。

「ビットコイン採掘天国」カザフスタン

ビットコインは、2021年11月8日に6万7,553ドル(約779万円)で最高値を記録した後、2022年1月22日は3万5,071ドル(約405万円)とほぼ2分の1へ落ち込んだ。1月29日現在は3万8,000ドル(約438万円)前後を推移している。

急落の地政学的要因として有力視されているのは、カザフスタンにおける国内情勢の混乱だ。同国は採掘シェアの18%を占める、世界第2位の採掘(マイニング)拠点である。かつて、世界最大の採掘拠点だった中国で、暗号資産を脅威と見なす政府の圧力が強まったことを受け、大量の採掘業者がカザフスタンへ流出した。

なぜ、カザフスタンが移転先として選ばれたのか。

ビットコインを含む暗号通貨の取引は、すべての関連データが採掘業者(マイナー)によって検証され、巨大なコンピューターネットワーク上に構築されたブロックチェーンに保存されている。採掘業者は取引承認に必要となる複雑な数学的パズルを解くことで、報酬として新規発行されたコインを獲得できる。

この作業は高性能なコンピューターを使用して行われ、大量の電力を消費する。そのため、採掘作業を効率的に行う上で、安定した電力供給は必須要素である。カザフスタンは燃料資源に富んでおり、かつ電気代が安い。中国政府が暗号資産の締め付けに乗り出した当時、カザフスタンでは目立った圧力もなく、採掘業者にとっては理想の環境だった。

燃料価格高騰デモでインターネット遮断

しかし、平穏な時間は長く続かなかった。

同国の採掘業者にとっての最大の脅威は、電力問題だ。年明け早々、同国南部マンギスタウ州で燃料価格の高騰を不服とする抗議デモが勃発し、首都のヌルスルタン、最大都市アルマトイなどへと拡大した。これらの地域では非常事態宣言が発令され、ついに旧ソ連諸国の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)がロシア軍と共に介入する事態に発展した。

さらに、安全保障会議議長を務めていた前大統領のヌルスルタン・ナザルバエフ氏や、アスカル・マミン首相などの相次ぐ解雇や辞任により、国内が緊迫した空気で包まれた。

恐らく、国民の混乱や反政府派の動きを最小限に抑える意図があったのだろう。政府は国内のインターネット接続を、一時的に遮断するという行動に出た。採掘業者にとって安定したインターネット環境を確保できなければ、廃業を通告されたようなものだ。

ロイターの報道によると、データセンターへのアクセスが遮断されたことにより、世界のビットコインの計算能力が約13%低下したという。

化石エネルギー消費の急増で「採掘天国」に異変

今回の出来事以前から、「採掘天国」に徐々に異変が現れ始めていることを、一部の採掘業者は察知していた。ロイターの取材に応じた某採掘業者は、政情の安定と電力コストの安さに惹かれて中国からカザフスタンへ移転したが、2~3年前から状況に変化が現れたと語った。

確かに同国の電力コストは安いが、主な供給源は老朽化した石炭火力発電だ。大量に流入した採掘業者の需要に、応えられなくなっていた。そもそも化石エネルギー消費の急増は、脱炭素化社会を目指すカザフスタン政府にとって頭痛の種である。

当局は電力供給を割当制にすることでかろうじて対応しているが、今後は国外から流入した無登録の暗号資産業者への課税や取締りを検討しているという。

インフレや利上げなど複数の要因が下落を招いた?

ビットコイン急落の背景には、欧米におけるインフレ率の上昇や利上げ局面、12月の米雇用報告など、他の要因も指摘されている。また、下落を受けてセルオフ(広範囲にわたる大量の売りで生じる株価の急落)が加速したことが、さらなる下落を誘発させた可能性も高い。

最近の暗号資産は地政学リスクや規制環境の変化だけではなく、マクロ経済の動向や国際政策などにも反応を見せている。ゴールドマンサックスのアナリストチームは、機関投資家の参入などにより「暗号資産がメインストリームで受け入れられるようになった結果、伝統的な金融市場との相関関係が強まった」と分析している。

同チームによると、「インフレリスクの高い銘柄やハイテク銘柄とはプラスの相関関係にあり、実質金利や米ドルとはマイナスの相関関係がある」「連邦準備制度の金利引き上げへの動きにネガティブに反応した、低収益のハイテク株やIPO銘柄の下落と高い関連性がある」という。

一部の採掘業者は北米やロシアへの移動検討

低税率や労働・設備・電力コストの低さというカザフスタンの魅力が、いつまで採掘業者を魅了し続けるか。すでに一部の採掘業者は、世界第1の採掘シェアを誇る北米や3位のロシアへの移動を検討し始めた。2022年は採掘産業の勢力図が、再び変化する年になるかもしれない。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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