中国「新規ゲーム凍結」で1万4,000社が廃業 中国ゲーム産業の行方は?
(画像=momoforsale/stock.adobe.com)

中国メディアの報道によると、中国政府が新規ビデオゲームライセンスを凍結したことにより、約5ヵ月間で約1万4,000社の小規模なゲーム関連会社が登記を抹消された。波紋はネットサービス大手、テンセント(騰訊控股)を筆頭とする大手IT企業にも広がっている。

「教育改革」で新規ゲームライセンス凍結

『中国インターネット開発レポート』などのデータによると、2020年の中国ゲーム業界の収益は、前年から20.71%増の約432億ドル(約4兆9,510億円)だった。中でもモバイルゲームの収益は32.61%増加して、総収益の75.24%を占めるなど安定上昇基調にあった。

ところが2021年7月末に規制が強化されて以来、新作ゲームへのライセンスがまったく発行されなくなった。ライセンスを取得していないゲームを国内で配信することは、違法行為と見なされる。影響を受けた関連企業は、続々と実質上の廃業に追い込まれた。規制強化以前は国家新聞出版広電局(SAPP)の管轄下で、毎月80〜100本の新作ゲームにライセンスが発行されていたという。

背後にあるのは、近年、中国共産党が注力している「教育改革」だ。ライセンス凍結と同月に学校の宿題量の制限や学習塾の新規開設禁止および非営利化を巡る政策を発表した。さらに翌月には、すでに平日1.5時間、休日3時間に制限していたオンラインゲームの提供時間を、金曜・休日1時間へと短縮した。

世界一の「オンラインゲーム中毒大国」

共産党が未成年のゲーム中毒を懸念しているのも一理ある。米クラウドサービス、ライムライトネットワーク(Limelight Networks)が実施した調査によると、中国のゲーマーの平均プレイ時間は週12.4時間と対象8ヵ国中最長だった。また、「(規制強化以前は)未成年者の13.2%が平日に1日2時間以上ゲームをプレイしていた」と、中国国営メディアは報じている。

若年層のゲーム人口増加の弊害の一つが、未成年者の近視の増加だ。公的統計によると、12〜14歳の子どもの近視の割合は2010年に58%、2018年には72%に上昇した。

中国が世界一のゲーム依存大国となった要因は、いくつか考えられる。

同国では「子どもの精神的および肉体的発達への悪影響」の懸念から、2000〜2015年にわたりコンソールゲーム(ゲーム機器を必要とするゲームのこと)が禁止されていた。そこにスマホの急速な普及が拍車をかけ、世界中のゲームに簡単にアクセスできて安上がりなオンラインゲームに若年層が殺到したのだ。

悪影響を防止するための規制がオンラインゲーム中毒者増加の要因となったのは、何とも皮肉な結果である。

大手にも影響大 リストラや海外開発で対応

共産党に圧力をかけられている大手IT企業間においても、各社の存続を賭けた苦肉の策が講じられていることが関係者の証言から続々と明らかになっている。

2021年第3四半期(7~9月期)に166億元(約2,996億5,369万円)の純損失を計上した中国最大の検索エンジン、バイドゥ(百度)は、ビデオゲーム部門から少なくとも100人の従業員の解雇を余儀なくされた。同社は2017年にモバイルゲーム事業を売却したが、中国ゲーム市場への再進出を発表した途端に凍結騒ぎに巻き込まれた。ネット上では「再撤退するのではないか」という噂も流れている。

動画共有サービスTikTokなどを運営するバイトダンス(ByteDance)は、ゲームおよび教育関連事業で数百人規模の大量リストラを実施した。

一方、純利益が10年来初の減益となった中国のネットサービス大手、テンセント(騰訊控股)は、ゲーム関連子会社の開発拠点を海外に分散させている。

同社は、モバイルゲーム『コール・オブ・デューティ・モバイル』の開発元であるTiMi Studios、『リーグ・オブ・レジェンド』の開発元であるRiot Games、『フォートナイト』の開発元であるEpic Gamesを傘下に有する。

過去2年間にわたり、ライアットゲームズの開発チームの主力を香港からシンガポールに移動させたほか、モントリオール、シアトル、ロサンゼルスにTiMi Studiosを構えている。さらに2021年12月には、新たなTiMi Studiosの開発ハブをシンガポールに設立する計画を明らかにした。

3社ともに国内のゲーム・教育事業を縮小する一方で、AI(人工知能)や医療ヘルスケア、Eコマースなど多岐にわたる投資を強化していることから、今後主力分野が変化していく可能性が高い。

IT企業締め付け策の一環?

2018年にも9ヵ月間にわたりライセンスが凍結されたことを理由に、「今回の凍結もいずれ解除されるのではないか」との楽観的な見方がある一方で、ゲーム規制がさらに強化される可能性を懸念する声もある。ちなみに、前回の凍結はSAPPの大規模な改革が理由で、改革後、SAPPは中国共産党の直接的な監視下に置かれることとなった。

一連のIT企業締め付けを見る限り、「巨大化したIT企業を教育改革とともに抑え込んでしまおう」という中国政府の真意が見え隠れする。

中毒防止効果は期待できない?

中国のゲーマーの多くはプライベートネットワークであるVPN(仮想専用線)のようなアプリを利用して、難なく海外のゲームにアクセスする。その事実を考慮すると、ゲーム規制は中毒防止にはほとんど効果を発揮せず、単に産業の成長や改革の足かせになる可能性が極めて高い。しかし、政府の真の意図がIT企業締め付けであるならば、目的は果たされたといえるだろう。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

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