2022年度は多くの企業が賃上げを行うことになりそうだ。賃上げの実施は、民間調査会社の帝国データバンクの調査で明らかになった。コロナ禍で経営に少なからずダメージを受けた企業が多い中、どうして賃上げを行う企業が増えそうなのか。その背景に触れる。
帝国データバンクがアンケート調査を行った背景
まず、帝国データバンクが2021年11月に行った「2022年度の賃上げに関する企業の意識アンケート」の結果を紹介しようと思うが、その前に日本政府が掲げている2022年度の税制改正の方針について説明しておく。
この点を理解しておかなければ、帝国データバンクのアンケート調査の結果をうまく読み解くことができないからだ。
岸田新首相、賃上げ企業に対する税制優遇を強化する方針
日本政府はこれまでも、従業員に対する賃上げを実施した企業に対し、税制優遇を行ってきた。この税制優遇策が導入されたのは、2013年度の第2次安倍政権下だった。その後、何度も制度の見直しや拡充などが行われてきた。
しかし今のところ、その効果が限定的であることから、新たに総理大臣に就任した岸田文雄首相は、2022年度の税制改正で賃上げを行った企業に対する税制優遇を強化する方針を示した。
このような岸田新首相の方針を受けて、帝国データバンクは民間企業に対する賃上げのアンケートを行った。
税制優遇が強化されなくても48.6%は賃上げ方針
帝国データバンクが実施したアンケート調査では、2022年度に賃上げを実施するかどうかを企業に対して質問した。回答企業には大企業と中小企業の両方が含まれ、有効回答企業数は1,651社だった。回答結果は以下の通りだ。
「税制優遇幅に関わらず賃上げを行う」と回答した企業が48.6%に上った。つまり、岸田首相の方針が実現するかどうかに関わらず、5割弱の企業は賃上げの実施を予定しているということだ。
仮に、方針通り税制優遇が強化された場合は、上記の48.6%に「現状では賃上げできないが、税制優遇が大きくなれば行う」と回答した8.5%が加わり、2022年度に賃上げを行うとみられる企業は計57.1%まで増える。
付け加えると、大企業で「税制優遇幅に関わらず賃上げを行う」と回答した企業は53.6%、中小企業では47.9%で、大企業の方が税制優遇の強化に関わらず賃上げを行うことに積極的なことも分かった。
業種別・地域別の結果は?
業種別・地域別ではどのような結果だったのか。「税制優遇幅に関わらず賃上げを行う」と回答した企業と、「現状では賃上げできないが、税制優遇が大きくなれば行う」と回答した企業の割合を、業種別・地域別に紹介しよう。
業種別では「製造」「農・林・水産」「建設」が、地域別では「中国」「近畿」「北陸」が賃上げに積極的な企業が多いという結果だ。
2022年度は「賃上げ天国」に!?
新型コロナウイルスの感染拡大で、企業では従業員の減給や雇い止めなどが相次いだ。一方、コロナ禍に収束の兆しが見える中、消費者による「リベンジ消費」の需要を十分に受け止めるために、いまは人員を厚くしようという企業が増えている。
各従業員の賃上げや給料のベースアップを実施すれば、人員の定着・確保につながる。そのためもあり、税制優遇が強化されるかどうかに関わらず、2022年度は多くの企業が賃上げ方針を掲げているということだろう。
新たな変異株である「オミクロン株」への懸念が高まり、2022年度にリベンジ消費が活発になるかはまだ不透明ではあるが、このままコロナ禍が収束していけば、2022年度は多くの従業員が賃上げに喜ぶことになりそうだ。
日本人の平均年収は1990年代には470万円を超えていた時期もあったが、2019年は436万円にとどまっている。今後も賃上げが続き、少なくとも470万円台まで回復することになるかにも注目したい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)