新型コロナウイルスの流行からまもなく丸2年を迎えようとしている。この間、感染状況の波が家計消費や企業活動を大きく揺さぶり、事業再編を強いられている企業も少なくない。この記事では、企業による早期・希望退職募集に着目し、その動向に迫る。
警戒感拭えず人員整理を断行
現在、新型コロナウイルスの感染拡大は日本国内では収束に向かっているように見える。しかし、収束と拡大を幾度となく繰り返してきたこれまでの経緯を踏まえると、「また感染が拡大するのでは」――と疑心暗鬼になる人も少なくないはずだ。
このような心理は企業活動においても同様に働く。2020年にコロナの影響を大きく受けた企業は、根本的な打開策を見いだせないまま、消極的な経営を余儀なくされてしまうのだ。
そのひとつの結果が人員整理である。業績悪化で経営が成り立たない場合は整理解雇、いわゆるリストラが断行されるが、その前段階として早期退職・希望退職の勧奨が行われるケースが増加傾向にあるようだ。
東京商工リサーチが調査を実施
東京商工リサーチが2021年11月12日に発表した調査結果によると、2021年における上場企業の早期・希望退職者募集人数は、10月末までに72社、計1万4,505人となっている。
業種別では、アパレル・繊維製品が最多の10社で、電気機器9社、運送6社、サービス5社(うち観光4社)、自動車関連5社、食料品製造5社、外食4社と続く。
72社のうち、赤字企業は約6割の44社である。コロナ禍で休業を余儀なくされた百貨店を主力とするアパレル系や、需要が激減した観光業、鉄道や航空といった運送業、外食が例年以上に苦しんでいる。
リーマンショック時に次ぐ高水準に
前年同期と比較すると、早期・希望退職者の募集は1社、1,137人少ない状況となっているが、コロナ禍前の2019年は通年で35社、1万1,351人だったことを踏まえると、依然として高い水準にあると言える。
なお、早期・希望退職者の募集は、リーマンショックの影響を受けた2009年に191社、2万2,950人を記録した。それ以降はやや波があるものの減少傾向が続き、2018年は12社、4,126人となっている。
業種別では、コロナ禍以前の2019年と比較してアパレル系が5社から10社へ増加しているほか、観光業や運送業、外食は2019年にいずれも募集がなかった。コロナ禍以前は絶好調だった観光業における募集は、実に10年ぶりという。
1,000人以上の大型募集は2021年に5社判明しているが、これは2001年の金融危機時における6社に次ぐ水準となっている。リーマンショック時は幅広い業種が薄く募集をかける結果となったが、コロナ禍では特定の業種に大きな影響を及ぼしていると言える。
なお、2021年にアパレル系に次ぐ9社が募集をかけている電気機器をはじめとした製造系は、黒字リストラが多いようだ。業績そのものに問題はなく、中長期的な戦略の一環として人員整理を行っているケースも含まれていることがわかる。
特定業種で募集が増えた理由は?
緊急事態宣言により、アパレル系の店舗や外食系の店舗は時短営業や休業を余儀無くされた。また人流抑制に向けて移動にもメスが入り、鉄道をはじめとした公共交通や観光業が大打撃を受けたのも周知のとおりだ。
このような産業は、コロナ禍が続く限り需要の回復は見込めず、経営効率化に向け大きな判断を迫られることとなる。
KNT-CTは中期的に3分の2まで人員削減
近畿日本ツーリストなどを傘下に持つKNT-CTホールディングスグループは、2021年3月期決算(2020年4月~2021年3月)で売上高が前年比77.2%減の約879億円、営業利益は約271億円の赤字を計上した。
2021年1月に希望退職を募集し、同期の退職者は約1,400人となった。引き続き新規採用の抑制やグループ会社への出向などを実施し、約7,000人の在籍人員を2024年度末までに3分の2に縮小する計画を打ち出している。
三陽商会は募集150人に対し180人が応募
アパレル系の三陽商会は、2021年2月期決算(2020年3月~2021年2月)で89億円の赤字を計上し、2021年2月に150人規模の希望退職を募ったところ、180人が応募した。
今後はDX化の推進に伴う人員整理も増える?
コロナの影響がどこまで長引くかが大きな焦点となるが、いずれの業種も楽観視はできず、最悪の状況を想定したかじ取りが必要となる。
先行きを見通しにくい状況が続くが、これを機にDX(デジタルトランスフォーメーション)化を推し進めるなど経営効率化・最適化を図る動きも加速している印象が強い。IT化の波が押し寄せた時代と同様、変革に向けた人員整理も内在しているのだ。
人間同様、企業もコロナ禍を無事乗り越え、一回り大きく成長することを願いたい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)