イギリス・ブリストルが生んだ、現代アート界の中で最も重要な人物のうちの一人とされるストリートアーティスト、バンクシー。いくらアートであっても、街中の建造物に無許可で落書きを残すのは違法行為であるため、撤去されたり保護されたりと、それぞれの結末を迎えるバンクシーの壁画。前回のGoogle Street Viewで見ることができるバンクシーの壁画【イギリス編】に続き、今回はイギリス以外の国の壁画を紹介。
アメリカ
《Umbrella Girl》
《Umbrella Girl》または《Rain Girl》とも呼ばれているルイジアナ州のニューオリンズにある壁画。2005年にニューオリンズを襲ったハリケーン・カトリーナによる災害をテーマにした14の壁画シリーズの一部で、現在も壁画が残っているのは、透明のガラスで保護された《Nola》のみ。「Nola」の“NO”はニューオリンズ、“LA”はルイジアナ州のイニシャルをとってつけられたもの。
《Hammer Boy》
2013年10月、バンクシーがニューヨークで滞在制作した際の「Better Out Than In」シリーズのうちの一つ。マンハッタンに残る壁画で、男の子がハンマーを持って消火栓を叩く姿を描いている。ここで注目したいのは、上部の赤い丸も作品の一部として、アメリカのカーニバルや遊園地にあるタワー状の装置の下部をハンマーで叩き、物体を跳ね上がらせて力比べをするハイ・ストライカーというゲームを表していること。周囲の環境を利用して表現するのは、ストリートアートならでは。
「Better Out Than In」の制作は、ドキュメンタリー映画『Banksy Does New York』として記録されている。
《Swing Girl》
元々あったPARKING(駐車場)の“ING”を白塗りにして「PARK(公園)」の文字に少女がブランコで揺れている。子どもが安全に遊べる場所が少ないこと、アメリカの車依存社会を批判しているとも捉えられているロサンゼルスの壁画。この地域周辺では、住民のグループが駐車場を遊び場のあるコミュニティパークに変えようと600万ドルの資金調達を目指していたそうだ。《Swing Girl》または「Parking」とも呼ばれている作品。
パレスチナ
《The Walled Off Hotel》
パレスチナのベツレヘムにある《The Walled Off Hotel》は、バンクシーが2017年にオープンした「世界一眺めの悪いホテル」と呼ばれる宿泊施設である。ベツレヘムを囲む高さ8mの分離壁の目の前に建っているため、日当たりも悪くどの部屋からもイスラエル軍の監視塔が見える。室内、分離壁にはアート作品やグラフィティが散りばめられ、誰でも入ることができるミュージアムも併設されており、バンクシー最大の作品と言っても良いだろう。
《Love is in The Air》
日本語で「愛は空中に」と訳される本作は、別名「Flower Thrower」とも呼ばれている作品。《Girl with Balloon》と並ぶバンクシーの代表作の一つで、2003年にパレスチナとイスラエルを分断する分離壁に描かれた。バンダナで顔半分を隠した過激派のような青年が壁の向こうに投げ入れようとする石や手榴弾、火炎瓶を「花束」に置き換えることで、平和を訴えたパワフルな壁画である。
ANDARTでは同じ年、2003年に制作された反戦・平和を訴える《BOMB LOVE》を取り扱っている。
イタリア
《Migrant Child》
2019年のヴェネツィア・ビエンナーレで目撃された作品をバンクシーが後日、自身のインスタグラムで自分の作品だと認めるポストを投稿した。ライフジャケットを着用し、ピンクの照明弾を手にした子どもが描かれた《Migrant Child》は、かつてバンクシーがフランスの難民キャンプの壁描いた、スティーブ・ジョブズの壁画のように移民や難民の窮状を言及した作品だと言われている。
また、壁画の他にヴェネツィア名物のゴンドラと大型客船を描いた油絵を売る露店も出していた。動画の最後に警察官に「You have to go away, you can’t stay here.」と言われて店を撤収した様子から無許可で出した店だったのだろう。バンクシーは以前にもニューヨークで露店を出し、オリジナルの作品をなんと60ドルで売っていたこともある。
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文:ANDART編集部