中国軍による台湾侵攻は北京五輪後!? 侵攻が日本に与える3つの影響
(画像=Oleksii/stock.adobe.com)

世界では米中対立が深まり、それによって企業の海外活動も影響を受けている。バイデン政権の対中政策により、企業の人権デューデリジェンスの重要性が高まり、ファーストリテイリングやカゴメなど日本企業が輸入差し止めや調達先の変更などを余儀なくされたのはその典型例といえる。

そのような中、今日世界では台湾有事への警戒感が強まっている。台湾有事とは、文字通り台湾を取り巻く軍事的緊張が高まり、最悪の場合には中国による台湾統一が実行に移されることを意味する。日本の隣に位置することから、日本国内でも懸念の声が各地から聞こえてくる。

では実際問題、台湾有事が発生する可能性はどれほどあるのか。そのような場合に、日本はどのような影響を受ける恐れがあるのだろうか。地政学リスクの専門家として、筆者なりの見解をここでは述べてみたい。

国防機関や専門家から相次ぐ台湾有事発言

2022年になってから、国防機関や専門家などから台湾有事について具体的な言及が相次いでいる。

たとえば、トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務めたマクマスター氏は2021年10月、米シンクタンク「ハドソン研究所」での講演で、「中国軍による台湾侵攻の恐れについて、2022年2月の北京冬季五輪終了後に危険な時期に入るだろう」と懸念を示した。

台湾国防部の邱国正部長も2021年10月、台湾の国会にあたる立法院の会合の席で、「2025年には中国が台湾を全面的に侵略することが可能になる」として、中国への警戒感と台湾の軍備を強化する必要性を訴えた。

さらに、米インド太平洋軍のデービッドソン司令官は2021年3月、上院軍事委員会の公聴会で、「今後6年以内に中国が台湾に進攻する可能性があり、インド太平洋地域で米中の軍事力が拮抗・逆転し、中国にとって有利な安全保障環境が予想より早く到来する恐れがある」と指摘した。

実際の可能性は

上述のような発言を耳にすると、いかにもすぐに戦争が勃発しそうなイメージを受ける人が少なくないだろう。しかし、国防機関や安全保障の専門家は危機管理の意識が強く、常に最悪の場合を想定して発言することが多い。そのような発言は日常的なことであり、言い換えれば、すぐに軍事的衝突が勃発するわけではないということだ。では、実際の台湾有事の可能性はどの程度想定しておけば良いのか。

まず、台湾有事といってもそれにはさまざまなケースがある。最悪のケースは中国軍が台湾に侵攻し、米軍が関与することで、事実上、米中戦争になってしまうシナリオだが、これは現在のところ可能性としてはかなり低い。

中国の軍事力が鋭く増加傾向にあるのは事実だが、それでも海上能力に関しては現時点では米軍が上回り、中国としても台湾侵攻はかなりのリスクとなる。よって、それが短期的に実行される可能性は限りなくゼロに近いと言っていい。

だが、問題なのは、偶発的衝突(海上における中国海警局と台湾船の衝突、上空での中国軍機と台湾軍機の衝突など)や部分的衝突(中国軍による台湾が実行支配する東沙諸島の奪還作戦など)が生じた場合だ。それによって政治的緊張が一気に高まり、軍事的衝突がエスカレートするというシナリオだ。

中国側の台湾への認識は日本と大きく異なる。習政権は、新疆ウイグル自治区やチベット自治区、そして香港と同じように、台湾を絶対に譲ることのできない核心的利益に位置づけており、台湾を国内の一部と認識している。

中国は2005年3月、台湾の独立阻止を目的に反国家分裂法と呼ばれる法律を全人代(日本の国会に相当)で採択した。その条文では「平和的統一の可能性が完全に失われた場合、非平和的措置および他の必要な措置をとる」と明記しており、軍事的措置を否定していない。よって、日本側も中国が政治的にその意思を持っているということは念頭に置く必要がある。

しかも、現在、台湾の蔡英文政権は独立思考が強く、中台関係は極めて悪化しており、習政権は神経を尖らせている。また、上述のデービッドソン司令官が指摘したように、この地域で米中の軍事力が拮抗してきていることは変えられない事実である。軍事力で中国が米軍を抜くという現実になった場合、中国が行動を強めてくる可能性があり、台湾有事は中長期的に懸念される問題である。

日本はどんな影響を受けるか

これには大きく3つの影響が想定される。

まず、台湾で生活しているは2万人あまりの日本人への影響だ。その多くが企業駐在員やその帯同家族であるが、仮に有事が本格化すれば、台湾から日本へ安全に退避するというシナリオは現実的ではなくなる。

よって、企業においては、その可能性が低いものの、潜在的なリスクは常にあるとの認識のもと、情勢悪化のシグナルを見逃さず、平時のときから駐在員の安全保護や避難できる体制を社内で構築しておくことが重要となる。情勢がかなり緊迫化してきたら、駐在員より帯同している家族を念のために先に帰国させるといった策も重要かもしれない。

また、台湾有事は必然的に日本の経済シーレーンに影響を与える。経済シーレーンは中東からインド洋、マラッカ海峡、南シナ海、バシー海峡、沖縄以東を通過して日本本土につながっている。台湾有事となれば、日本へ向かう商船や石油タンカーの安全な航行が阻害される可能性がある。

中国海警局や海軍による臨検や拿捕の対象になる恐れがあり、台湾有事は経済安全保障、エネルギー安全保障の視点から注視することが必要だ。 

最後に、日本の安全保障への影響である。

仮に有事となった場合、その時の米政権の判断にもよるが、台湾へ向かう米軍は必然的に在沖縄米軍が真っ先に関与することになろう。台湾と沖縄本島は500キロ以上離れているが、台湾からは最も近い米軍となる。しかし、それは沖縄、日本が台湾有事に確実に巻き込まれることを意味する。台湾有事と日本の安全保障は切っても切れない関係にあることを理解するべきだろう。

文・地政学リスク専門家

無料会員登録はこちら