中国「一人っ子政策」のツケ 「三人産め!」に国民が“冷”視線
(画像=Craig/stock.adobe.com)

人口増加に歯止めがかからず、長年にわたり「一人っ子政策」を実施していた中国が、今度は「三人っ子政策(三孩政策)」を打ち出した。過剰な産児制限が少子高齢化を加速させ、生産年齢人口を縮小させているのだ。手のひらを返したような改正に翻弄される国民は、冷ややかな反応を示している。

毛沢東が遺した負の遺産?「一人っ子政策」のツケ

「人口を増やせば経済が発展する」と考えた1代目国家主席、毛沢東の経済拡大政策を経て、中国の人口は1960年代に急増した。ピーク時の1963年には出生率が43%を超え、1979年の人口は30年前の1.8倍に値する9億7,542人に増加した。その結果、各地で食料不足や貧困問題が深刻化するなどの弊害が生じた。

人口増加を抑制する必要に迫られた3代目国家主席、鄧小平は、1979年に夫婦一組につき子どもの数を一人に制限する「一人っ子政策」を導入した。これにより出生率や自然増加率(出生と死亡の差によって生じる人口の増加)は著しく低下した。

ところがこの両極端な政策が、後に少子高齢化や人口性比の不均等といった新たな問題を引き起こすこととなる。

中国国家統計局の発表によると、2020年の高齢者(65歳以上)が総人口に占める割合は13.5%と10年間で4.6ポイント増えたのに対し、労働世代(15~59歳)の割合は63.4%と6.8ポイント減った。また、男性の人口の比率が女性を2.4%上回り、出生性比も正常水準である105を6.3上回っている。

同国ではすでに、男女比率の不均等が原因で「結婚できない独身男性が3,500万人存在する」と中国メディアは報じているが、結婚できない成人男性は今後さらに増加することが予想される。

「三人っ子政策」はほぼ強制?

事態を重く見た6代目国家主席、習近平は2016年、一人っ子政策を廃止して二人っ子政策に移行した。しかし、出生率は再び低下し、2020年の出生数は1,200万人と1960年代以来の最低水準に落ち込んだ。このままでは国を支える労働人口が大幅に減少し、国家の経済成長に深刻な支障を来す。より強力な少子化対策が必要だ。

そこで、2021年5月に苦肉の策として打ち出されたのが、三人っ子政策である。表向きは、「人口高齢化対策の一環として、夫婦1組につき三人まで子どもをもうけることを支援する」というものだが、実際は「国民は国家の発展のために家庭をもち、子どもを三人育てて貢献せよ」という圧力が大きい。

とりわけ、共産党党員に対する圧力が強く、「人口発展の重要性と緊迫性」の認識を促し、「主観的な理由から結婚や三人以下の子育てを拒む」ことを批判している。自ら三人っ子政策を実施することが、「党員としての義務」だと主張している。

国民は反発「若い世代は子供を産む気にすらなれない」

改正を受け、中国の国営メディアは一斉に子どもたちが幸せそうに微笑むイラストや動画を掲載するなど、若い世代に子どもをもつことの素晴らしさをアピールしようと試みているが、国民の反応は冷ややかだ。

国営メディア新華社のSNSには、18万人以上のユーザーからコメントが寄せられた。その中には「現代社会にはプレッシャーが多過ぎる。若い世代は子供を産む気にすらなれない」と、子どもの数云々以前に根本的な社会問題が横たわっている点を指摘する声も多い。

かつて、労働力過剰とされていた中国だが、2012年以降は労働力人口が縮小傾向に転じ、2018年は8億567万人と1997年から約4,000万人も減った。縮小を補うために、長時間労働を強いられる若者も多く、ワークライフバランスがとりにくい。

そこへ、生活費や教育費の高騰がのしかかる。家庭をもつことを負担に感じる若い世代が増えているのも、不思議ではない。子どもを作らないことを結婚条件にする、あるいは結婚や子育てよりキャリアを選択する女性も増えているという。

共産党はこのような問題を認識しており、上海や北京など複数の地域で産休を大幅に延長するなど、三人っ子政策に対しても措置を講じていると主張している。しかし、現状を見る限り、「措置が十分ではない」と考える若者が多い。

「〇人生め!」と数字にこだわるより、出産奨励策や子育て支援策を強化するなど、若い世代が将来に不安を感じることなく家庭をもてる環境を整える方が、よほど少子化対策として有効ではないか。

歴史は繰り返すのか?

一方では、三人っ子政策で再び人口を増加させた結果、一人っ子政策が講じられる日が再訪する可能性を懸念する声もある。中国の人口問題は、経済成長を優先した安易な人口増加促進と、人権や自由を無視した産児制限を立て続けに実施した結果である。果たして「歴史は繰り返す」のだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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