「ウイグル強制人口抑制」の証拠隠滅?中国政府が統計から”地域別出生率”を抹消した理由
(画像=Vlad/stock.adobe.com)

中国政府がほぼ毎年公表している『中国統計年鑑2021年版』から、突如として地域別出生率(人口千人当たりの出生数)が消えた。これはなぜなのか。この疑問から、ウイグル族への弾圧疑惑がさらに強まっている。新疆ウイグル自治区における人口抑制策実施と出生率急減の事実隠蔽が、その目的だとの見方が強い。

ウイグル族弾圧の証拠隠滅?

西日本新聞の分析によると、新疆ウイグル自治区における出生率は、2017年15.88%、2018年10.69%、2019年8.14%、2020年7.01%と、3年間で半分以下に落ち込んだ。さらに、産児制限「一人っ子政策」が廃止された2015年以降、全土では不妊手術や子宮内避妊具(IUD)の利用が急減したのに対し、新疆ウイグル自治区の不妊処置件数は2014~18年にわたり急増したという。

明らかに不自然な数字の変動である。国際世論が高まっている現在、中国政府は2021年版でさらに出生率が低下していることを隠蔽する必要性に迫られたのではないか。

疑惑を裏付けるデータは他にも存在する。

オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)が中国政府公式統計を分析した結果、2017~19年の期間中、北京の出生率はほぼ半分(48.74%)に減少したことが明らかになった。最大の減少が見られたのは人口の90%以上がウイグル人などの非漢民族の地域で、2017~18年にわたり平均で56.5%の低下が見られた。中国全土の平均(43.7%)と比較すると、その差は歴然としている。

「これほどまでの出生率の低下は、国連(UN)が過去71年間にわたり収集した各国のデータ上類を見ない」と同研究所は調査報告書『家族計画の解除(Family de-planning)』の中で指摘している。

避妊政策でウイグル人の出生が数百万件減少?

一方、ワシントンD.C.の共産主義犠牲者記念財団で中国研究の上級研究員を務める独人類学者アドリアン・ツェンツ博士は、2021年6月に発表した報告書の中で「避妊政策が継続された場合、新疆ウイグル自治区南部の少数民族の出生数は今後20年以内に60万~450万人減る可能性がある」と警鐘を鳴らした。

「当局は意図的に、以前は少数民族が大半だった新疆ウイグル自治区の一部に漢民族を流入させ、ウイグル族を強制的に移送した」とも述べている。数々の証言によると、新疆ウイグル自治区で実施された人口抑制策は熾烈を極めるものだ。避妊や堕胎強制、収容所送り、禁固刑など非人道的な行為が、日常的に繰り広げられているという。

国内の「安全問題」を管轄する中国共産党中央規律検査委員会の2017年の報告書は、人口の97%がウイグル族または他の非漢族グループであるホータン県(新疆ウイグル自治区ホータン地区に位置する県)だけでも、460人の党員・州職員が「違法な出産」の罪で罰せられたことを示している。

また、チャプチャル郡(新疆ウイグル自治区イリ・カザフ自治州に位置する群)において、2017年の4ヵ月間に徴収された「違法出産の罰金」は総額100万ドル(約1億1,428万円)に達した。

中国政府「出生率低下は完全に個人の選択」

中国政府がウイグル族の人口抑制に躍起になっている原因の一つは、「一人っ子政策」の誤算である。「一人っ子政策」には免除が設けられており、少数派民族の家族は農村部に3人、都市部に2人の子供を持つことが許可されていた。

ASPIの報告書によると、実施期間を通じて新疆ウイグル自治区の全体的な出生率は比較的安定していたが、特にウイグル族が多い南部では10年間で出生率が急激に上昇した。2014年の自治区全体の出生数の平均は1,000人あたり16.5人であったのに対し、自治区の西南部カシュガルではその4倍を超える68人だった。

イスラム教徒の急増は、中国政府にとって「過激主義、テロリズム、分裂主義の三悪の温床」であり、急速に手を打つ必要があった。

米英豪加が冬季北京五輪で外交ボイコット 効果は少ない?

中国政府は一貫して、国内における虐待やジェノサイド(大量虐殺)、人道に対する罪の申し立てを全面的に否定しており、ウイグル族の「職業訓練センター」への強制収容を含む政策は「テロ対策の取り組みである」と主張している。

避妊や中絶強制の訴えについては、「避妊は完全に個人の選択であり、政府の干渉はない」「出生率の低下は、収入の増加や家族計画を立てる夫婦が増えたためだ」と全く相手にしない。

介入を試みる西側諸国との摩擦は、スポーツ界にも波紋が広がっている。米国や英国、オーストラリア、カナダは、2022年に開催が予定されている北京冬季オリンピックに、政府代表団を送らない意向を明らかにした。

テニス選手、彭帥氏の安否を気遣う女子テニス協会(WTA)が、中国での大会開催を全面停止にすると発表したことを受けての流れかと推測される。同氏は2021年11月、元中国副首相・張高麗氏との不倫関係をSNSで暴露した後、2週間以上にわたり消息を絶ち、WTAや欧米政府が動きだす事態に発展した。

しかし、「スポーツに政治を介入させるべきではない」「制裁効果は小さい」など、外交ボイコットを良しとしない声も少なくない。確かに、国際大会においては選手の参加を取りやめない限り、競技そのものへの影響は皆無だろう。

現在、180を超える組織が各国政府に北京五輪のボイコットを要請しているが、完全不参加を決意する国は今のところ見当たらない。

中国は逆ギレ、主要国は足並み揃わず

国際批判にさらされているにも関わらず、中国政府から聞かれるのは開き直りと正当化、逆ギレのオンパレードである。しかし、人権問題の解決に向けて働きかけている主要諸国の足並みが今一つ揃っていない今、事態が改善の兆しを見せる日はまだまだ先のこととなりそうだ。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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