行動経済学とは? 基礎理論やマーケティングでの活用事例、注意点などを解説
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経営では、顧客の消費行動を想定したマーケティング活動が重要であり、人間の非合理的な経済活動を分析する行動経済学の理論がいくつか活用されている。今回は、行動経済学とは何かがわかるように、マーケティングに関わる理論、活用事例、活用における注意点などについて解説する。

目次

  1. 行動経済学とは?
    1. 行動経済学と経済学の違い
  2. 行動経済学の代表的な理論と活用事例10選
    1. 理論1.アンカリング効果
    2. 理論2.プロスペクト理論
    3. 理論3.現状維持バイアス
    4. 理論4.おとり効果
    5. 理論5.サンクコスト効果
    6. 理論6.ハロー効果
    7. 理論7.バンドワゴン効果
    8. 理論8.バーナム効果
    9. 理論9.フレーミング効果
    10. 理論10.ザイオンス効果
  3. 行動経済学を活用する際の2つの注意点
    1. 注意点1.理論に傾倒しすぎない
    2. 注意点2.効果を継続的に確認する
  4. 行動経済学の活用では実証データをノウハウとして蓄積
  5. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

行動経済学とは?

そもそも行動経済学とはどのような学問なのだろうか。一般的な経済学との違いなどを交えながら解説する。

行動経済学と経済学の違い

経済学とは、商品の購入やサービスの契約といった消費行動をはじめ、企業の売上を最大化するための経営戦略や政府による経済政策など、大小さまざまな社会現象や経済行動について研究する学問だ。

経済学では、人間は合理的な行動を取ることを前提にしており、「国富論」のアダム・スミスや「資本論」のカール・マルクスなど、これまで多くの学者が研究してきた。しかし消費者は、物を購入したりサービスに契約したりする際に、不合理な行動を取ることがある。

・他人が欲しがる商品を自分も欲しがる
・同じ契約条件で金額が安いA社ではなくB社と契約する
・知らないお店でも長い行列があれば並んでしまう

競合他社に比べて、値段が安くサポートの信頼性が高いなど、合理的に考えれば自社製品が売れる状況がある。しかしその場合でも、全ての人が自社の製品やサービスを選ぶとは限らない。

行動経済学では、人間の予測とは異なる非合理的な行動メカニズムの解明を目的としている。経済学と名付けられてはいるが、社会学や心理学などの側面もあるといえよう。

行動経済学の代表的な理論と活用事例10選

行動経済学にはさまざまな理論があり、実際に経営やマーケティングにも活用されている。ここでは、一般的な行動経済学の理論について活用事例を交えながら紹介する。

理論1.アンカリング効果

アンカリング効果は、船を係留するアンカー(碇)から生まれた言葉であり、係留効果とも呼ばれる。購買や契約などの意思決定に際して、事前に得た数値情報などが判断に影響を及ぼすという理論だ。

購入しようと思っていなかった商品であっても、「タイムセールで5割引き」「この日だけ3割引き」などの情報を目にすると、購買意欲が高まらないだろうか。

このようにインパクトのある情報を先に提示し、相手の潜在意識にアンカーを打ち込めば、価値判断を変えられる可能性がある。

【アンカリング効果の活用事例】
・スーパーのチラシにタイムセール割引きなどの折込チラシを入れる
・契約プランを年額12万円ではなく月額1万円にする

理論2.プロスペクト理論

プロスペクト理論は、不確実性の高い複数の選択肢がある場合、人はそれぞれの損得勘定で判断・選択するという理論だ。

消費者は損失を回避したいという心理で意思決定をする傾向にあり、それぞれが期待する価値が支払った損失分を超えるかを判断材料に行動する。

よくある事例が宝くじだ。当選確率が低くても、100円のクジで100万円が当たる可能性があれば購入してしまう。

【プロスペクト理論の活用事例】
・商品購入後30日間は全額返金可能というキャンペーンを実施する
・商品購入者に期間限定のポイントを付与し、期限切れまでに次の購入を促す

理論3.現状維持バイアス

現状維持バイアスは、自分が置かれている現状の維持を優先しやすいという理論である。

仮にサービスに加入して今後の生活が向上するとしても、現在の生活環境を変えることにリスクを感じる人もいる。

一度契約したサービスをなかなか変更できないのは、現状維持バイアスが関係している可能性が高い。

現状維持バイアスと同じように、現在の価値判断を優先する理論として、現在志向バイアスもある。将来期待される大きな利益よりも現在得られる小さな利益を優先するという理論だ。

そのほかにも、一度入手したものは手放しにくいという保有効果という理論もある。

【現状維持バイアスの活用事例】
・サブスクリプションサービスの初月会費を無料にする
・返金保証付きの商品を販売する

理論4.おとり効果

おとり効果は、劣った選択肢の存在によりほかの選択肢が魅力的に感じてしまう理論だ。おとりを提示して消費者の選択肢を絞ることで成約率を高められる。

【おとり効果の活用事例】
・A、Bプランよりも付加価値の割に価格が高いCプランを提示する

理論5.サンクコスト効果

サンクコスト効果はコンコルド効果として知られる理論である。サンクコスト(埋没費用)はこれまでにすでに投資されたコストであり、お金だけでなく時間なども含まれる。

時間やお金をかけて継続してきたことは中止しづらい。結果的に損するとわかっていても同じ状態を続けてしまうことはよくある。

【サンクコスト効果の活用事例】
・継続課金サービスに退会で失効するポイントを付与する
・指定金額以上の購入で特典がもらえる商品を販売する

理論6.ハロー効果

ハロー効果とは、対象を評価する際に目立つ特徴に影響を受けると、ほかの項目も同じような評価になってしまう心理現象だ。後光効果とも呼ばれる。

特定項目の評価の高さによって、ほかの項目の評価が上がる効果をポジティブ・ハロー、逆に評価が下がる効果をネガティブ・ハローと呼ぶ。

【ハロー効果の活用事例】
・化粧品の商品広告に美肌で有名なインフルエンサーを起用する
・商品Aの有効成分が商品Bの### 倍などと数値的なインパクトを示す

理論7.バンドワゴン効果

バンドワゴン効果は、他人の行動や発言によって自分の行動が決定されやすい心理現象だ。群衆行動や同調行動とも呼ばれる。

長い行列ができる飲食店はおいしいと感じたり、口コミや評価がよい商品は安心できると考えたりしてしまうケースがよい例だろう。

【バンドワゴン効果の活用事例】
・商品の購入数を表示して多く購入されている商品を目立たせる
・ランキングを設けて人気商品をわかりやすく表示する

理論8.バーナム効果

バーナム効果は、多くの人に当てはまる普遍的な内容が今の自分に該当すると判断してしまう心理効果だ。占いの手法としてもよく知られている。

たとえば、肌荒れは肌ケア不足ではなく睡眠不足による影響もある。よく眠れていない消費者が「素肌の健康には質のよい睡眠が不可欠」といった寝具広告を見れば、「今の自分の肌荒れは疲れているから」と認知して商品を購入する可能性もある。

【バーナム効果の活用事例】
・健康飲料の広告に「眠れずに疲れが取れない40代へ」などと記載する

理論9.フレーミング効果

フレーミング効果は、同じ内容なのに表現の小さな違いから判断が変わる心理効果だ。

たとえば、1個300gのリンゴを通販で購入する場合、リンゴ10個よりもリンゴ3kgのほうがお得に感じる人もいる。

また、同じサービスでも「契約者の90%が継続利用するサービス」のほうが、「契約後10%の人が解約するサービス」よりも印象はよいだろう。

【フレーミング効果の活用事例】
・飲料品の有効成分表示をgからmgに変更する

理論10.ザイオンス効果

ザイオンス効果は、接触機会が多くなるほど対象物への興味関心や好感度が高くなる心理効果だ。

最初は購買意欲が高くなかった商品でも、ネットや雑誌などで見る機会が増えると購入してしまうことがある。営業活動の基本であるアポイント数を増やす手法も、ザイオンス効果を狙っているのだろう。

ザイオンス効果には以下のような注意点もあるので押さえておきたい。

・接触回数の増加による効果の限度は10回まで
・最初から印象が悪い対象には効果がない

【ザイオンス効果の活用事例】
・見込み客にSNS広告などで継続的にアプローチする
・期間限定の割引サービスを行って顧客との接触機会を増やす

行動経済学を活用する際の2つの注意点

行動経済学は、経営やマーケティングに活用できる理論もあるが、使用する際には2つの注意点がある。

注意点1.理論に傾倒しすぎない

行動経済学は、あくまで理論に過ぎない。実証実験も行われたうえで構築されている理論がほとんどだが、実証のための設定条件が全ての人に当てはまるとは限らない。

また、インターネットやSNSの普及など、外部環境の著しい変化によって価値観も変化している。そのため、行動経済学に関する各理論の期待結果のみに目を向けるのではなく、顧客のペルソナ設定など消費者目線の行動予測も怠ってはならない。

注意点2.効果を継続的に確認する

行動経済学の理論を利用したマーケティングでは、効果の数値化を心がけよう。

無料キャンペーンを行う場合でも、アンカリング効果や現状維持バイアスなど、結果期待によって選択する理論はさまざまある。

キャンペーンに期待している効果を明確にしたうえで、その効果を数値に残す。自社と相性のよい手法を見出すためにこうした実証データを蓄積していくことが重要だ。

行動経済学の活用では実証データをノウハウとして蓄積

行動経済学は、消費を含む経済活動における人の非合理な行動を分析する学問である。行動経済学には、プロスペクト理論やアンカリング効果、おとり効果などのように、マーケティングで使用される考え方も多い。

しかし、それらの理論が必ずしも全ての事業に当てはまるわけでなく、これから先の価値判断の変化に対応できるとは限らない。

行動経済学の理論を経営に利用する際は、目的や期待効果を明確にしておくことが大切だ。そのうえで、なるべく数値データとして結果を残し、今後の経営に活用できるノウハウを蓄積するとよいだろう。

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文・隈本稔(キャリアコンサルタント)

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