世界中の投資家や大企業が訪れる国、イスラエル

皆さんは「イスラエル」と聞くと何を思い浮かべますか?

日本の学校教育で教わる「イスラエル」は、現代世界史の授業で学ぶ第二次世界大戦後の建国と、それに続く中東の紛争問題「パレスチナ占領」に関連する話だと思います。最近では、トランプ大統領のイスラエル寄り政策などが有名でしょうか?

宗教に関心のある方は「世界3大宗教の聖地エルサレム」を思い浮かべるかもしれません。

旅行好きの方は、海抜-430mという世界の最低地にある「死海」を思い浮かべる方もいるでしょう。

確かにそのどれもがイスラエルの本当の姿なのですが、実はイスラエルにはもう一つ、別の顔があります。その名もずばり、「スタートアップ・ネイション」です。

スタートアップ大国イスラエルの成り立ち
(画像=スタートアップ大国イスラエルの成り立ち)

実はイスラエルは、世界でも有名なスタートアップ大国。「評価額10億ドル以上で未上場」などの条件を満たすユニコーン企業やお買い得なスタートアップを探すため、アメリカ、ヨーロッパ、中国やインドなど、世界各国から投資家や大企業のお偉いさん方が先を競ってイスラエルを訪れているのです。

2010年前後から、イスラエルは国民一人当たりのスタートアップ数やVC(ベンチャーキャピタル)投資額などで軒並み世界第一位を誇り、インテルやグーグル、フェイスブックなどのグローバル大企業がイスラエルのスタートアップを高額で買い取っていくという話をあちこちで聞くようになりました。2社も3社もスタートアップを成功させたシリアル・アントレプレナーと呼ばれる連続起業家を横目に、「次は我こそ!」と、イスラエルでは若者に限らず、猫も杓子も起業を目指す、という状態なのです。

イスラエルが「貧しい国」から「スタートアップ・ネイション」へ変貌を遂げた理由

では、どうしてイスラエルが「スタートアップ・ネイション」と呼ばれるようになったのでしょうか。この呼び名は、2009年にアメリカで出版された「スタートアップ・ネイション」(ダン・セノール、サウル・シンガー共著)という、イスラエルのビジネスシーンについて書かれた良本が世界的なヒットとなったことが元ネタになっているのです。

スタートアップ・ネイション
(画像=スタートアップ・ネイション)

イスラエルは、実は2000年代に入るまではそれほど目立った産業はなく、紛争などの不安定要素が多い中、地中海性の温暖な気候を求めてやってくるヨーロッパの旅行者や、世界各地のキリスト教徒を相手に、細々と観光産業で外貨を獲得していました。

人口900万人程度、面積も2.2万㎢(四国程度)と小さいだけでなく、その半分以上が砂漠であり、建国72年と歴史も浅い上に移民が多いため、一般常識も国民の間で一致していないばかりか、周りを敵国に囲まれ、中東なのに天然資源もほとんどない(石油は全く出ません)という、言ってみれば貧乏クジを絵にかいたような、国の成り立ちなのです。

けれど、この「貧乏クジ」が実際は大当たりだったのです。「貧しい」イスラエルは常に国と国民の実質的な「生き残り」をかけて戦っていたし、「失うものは何もない」という切羽詰まった状況が、強みにもなりました。

イスラエルの街並み
(画像=イスラエルの街並み)

そして、イスラエルは時流を読むことに成功しました。1990年代、イスラエル政府は10年後に訪れるであろうエンジニア不足を予見してエンジニアの育成に力を入れ、さらには国家主導で海外からの投資誘致を積極的に行い、その道筋をつけたのです。

2000年代になり、IT化が進み始め、世界の多くの事象が手のひらの中に納まり始めたこの時期、国土が小さいことや天然資源が少ないことは、すでにイスラエルのビジネスにとって大きなマイナス要因ではなくなっていました。移民集団であることや国土の半分以上が砂漠であることすらもチャンスに変え、外国語(英語)でのビジネスを当たり前とし、水問題が取り沙汰される農業分野でも世界をリード、周りを敵国に囲まれた環境は様々な先端軍事技術を生み出すとともに、世界でも類を見ないサイバー攻撃の実地訓練場となり、イスラエルを鍛え上げたのです。

イスラエルの高層ビル
(画像=イスラエルの高層ビル)

2010年代は、先述した「スタートアップ・ネイション」という本が世界にイスラエルの現状を知らしめるのに一役買いました。インテルが社運を賭けたという、イスラエル支社でのCPU開発物語などは最大の読みどころですが、この本は、「イスラエル」という国の名やその場所すら知らない人、さらにはこの国の存在を疎ましく思っている人でさえも、イスラエル産まれの技術にお世話になっていない日はない、という現実を日の目にさらしました。気が付けばIT化された世界で、その主要技術の多くを、実はイスラエルが開発していたという事実が、世界の知るところとなったのです。

イスラエルの道路
(画像=イスラエルの道路)

古くはフラッシュメモリーやインスタントメッセンジャーも、もとはと言えばイスラエルのスタートアップが開発したもの。FaceBookの顔認証システムやGoogle検索のサジェスチョン機能もイスラエル産まれ…というように、例は枚挙にいとまがありません。

長い歴史の中で、そのうちのどれかが一つでも違っていたら、イスラエルが「スタートアップ大国」となることはなかっただろうと思います。

ハエでもとまったら、世界地図からはその姿は見えなくなってしまうくらい小さな国、イスラエル。2000年にわたるユダヤ人のアイデンティティと70年のイスラエルの歴史という、相反する二つの特徴を備え、時流の波に乗って、イスラエルは急成長しました。空気を読むことを知らず、失敗を恐れないイスラエル人が、世界にインパクトを与えようと今日もせっせと新たなチャレンジを続けているのです。