バリューチェーンとは? VUCA時代突入で事業活動の見直し必至!
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世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延や地球温暖化対策の中核である「カーボンニュートラル」の推進、AI技術の進化に伴うDX化の進展等、企業を取り巻く事業環境はまさに先行き不透明で将来の予測が困難なVUCA時代の真っただ中にある。

こうした劇的な企業環境の変化の最中にあって、企業価値の最大化を図る上での評価・分析手法の一つである「バリューチェーン(Value Chain)」(価値分析)も大きな見直しの機運が高まっている。

そもそも「バリューチェーン」とは何か、「バリューチェーン」を活用することで何ができるのか、「バリューチェーン」の意味合いからメリット、分析手法の概要、今の時代に必要なバリューチェーン検証の必要性まで総合的に深掘りする。

目次

  1. バリューチェーンとは何か
    1. バリューチェーンが提唱された時代と背景
  2. バリューチェーン活用のメリット
    1. 自社の強み弱みを知ることで生かせる次の戦略構築
    2. 競合他社の動きを予測した戦略策定ができる
    3. VRIO分析で自社の強みの質や競合他社との優位性を可視化する
  3. 常に事業環境の変化に応じた分析を

バリューチェーンとは何か

そもそも「バリューチェーン」とは何かについて、基本的な部分を押さえておこう。

「バリューチェーン」とは別名「ポーターの価値連鎖」と呼ばれ、米国ハーバード大学教授のマイケル・E・ポーターが1985年に発表した著作『競争優位の戦略』の中で紹介された言葉である。

事業を顧客にとっての価値を創造する活動という視点から分析し、競争優位に立つために、設計・生産・販売・サービス等一連の事業活動の中で、競争相手との強み弱みを分析し、企業の競争優位を見出す手法とされている。

この競合他社に打ち勝つ競争優位性を築くために、ポーター教授は経営戦略論として、次の3つを打ち出している。

  1. コストリーダーシップ戦略
    低コストを実現することで、業界内の競争優位性を保つ戦略である。製造業を例に出せば、生産量を増やすことで量産効果により、単位当たりの固定費を低減すことができる。さらに量産過程での生産工程の改善や作業スキルの上昇によって、生産性向上によるコスト低減も期待できる。

  2. 差別化戦略
    自社製品の抱く自制を強調し、他社との差異化を図る戦略である。この差異化とは、商品の機能性や品質、技術力、ブランド力、顧客サービス等で差異化され、自社製品やサービスの他社にはないメリットで、価格以外で競争優位に戦うことができる。

  3. 集中戦略
    ターゲットとなる市場を絞り込んで、集中的に経営資源を投入する戦略の事。ターゲットを絞り込むことで、競合他社より効果的かつ効率的に戦うことができる、という理論に基づく。この集中戦略により、よりコスト低減を図るか、差異化を図るか、その双方を狙うかの戦略に絞られる。

ポーターの3つの基本戦略は、現在も企業のマーケティング分析にとって価値ある分析手法となっているが、集中戦略に関しては、基本戦略として疑問符が投げかけられている。

1990年代後半から2000年代にかけて企業戦略のテーマとなった「選択と集中」は、米国ゼネラルエレクトリック(GE)のジャックウェルチCEO(最高経営責任者)が、ピーター・F・ドラッカーの助言を受けて提唱したものである。

1980年代、高度経済成長期から成熟期へ転換期を迎えた日本企業は、主力事業に代わる新たな事業分野の育成に迫られ、多角化経営に進んだが、バブル経済の崩壊によってその多くが経営危機に陥る状況に追い込まれた。

こうした状況から企業の本業の中でも強みをより強化する「選択と集中」に注目が集まったのである。しかし日本では大手重電メーカーや家電メーカーの集中戦略の失敗によって、「集中と選択」はハイリスク、ハイリターンの経営戦略といわれているようである。

バリューチェーンが提唱された時代と背景

ここからは、バリューチェーンが提唱された時代背景とその変遷を押さえておこう。

ポーターの著作「競争優位の戦略」が発表された1985年は為替市場の一大転機となったプラザ合意によって円高・ドル安が加速し、90年代に急速なグローバリゼーションが巻き起こる序章となった。

特に日本の製造業は95年以降、自社が比較的優位を持つ国内の生産工程に強みを見出す一方、不採算部門に関しては新興国市場の関税引き下げ等の市場開放に伴って、ASEAN(東南アジア諸国連合)を含め生産ノウハウや技術移転を伴う国外移管を進めることで国内外での最適な生産体制の構築が加速した。

この生産ノウハウや技術移転が1998年に「グローバル・バリューチェーン(GVC)革命」と呼ばれる物の流れを変える転換点を誘発する。

つまり80年代から90年代にかけて安価な労働力を頼って生産ノウハウや技術移転を進めた結果、移管された各国はそれまで不可能だった部品生産や部品のコンポーネント生産が可能となってきたのだ。

さらに2000年代にかけてICT(情報通信技術)が発展してきたことにより、技術移転が加速度的に新興国に流れることになる。企業のグローバル競争力はいかにGVCを使って戦略的なポジションを定めるかについて策定されるべきであり、対象とする国の地政学的な位置づけや技術力など比較優位性を検証することで各プロセスを配置すべきか決定すべきかが「バリューチェーン」の価値となってきている。

さらに新型コロナウイルス感染症の蔓延やAI技術の進化に伴うDX化の進展等、先行き不透明なVUCA時代では、「バリューチェーン」の評価尺度は常に変化するということに注視していかなければならない。

バリューチェーン活用のメリット

バリューチェーン分析を活用することで、具体的にどのようなメリットがあるのだろうか。大きくは3つの分析に活用できる。

  1. 自社の強みや弱みを把握できる。
  2. 競合他社の動きを予測した戦略策定ができる
  3. 効率的なコスト削減が可能となる

以上が活用のメリットとして挙げられるが、まずはバリューチェーンを分析する上での構成要素を知る必要があるだろう。

企業活動を構成する要素をみてみると、「主活動」と「支援活動」に大きく分けられる。この2つの活動が「利益」にどう貢献しているかという視点で分析することで、自社の事業を可視化することができる。

ここでいう「主活動」とは、事業における生産から消費までの活動であり、製造業でいえば「原材料の購買」「製造加工」「製品出荷」「製品販売」「アフターサービス等」が主な活動として考えられる。

この一連の事業活動をサポートする活動が「支援活動」ということになる。具体的には「調達部門」や「生産を含む技術開発」「全般管理」「人事・労務管理」といった部門が挙げられる。

この構成要素を理解した上で、具体的なバリューチェーン分析で可能なフレームを見ていこう。

自社の強み弱みを知ることで生かせる次の戦略構築

競合他社に対して優位に事業を進めるためには、当然ながら「自分の会社の強み弱みを精査し理解する」ということが重要である。

ここでいう「自分の会社の強み」とは、競合他社にない付加価値であり、「自社の弱み」とは、競合他社に比べたコストのかけ方とそれに伴う利益率の低さ、商品・サービスの劣後性などがあげられる。

つまりバリューチェーン分析のひとつである「自社の強みや弱みを把握できる」とは、事業活動の各工程をその収益性やコストによって分析し、競合他社に比べた優位性の有無を分析するフレームワークである。当然ながらターゲットとなる競合他社をピックアップし、自社との比較できるようなデータの取得が不可欠である。

競合他社の動きを予測した戦略策定ができる

バリューチェーン分析をすることで「自社の強みと弱み」を把握することが可能となるが、同じフレームワークを活用することで、競合他社の分析や動向予測も可能となる。

自社に比べて各工程でのコストのかけ方、調達の方法、技術開発への資金投入等、人、物、金の投資の仕方等、限られた経営資源をどのタイミングでどのようにかけているかを知ることで、自社の経営資源の配分や投資タイミングをどう変えていき、より高い付加価値をいかに生んでいくかが、企業の優位性を左右することはいうまでもない。

自社の競合他社に比べた「強み弱み」を可視化することができれば、自ずと自社の企業活動の中で競合他社に劣る部分のコスト削減や経営資源投入による効率化等の施策が可能となる。効率的なコスト削減とは、効率の最適化から企業価値の最大化を図ることであり、バリューチェーン分析はその分析効果を発揮するフレームワークの一つといえる。

VRIO分析で自社の強みの質や競合他社との優位性を可視化する

バリューチェーン分析に使われるVRIO分析というフレームワークに触れておかなければならない。VRIO分析は、1991年に米国の経済学者ジェイ・B・バーニーが提唱したフレームワークである。企業の経営資源を「Value(経済的な価値)」「Rareness(希少性)」「limitability(模倣可能性)」「Organization(組織)」の4要素に分類し、自社の強み弱みの評価基準とするものである。

このVRIO分析は先に挙げた4要素一つひとつに対して分析し、順を追って分析評価されていく。どの要素でストップするかで企業活動が抱える問題点が浮き彫りになり、評価が変わっていく。

ここでいう「経済的な価値」とは、企業活動全体を指す。資金はもちろん人的資源や技術力、生産機器等すべてが価値判断の対象となる。「希少性」はいうまでもなく競合他社にない付加化価値がどれだけあり、競争力が高いかの指標となる。「模倣可能性」は、自社のビジネスや事業体がどれだけ模倣し難いのかどうか、その優位性がどれだけ保てるかの指標となる。最後の「組織」は、それまでの評価ステップである「経済的な価値」「希少性」「模倣可能性」の優位を継続するための組織運営が確立されているかの評価となる。

常に事業環境の変化に応じた分析を

ここまでバリューチェーンとは何か、その活用法や分析ステップまでを解説してきたが、現在のVUCA時代にあっては、これまでのバリューチェーン自体が大きく変化し事業構造の再構築に迫られざるを得ない状況も生まれつつある。

そうした中にあっても、バリューチェーン分析とVRIO分析を活用することで、事業構造の変革や新たなバリューチェーンの構築につながるヒントが生まれる可能性は高い。常に自社の置かれた状況を客観的に把握する分析手法のひとつとして、活用したいものだ。

文・金城寛人(中小企業診断士)
株式会社エルニコ執行役員・中小企業診断士。1985年生まれ。沖縄県出身。青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科卒業後、前職の外資系メーカーに入社。事業開発部に従事し、アジア圏の新規事業プロジェクトに参画し、同社にてMVP(Super Hero’s)を受賞。現在は、経営コンサルティング事業を推進し、新規事業、組織の仕組みづくり、販路開拓、施策活用、経営相談窓口など毎月約70社以上の中小企業の経営支援を行う。
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