株主代表訴訟とは、企業が取締役等の経営責任を追及しない場合に、株主が企業に代わって責任を追求し損害賠償を請求することだ。不祥事が発生した際などに株主代表訴訟を起こされることが多いが、どのような株主が株主代表訴訟を行えるのか決まりはあるのだろうか。またどのような不正・不祥事の場合に訴えられることになるのだろうか。株主代表訴訟を起こすまでの流れや過去の株主代表訴訟の事例について紹介する。
目次
株主代表訴訟とは?
2006年に施行された会社法第847条では、「企業の経営者である取締役等の違法行為や定款違反、経営判断の誤りによって企業に損害が生じた場合、企業が該当の取締役等の責任を追及しない場合は、株主が代わりに違法行為を起こした役員に責任を追及できる」としている。これが株主代表訴訟といわれるものだ。
株主代表訴訟の相手として訴えることができる取締役は、次の役職に就く人物であることが規定されている。一般の従業員相手に訴えを起こすものではない点は押さえておきたい。
- 発起人
- 会社設立時の取締役
- 会社設立時の監査役
- 役員(取締役・監査役・執行役・会計監査人・会計参与)
- 清算人
また役員が負うべき責任は、大きく分けて以下の2つだ。
会社に対する責任
役員は、会社から経営を任されている立場となり以下の5つの義務を負っている。
- 忠実義務
- 競業避止義務
- 善管注意義務
※善管注意義務:その人の立場等から考えて通常期待される注意義務を指す - 利益相反取引の制限
- 監視・監督義務
役員がこれらの義務を果たさず会社に金銭面や信用面などで損害を与えた場合、株主代表訴訟で責任を問われる可能性がある。
会社以外のものに対する責任
役員は、一般的な「不法行為」に対する責任や金融商品取引法に規定される責任も負う。具体的には以下のようなものだ。
- 粉飾決算で損害を受けた株主
- 代金を支払えなくなった取引先
- ハラスメント被害者など
役員等は、会社だけでなく会社以外の者に対しても責任があることを忘れてはならない。例えば金銭面や不正に伴い会社へ大きな損害を与えた場合だけでなく、ハラスメント行為に対する監督責任なども含まれる。会社や会社以外のものに対しての義務や責任を果たさなかった際に、株主代表訴訟を起こされる場合があるのだ。
なお株主代表訴訟を株主自身やその他の人が不当な利益を得るために起こすことも考えられるが、会社法には「不当な利益を目的とした訴訟は提起できない」との規定も明記している。そのためあくまでも役員等が不正を起こしたときにのみ訴訟を起こすことができる。また株主代表訴訟で株主側が勝訴しても株主に高額の賠償金等が手に入るわけではない。
賠償金等を受け取ることができるのは会社だ。株主代表訴訟で訴えられた役員等が敗訴した場合は、役員等が会社に対して賠償金を支払うことになる点は覚えておこう。
株主代表訴訟の流れ
株主代表訴訟の流れを確認しておこう。株主代表訴訟は、6ヵ月以上株を保有する株主が起こせる。ただ思い立ったらすぐに訴訟が起こせるわけではない。まずは、訴訟の前に会社に対して、役員の責任を訴訟して追求してもらいたい旨の書面の提出が必要だ。60日間会社が問題解決のためのアクションを起こさなければ株主代表訴訟を起こすことができる。
では、株主代表訴訟の流れをさらに詳しく見ていこう。ここでは、公開会社の例を挙げて紹介していく。
※公開会社:発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう
出典:会社法第二条 五
1. 提訴前
6ヵ月以上株を保有する株主が、会社に対して不祥事などを起こし会社に損害を与えた役員等の責任を追及してもらいたい旨を請求。請求の日から60日以内に会社が何も対策を講じなかった場合、株主代表訴訟が可能になる。
2. 裁判所について
株主代表訴訟は、会社の本店所在地の地方裁判所に提起することが必要だ。地方支社等で起こった問題についても本社所在地の裁判所に訴える必要がある。
3. 訴訟の手数料の納付
株主代表訴訟の場合、手数料は一律1万3,000円だ。これ以上訴訟の手数料を取られることはない。
4. 訴訟することの告知
株主代表訴訟を提起する株主は会社に対して訴訟することの告知を行う必要がある。
5. 判決
【株主側が勝訴の場合】
原告の株主が勝訴しても賠償金を原告が受け取ることはできない。会社側に支払うことを要求するのみとなっている。ただ原告の株主側は株主代表訴訟にかかった費用(調査費用など)や弁護士への報酬については、会社側に請求することができる。
【株主側が敗訴した場合】
悪意を持って株主代表訴訟を起こした株主側が敗訴した場合、会社に損害賠償を支払う責任を負うこととなる。
なかには、株主代表訴訟を起こす株主側と訴えられる役員側でなれあいが起こる可能性も否めない。それを防止するために会社法849条1項では「他の株主又は株式会社による訴訟参加」、会社法853条で「再審の訴え」も認められている。
株主代表訴訟の2つの事例
株主代表訴訟は、年々増加傾向にある。どのような訴訟が行われるのかを知るためにも過去の株主代表訴訟の事例を見てみよう。
1. ヤクルト本社株主代表訴訟事件(平成22年)
ヤクルト本社が1人の取締役にデリバティブ取引を担当させた。しかし取締役は、取締役会の承認を得ずに取引を行ったうえ会社で制限されていた限度を超える取引も行っていた。結果的に約533億円の特別損失を計上することとなる。株主側は、取引担当の取締役や他の役員の行為は「忠実義務違反」「善管注意義務違反」に当たるとし株主代表訴訟を起こした。
裁判の結果、取引担当の取締役には「善管注意義務違反」が認められ約67億円の損害賠償が認められた。しかし個々の取引で取締役会の承認を得なかった点は、取締役に決裁権限があったことなどを理由に違法ではないとの判決。また他の役員についても会社のリスク管理体制は相応のものだったとして違法取引を止められなかったが監視義務違反はないとされた。
2. アパマンショップ株主代表訴訟(平成22年)
株式会社アパマンショップマンスリー(以下、マンスリー社)は、株式会社アパマンショップホールディングス(以下、ホールディングス)が株式の3分の2、フランチャイズ事業加盟店が残りの3分の1の株式を保有するという会社である。平成18年、ホールディングスの取締役は完全子会社に主要業務を担当させマンスリー社を持株会社に再編する計画を行った。
それに伴いホールディングスはマンスリー社の株式を1株5万円で買い取る決定を行っている。この決定についてホールディングスの株主は「マンスリー社の株式の適正価格は1株8,448円程度である」と考え、不当に高額な買取価格を決めた取締役に「善管義務違反」があるとして株主代表訴訟を起こした。裁判では、取締役の善管義務違反が問われ最高裁まで争われることとなる。
その結果、株式の買取価格に不当なところはなく、決定の過程にも不合理な点はないとされ取締役に善管義務違反はないとされた。
株主代表訴訟の2つの対策
解説した通り株主代表訴訟は悪意を持って行われることは禁じられている。しかしそれでも訴訟を起こされることがあるかもしれない。その際の対応策について考えたい。
1. 株主代表訴訟に対しての担保を請求する
悪意を持って株主代表訴訟を起こす場合、後ほど会社側から損害賠償請求も可能となる。そのため株主側が本当に悪意なく訴訟を起こすつもりなのかを確認するために相応の担保を請求することをおすすめしたい。株主が本当に会社に責任があると考えている場合は、担保を差し出してくるはずだ。担保の請求は、悪意を持った訴訟と疑われる場合のみとなっている。
担保の提出がなかった場合は、審理に入ることなく訴えは棄却される。
2. 日ごろからきちんとした経営を行う
株主代表訴訟を起こされる原因の一つは「経営に対しての不信感」だ。取締役会、株主総会などをきちんと行って議事録を残すなど経営に関して報告する場を設けていれば株主代表訴訟にまで至る心配もなくなるだろう。当然法令に従った経営やコンプライアンスの順守も重要だ。法令違反などで訴えられることのないように気を付けよう。
株主代表訴訟を起こされないために
不正を起こした役員等を相手取って会社に対する損害賠償を請求できるのが株主代表訴訟だ。裁判に勝ったとしても株主は賠償金を受け取ることができない。株主代表訴訟は、6ヵ月以上株を保有している株主であれば起こすことができる。しかしすぐに起こせるものではない。まずは、会社側に不正等を起こした事実、そして処分等を請求する旨の訴えを送る。
その後、会社が60日間何もしなければ株主代表訴訟に進むこととなる。もし株主代表訴訟を起こされたくないのであれば訴訟の前に何らかのアクションを起こすことが必要だ。またなかには、悪意を持って訴訟を起こそうとしてくる株主もいる。不当な訴えを起こされないように株主代表訴訟に対しての担保を請求することも一つの手段だ。
もし担保の差し入れがない場合は、訴えは棄却される。株主と争うことになる株主代表訴訟は、金銭面やかかる時間の面からも会社に大きな負担を負わせるものとなる。訴えを起こされないようにするためにも日ごろから法令順守・コンプライアンス順守だけでなく株主総会等をきちんと行い議事録を残すなどの対応が必要だ。