中国テンセントが10年で初の減益 理由は中国政府の「ゲーム禁止令」
(画像=Anastassiya/stock.adobe.com)

好調だった第2四半期から一転、中国のネットサービス大手、テンセント(騰訊控股)の第3四半期の非IFRS純利益が10年来初の減益となった。中国当局による大手テック企業締め付けの背景から同社の将来性に疑問を唱える声もあるが、失速はあくまで一過性のもので、市場では概ね「2022年に見通しが明るくなる」との期待感が膨らんでいる。

非IFRS 純利益が10年来初の減益

同社の決算報告書によると、第3四半期(7~9月期)売上高は前年同期比13%増の1,424億元(約2兆5,325億円)、国際会計基準(IFRS)の営業利益は前年比21%増の531億元(約9,443億7,026万円)、営業利益率は前年比2ポイント増の37%に増加した。株主に帰属する純利益(以下、純利益)は3%増の395億1,000万元(約7,024億8,534万円)を記録するなど、堅調な伸びを示した。

しかし、投資収益や無形資産の売却などを控除・調節した非IFRSの純利益となると、話は別だ。コア収益を反映する非IFRSは本来の収益力を測定する指針とされており、ここでの純利益は前年同期比2%減の317億5,100万元(約5,646億6,283万円)と、過去10年間で初めて減益となった。13%増を記録した前四半期と比べると、その差は歴然としている。純利益率は前年から4ポイント減の23%だった。

中国当局の圧力が成長の足かせに

同社の失速を招いた最大の要因は、中国政府によるテック企業への圧力だ。未成年者へ教育改革の一環と称し、さまざまな措置を講じている。2021年7月末には詰め込み教育を是正する意図で、学校の宿題量の制限や学習塾の新規開設禁止および非営利などの政策を発表した。テンセントの主力事業のひとつである教育サービス事業などが打撃を受けた。

さらに8月に入り、オンラインゲーム依存症防止を巡る規制が強化された。これは未成年者へのオンラインゲームの提供を、金曜~日曜日・祝日の午後8~9時に限定するというものだ。ゲーム会社にとっては、未成年ユーザー数や課金収入の目減りは避けられない。

テンセントが開示した国内・国外の売上高をみると、規制強化後の第三四半期のゲーム売上高は、前年同期比5%増の336億元(約5,993億5,784万円)と伸び悩んでいる。

12月初旬には、アプリのリリースに事前審査を義務付ける規制が導入された。月間ユーザー数11億人超を誇る世界最大のチャットアプリ「WeChat」を開発・運営するテンセントにとって、当局の追い詰めるような締め付けが成長の足かせとなっていることは疑う余地がない。

このような背景から、2020年3月には100ドル(約1万円)大台に手が届きそうだった同社の株価は、2021年12月17日現在、56ドル(約6,389円)まで落ち込んでいる。

R&D・インフラ投資が活発化

R&D(研究開発)およびインフラ投資の成長率が、収益の成長率をはるかに上回ったことも、第3四半期の業績を引き下げた要因となっている。R&Dへの投資は今四半期の最大の137億3,000万元(約2,441億 1,524万円)を記録し、第1~3四半期の累計は378億5,900万元(約6,731億2,156万円)と前年同期から36%増加した。

同社が特に注力している分野のひとつはクラウドコンピューティングで、第3四半期のインフラ投資の大半を占める70億6,100万元(約1,259億5,562万円)に達した。

また、金融テクノロジーおよびエンタープライズサービスのコストは、前年比成長率29%の310億元(約5,529億8,507万円)と広告事業のほぼ2倍となっている。全体コストに占める割合は、前月比1.2ポイント増の38.9%となった。

AIから配車サービス、ゲームまで 期待材料満載?

逆風にさらされる中、同社がR&D・インフラ投資を拡大し続けている点は注目に値する。企業にとってR&D投資は、持続的な成長を維持する上で重要な領域だ。同社は他にも、AI(人工知能)技術や配車サービスなど多様な市場に参入しており、いずれも期待材料視されている。

12月中旬には出資先の配車アプリ、滴滴出行(ディディ)が香港上場に向けて準備中であることが報じられた。同社は6月にニューヨーク証券取引所に上場を果たしたものの、わずか5ヵ月で上場を廃止した。中国当局からの圧力で米上場から撤退、あるいは取りやめる中国企業が相次ぐ中、新開地へ目を向ける決断はポジティブな潮流として受けとめられている。

規制強化に屈することなく、ゲーム事業も順調だ。テンセントの子会社ライアットゲームズが開発するマルチプレイヤーオンラインバトルゲーム『リーグ・オブ・レジェンド:ワイルドリフト』が、2021年10月に中国本国でリリースされたこと、テンセントゲームズによる『王者栄耀』が6周年を迎えたことなどを受け、同月の収益は前四半期32%増、前年同月比23.3%増と過去最高を記録した。

今後、第4四半期のゲーム収益を押し上げ、長期的な成長の足掛かりになるとの期待が高まっている。

テンセントの2022年の動向に注目

「テンセントがさらなる高成長の可能性をふんだんに秘めた企業である」という期待感は、投資家にとっても消費者にとっても非常に魅力的だ。しかし、足元では当局によるさらなる締め付けも懸念されている。複雑に交錯するさまざまな要因が同社の今後の業績にどのように反映されるのか、2022年の動向に注目が集まっている。

文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)

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