2021年10月30日・31日に開催されたANDARTオーナー向けの鑑賞イベント「WEANDART」の中で、若手アーティストの作品展「KIBI」にご参加いただいた友沢こたおさんに作品のこだわりやコンセプトなどを伺いました。本記事では当日の展示の模様とともにインタビュー内容をお届けします。
友沢こたお 1999年、フランスのボルドー生まれ。5歳までパリで過ごす。2019年久米桂一郎賞を受賞。2020年12月には初の個展「Pomme d’amour」を開催した。2021年に上野芸友賞を受賞。現在は東京藝術大学美術学部油画専攻に在学する大学4年生。 Instagram:@tkotao |
|
制作のコンセプトは「原始的な“生”」
ーー作品の制作テーマと、制作する上で大切にしていることやこだわりを教えてください
作品のテーマはあまり強く押し出してはいないのですが、「原始的な“生”」がコンセプトとしてあります。顔をスライムで覆うと息が止まるのですが、そのときに「生きる」ということを感じます。
ーー実際にスライムで顔を覆った状態を体験しているんですね。
想像ではなく、自分の体を張って実際に体験するということは、制作する上で特に大切にしていることであり、こだわりです。自分の中に幻想や偽り、まやかしへのアンチテーゼがあるので、実際にあるものを描いたり、色もチューブから直接出したものではなく、練って自分の色を作っています。今回展示した作品も、ただ白黒の絵ではなく、いろんな色がちょっとずつ入っていたりします。全部のことにこだわって、自分が満足する絵だけを描いているので、作品を見たときにそれを感じて頂けたら嬉しいです。
様々なカルチャーに囲まれ、常に何かに夢中
ーー好きなアーティストや影響されたアーティストと、その理由を教えてください
油絵で影響を受けたアーティストはフランシス・ベーコンです。ベーコンの絵を見たとき、頭で考えるより体が痺れる感覚がして、それが原始的な”生”の部分を揺さぶられた経験でした。私もそんな絵が描きたいと思い、目指しています。 あと、私は映画が好きなのですが、ミヒャエル・ハネケというオーストリアの映画監督の映画や、原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』にもかなり影響を受けています。根本敬さんや花輪和一さんの漫画にも影響を受けていて、特に花輪さんの『月ノ光』は中学生の頃から自分の生きるテーマです。色々なカルチャーに興味があり、今はラップを聴いたりもしています。常に何かに夢中で、小さなことにも影響を受けているので、絵もその時々で自然と変わってくるのが面白いです。
ーーカルチャーとの出会いはどんなところにありますか?
いろいろですね。母が漫画家なので、母の持っているものを拾ったり、スマホで探したり、学校の図書館で見つけたり、関わるいろんな人に教えてもらったりなどしています。
画像引用:http://blog.bondinc.co.jp/
粘膜の記憶が作品に生きている
ーー最近、制作に対して影響や着想を受けた体験はありましたか?
コロナ禍にスライムではなくて、チューブを顔にまとった作品を制作するようになりました。コロナで人に会えず、対面でもマスクで顔が見えなくなって、顔がわからなかったり、デジタル上の集まった粒でしか顔が認識できなくなってしまった寂しさから着想を得ています。それだけでなく、今まで制作した全ての作品それぞれに言語化できない感覚や人生が詰まっています。
ーーコロナ禍を経て物事の考え方に変化はありましたか?またそれによって制作への影響はありましたか?
ずっと絵を描いているので、制作への影響はあまりありませんでした。しかし、封じられた社会において、人間について考えることは増えたと思います。あとは、基本顔がある絵しか描かないので、普段から人の顔にとても執着があり、マスクでそれが隠れてしまっているのはとても寂しいです。 粘膜について考えることも増えました。粘膜についての意識は常にあり、スライムを被った作品でも、鼻や目にまでスライムが入ってくるので、粘膜の記憶は結構絵に生きています。
生きた体で体感したことが作品の原点
ーーコロナ禍によるアート業界のオンライン化により、オンライン上で実際に展覧会に行かずとも作品を観れるようになりました。アートが多くの人に楽しまれつつある現代において、改めて芸術の価値や意味をどう考えていますか?
やっぱり生で見てほしいという気持ちはありますが、時代は変わっていくし、NFTが盛り上がっているのも面白いと思います。私は絵を描くことしかできないので、やることをやるだけですね。
ーー確かに、今回こたおさんの作品を生で見てみて、写真と実物では印象が全然違うなと思いました。
今ってSNSなどで簡単に情報が手に入るし、受け手は情報を切り取って頭の中でイメージを作っていくものだと思います。そうすると、どうしてもまやかしの世界になっていってしまうので、私はそこに怯えています。Instagramであげるようなキラキラした写真とは別に、汚い格好で絵を描いている自分もいるし、絵もスーパーリアリズムのように受け取られることが多いですが、近くで見たらおかしい部分や。人間的なざらつきがあったりもします。
ーーご自身の作品を生で見たときに感じて欲しいポイントはありますか?
実際に自分の体で体験しているということです。絵は経験についてきただけなので、私が実際にスライムを顔に被って何をしようとしてるのかを感じ取ってくれたら嬉しいです。もちろんツヤツヤでかっこいい!と思ってくれたり、一緒に写真を撮ってSNSにあげてくれたりするのも嬉しいです。
ーー今後の目標があれば教えてください
良い絵を描き続けたいです。今のことしか考えられないです。現在大学4年生なので、大学卒業後は大学院に進んで、もっと実践的なことをやっていきたいと思っています。
ANDARTでは、オークション速報やアートニュースをメルマガでも配信中。無料で最新のアートニュースをキャッチアップできます。この機会にどうぞご登録下さい。
文・写真:ANDART編集部