近年、原子力潜水艦の保有へ積極的な意図を見せている韓国だが、その思惑に反して軍事面における戦略的、地理的、外交的な「欠陥」が目立つ。中国と米国、さらにはロシアの間に挟まれて軍事上で成果を出せない韓国の現状は、「空回り」「非合理的」「的外れ」という表現がぴったりだ。
韓国の国防予算が日本を上回る?
韓国国防省(MND)の発表によると、2022年度の韓国の国防予算は前年度から3.4%増の54.61兆ウォン(約5兆2477億円)だ。
この中にはCVX(大韓民国海軍)軽空母(72億ウォン/約6億9,185万円)や小型衛星システム(112億ウォン/約10億7,621万円)、韓防衛企業であるLIGNex1による長距離地対空ミサイルの開発プログラムが含まれる。予算案には、KF-21戦闘機を開発するための韓国航空宇宙産業(KAI)プロジェクト(4,540億ウォン/約436億 2,778万円)も含まれていた。
韓国の新年度の国防予算は今や日本と並ぶ勢いで、2023年度には日本を追い越す可能性が浮上している。日経新聞の報道によると、実質的には「2018年の時点で韓国が日本を上回ったと日本政府は判断している」。人口一人当たりの予算を比較すると「韓国は日本の2.4倍」だ。
文在寅大統領 次なる野望は「原子力潜水艦」
しかし、これほど巨額を投じて軍事力の強化を図っているにも関わらず、思惑通りの成果につながっておらず、空回りしている感が否めない。
その典型例が潜水艦開発である。韓国は現在、日本より1隻少ない21隻の潜水艦を所有しており、2021年9月には3,000トンのAIP(非大気依存推進)潜水艦「申采浩(シン・チェホ)」を進水させた。
文在寅大統領の次なる野望は、軍事強国の象徴とされる原子力潜水艦を保有することだ。原子力潜水艦は半永久的に潜水できるという特徴から長期潜航に向いているが、潜水中のノイズが難点だ。
現時点において原子力潜水艦を保有しているのは、核保有国である米・英・仏・露・中・印の6ヵ国のみだが、8隻の原子力潜水艦の建設を計画しているオーストラリアがいずれここに加わることになる。オーストラリアに技術を提携するのは原子力潜水艦のエキスパートである米英だ。3ヵ国は2021年9月に、安全保障協力の枠組みである「AUKUS(オーカス)」を発足させた。
戦略的・地理的・外交的な欠陥とは?
豪に続けと、2030年を目標に4,000トン級の原子力潜水艦開発に燃えている韓国だが、これが他国の失笑を買っている。
原子力潜水艦の主な目的は、海中で敵の潜水艦を監視し、必要とあれば攻撃することだ。つまり、韓国が原子力潜水艦を保有するということは、最大の軍事的脅威である北朝鮮との軍事的衝突に備えての動きと見て間違いないだろう。
しかし一部の専門家いわく、それならばSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)6発を搭載する「申采浩」など、すでに保有している攻撃型の通常動力潜水艦で十分に対応可能だ。
仮に、潜水艦発射型ミサイルで対地攻撃を行うとしても、目と鼻の先である北朝鮮が相手では長期潜航がウリの原子力潜水艦をわざわざ引っ張り出す必要はない。むしろ、潜水中に騒音を出す巨大な原子力潜水艦が朝鮮海域を動き回っていれば、戦場では命取りになりかねない。つまり、主旨に外れた目的のために、巨額の開発費と時間、労力を費やしていることになる。
そもそも、「米国が売ってくれないから自国で作ってしまおうという、安易な思考が理解不可能」との指摘もある。2017年11月にソウルで開かれた文大統領とドナルド・トランプ米前大統領の会談後、「韓国側から核攻撃型潜水艦の購入の打診があったものの、米国は首を縦に振らなかった」と海外メディアは報じた。
韓国兵器開発の陰にロシア有り
もう一つの致命的な欠陥は、ロシアとの軍事技術提供関係だ。
韓国はSLBMや射程距離500キロメートル、速度マッハ3の超音速巡行ミサイルなどを続々と開発しているが、これらはロシアの軍事兵器開発技術提供によるところが大きいとされている。
両国は1995年以降、経済協力借款償還プログラム「プルゴム事業」を進めている。1991年に韓国がソ連(現ロシア)に融資した約15億ドルを巡り、ロシアが現物償還を提案したもので、韓国はこの事業の一環として2007年からロシアと軍事技術提供協力関係にある。
文在寅政権の悲願である南北関係改善のカギを握る米国にとって、ロシアの存在が目の上のたん瘤であることはいうまでもない。韓国がロシアに米国の軍事情報を見返りとして提供していた場合、厳しい制裁が待ちうけているはずだ。
「軍事上で成果を出せない」韓国の行く末は?
韓国は主要国が「世界の脅威」と見なす中国に対しても、平身低頭姿勢を維持している。詰まるところ、主要国がこぞって対中・露けん制を強化しているにも関わらず、韓国は兵器技術開発でロシアに依存し、中国には頭が上がらないということだ。
オーストラリアの原子力潜水艦開発や日米の共同兵器開発の例を見るまでもなく、軍事上で成果を出すためには、国際協調という視野から自国の立ち位置と開発の目的を明確にすることが重要だ。
韓国のようにズルズルと板挟みの状態でいる限り、米国や他国の信頼を得るのは不可能だ。それどころか、いずれ主要国の反感を買い、中露には良いように利用されるというシナリオも想定される。
「空回りの武器開発」は次期政へ受け継がれるのか?
文在寅大統領は2021年3月、2033年を目標に「3万トン級の軽航空母艦」の開発を計画している意向を明らかにした。文在寅の的外れの軍事戦略とどちらつかずの外交は、果たして次期政権へ受け継がれていくのだろうか。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)