トップダウン? ボトムアップ? 組織に適した意思決定の仕方を選ぶ方法
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ビジネスの世界で日常的に使われる用語である「トップダウン」と「ボトムアップ」。会社の経営方針として「トップダウン」と「ボトムアップ」の会社のどちらがよいとは一概にはいえない。なぜなら一長一短があるからだ。

経営者が経営方針を決定する場面では、即断即決を必要とするときもあれば、慎重に時間をかけて進めなければならないときもある。経営の意思統一を図るには、場面に応じた使い分けが必要だ。本稿では、経営方針を決定する場面で、「トップダウン」と「ボトムアップ」はどのように使い分けるべきかを解説する。

目次

  1. 「トップダウン」と「ボトムアップ」の意味
    1. 「トップダウン」の意味と特徴
    2. 「ボトムアップ」の意味と特徴
  2. 「トップダウン」と「ボトムアップ」のメリットとデメリット
    1. 「トップダウン」のメリットとデメリット
    2. 「ボトムアップ」のメリットとデメリット
  3. 「トップダウン」は一歩間違えると「ワンマン経営」
    1. 「ワンマン経営」の特徴
  4. 「トップダウン」と「ボトムアップ」それぞれの有効な場面
    1. 「トップダウン」が有効な場面
    2. 「ボトムアップ」が有効な場面
  5. トップダウン、ボトムダウンは使い分けが大事

「トップダウン」と「ボトムアップ」の意味

最初にビジネスの場面で使うトップダウンとボトムアップの意味と特徴をそれぞれに見ていこう。

「トップダウン」の意味と特徴

トップダウンとは、社長や役員である経営組織のトップが組織や経営方針に関することを業務命令したり部下に指示したりすることで社員へ示達する、意思統一を図るための経営手段や管理方式を意味する。「トップダウン方式」の経営手段が取られるのは、主に中小企業など少人数規模の企業が多い傾向だ。

しかし大企業でも、経営者に創業者一族がいるケースや創業者が1代で会社を大きくした場合などでは、トップダウンで命令が下されるケースがよく見られる。そもそもトップダウンは、重要な経営方針や業務命令を示達して意思統一を図るためのものであり、判断内容が正しくなければ意味がない。また判断を下すタイミングも重要であり、スピードが求められるときに使われることが多い傾向だ。

トップダウンの使い方には、主に2つの方法が考えられる。

・上から指示される
トップダウンは、上司が部下に指示する場面で使われることがある。なぜなら会社組織として上司の命令や指示が簡単に無視されるようでは、業務運営に大きな支障を来してしまいかねないからだ。そのため逆らったり間違ったりしては困るようなことを上司が命令し部下を統制させる場面でトップダウンが使われている。

例えば「飲食店などマニュアルにより作業工程が決まっている」「製造業や建設業などで機械の使い方や作業の手順が決まっている」といった場合は、トップダウンによる命令や指示が必要だ。迅速にサービスを提供したり、けがをする危険性が伴う作業をしたりする場合には、業務命令や上司の指示を優先する必要がある。

また部下を育成する場面でもよく使われる。業務はその優先度や重要性を確認して部署や係で認識を共有して進めることが必要だ。例えば「部下に経験がない新たな業務を教える」「失敗が許されない」「期限が迫っている」といった場面では、優先すべき重要な事項を上司が指示する場合がある。

・上層部の経営方針を上意下達
企業の経営方針や経営理念を社内に周知する場面で使われることがある。一度決定した経営方針や長く培われてきた経営理念を簡単に変更するわけにはいかない。トップダウンには「上意下達」という意味もあり「上層部に決定権や裁量権がある」という意味でよく使われる。例えば、法改正への対応や外部監査などで指摘され早急な改善を必要とする場合にトップダウンによる命令が下されることがある。

法改正があれば議論する余地もなく対応しなければならず、外部組織の監査などで改善を命じられたときには、早急に改善せざるを得ない。迅速な対応が必要となるケースでは、経営方針として決定権や裁量権がある者が命じることで現場が混乱することなく効率的に企業全体を動かすことが期待できる。

「ボトムアップ」の意味と特徴

ボトムアップは、アイデアや意見を部下などからヒアリングし、考え方をまとめたうえで経営組織のトップが意思決定を行うことを指す。結果や考えに至った経緯と理由を社員に示達することで意思統一を図る経営手段や管理方式である。「ボトムアップ方式」の経営手段は、多くのアイデアを必要とする商品開発や技術系企業で効果的といえるだろう。

大企業でも新商品の開発や新しいサービスの提供をする場合、従業員からアイデアを募ることが多い傾向だ。また隠れた有能な人材の発掘にもつながる。これまでにない発想や率直な意見を吸い上げるには、意見が出やすい職場風土が必要だ。さらに慎重に時間をかけて練り上げる必要がある場面で用いることも有効である。多くの意見があればそれだけリスク回避・軽減につながるだろう。

「トップダウン」と「ボトムアップ」のメリットとデメリット

トップダウンとボトムアップによる経営手段をメリットとデメリットから整理して見よう。

「トップダウン」のメリットとデメリット

トップダウンのメリットとデメリットには、以下のものが考えられる。

【メリット】
・やるべきことが明確になり効率的な企業運営を可能とする
・意思決定が迅速で他社に後れを取ることなく新商品の開発や新しい分野への進出が可能となる
・従業員に経営方針が浸透させ組織全体の一貫性や一体感、連帯感を醸成できる
・経営陣が優れていれば現場の声に惑わされず革新的変化を起こすことも可能になる
・企業の危機的な状況や緊急を要する事態において初期対応を早められる

【デメリット】
・経営層に判断能力がないと経営の危機や企業の存続が危ぶまれ企業全体に悪影響を与える
・経営層のみの意見ばかり通ると中間管理職の立場がなくなり意見が出にくい職場風土となる
・経営方針に逆らえない雰囲気になり不満・反発の意見が出て正しい現況がトップに伝わりにくい
・クレーム発生時や画期的なアイデアが生まれたときにフィードバックされなくなり対顧客へのサービスのレベルが落ちるリスクがある
・言われたことだけしかやらなくなると、自ら考えて行動する有能な人材が育ちにくい

「ボトムアップ」のメリットとデメリット

ボトムアップのメリットとデメリットは、トップダウンの対照的なものが多くなる特徴がある。

【メリット】
・現場の声が経営陣まで届きやすくなり意見が出やすい職場風土とモチベーションアップにつながる
・自分の意見やアイデアが採用される自覚が生まれ自ら考えて行動する従業員が育つ
・従業員が経営への参加意識を持つようになり離職率低下や優秀な人材の流出防止につながる
・クレーム発生時や画期的なアイデアが生まれたときにフィードバックされやすく、現場の課題や問題を組織で共有できる

【デメリット】
・さまざまなアイデアや意見を聞いて吸い上げてまとめていくため、意思決定に時間がかかる
・多くの意見やアイデアを現場でまとめることができる有能な人材が必要になる
・意見を聞きすぎることによってかえって迷いが生じ、意思決定がしにくくなる
・従業員自身が楽をするために安易な提案をすることや企業にとってマイナスとなる意見が出ることもある

「トップダウン」は一歩間違えると「ワンマン経営」

トップダウンは、ワンマン経営と見られがちだが特徴を理解すれば意味の違いはわかるだろう。同じ「鶴の一声」でも社長の思い込みやわがままとは意味が大きく異なるのだ。

「ワンマン経営」の特徴

ワンマン経営とは、企業の創業者や社長などの1人の経営者が経営の上層部や幹部など補佐やアドバイスをする者の意見を聞かずに独断で企業経営を行うことを指す。上層部や幹部がイエスマンばかりで中間管理職に能力がない者ばかり選ぶようなケースでは、ワンマン経営に陥る可能性がある。ワンマン経営は、経営判断や人事異動、人事考課などへ介入し経営者1人の意向をすべて反映させるのが特徴だ。

そのため公平性に欠き社員の信頼を失うことがある。またパワハラにつながることもあるため、注意が必要だ。ワンマン経営者は、会社を大きくしてきた実績があるケースも多く突出した能力やカリスマ性を持っていることも少なくない。しかし他者の意見に単に耳を貸さずに独りよがりの意見を通すだけでは、企業の秩序を乱し経営が危機的状況に陥る原因になりかねないだろう。

同じ「鶴の一声」でも判断能力が必要であり判断が正しいことが前提となるトップダウンとでは、内容は大きく異なるのだ。

「トップダウン」と「ボトムアップ」それぞれの有効な場面

冒頭でも述べたようにトップダウンとボトムアップの会社のどちらがよいとは一概にはいえない。それぞれに一長一短と考え場面によって使い分けるのがよいだろう。

「トップダウン」が有効な場面

「企業の急激な成長を図りたい」「マーケットで一気にシェアを拡大する」などスピードが求められるときには、トップダウン方式による経営は効果的といえるだろう。また「企業経営が危機的な状況にある」「企業の転換期」「組織の構造改革が必要」など早急に手を打つ必要があるときには、トップダウン方式の経営手段は有効である。

「ボトムアップ」が有効な場面

プロジェクトの内容から時間をかけて慎重に進めたり高度の専門性を必要とし複雑な調整や判断が必要だったりする際は、ボトムアップ方式による経営が適している。多くの意見を取り入れ議論を尽くすことでプロジェクトを進めるうえでのリスク軽減や回避につながることが期待できる。

また「幅広い年齢層や男女の意見を聞きたい」「次世代の経営層や管理職などの人材を育てたい」といった課題に取り組むときには、ボトムアップ方式の経営手段は有効だ。

企業経営において重要な意思決定を行う場面は多い。しかしトップダウンとボトムアップには、それぞれに適した使い方がある。そのため場面に応じて使い分けどちらか一方に偏るようなことは避けたほうがよいだろう。時には、即断即決も必要になるケースもあるがそれぞれの特徴を活かしてボトムアップで課題解決に取り組むことが必要だ。

トップダウン、ボトムダウンは使い分けが大事

どんなに優秀な経営者でも1人では限界がある。そのため意思決定を行うのはトップでも現場の声はしっかりと聞いたうえで経営判断をすることが重要だ。トップダウンとボトムアップは、それぞれの特徴を活かして場面によって使い分ける必要がある。最終的には、ボトムアップによって意見を多く取り入ることが大切だ。

意見を経営層が集約・判断し経営の意思決定としてトップダウンで企業全体の意思統一をすることが組織の強化を図るうえで重要といえる。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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