SNSにコメントしただけで懲役7ヶ月!? 中国共産党の止まらない言論弾圧
(画像=Zerbor/stock.adobe.com)

元中国副首相・張高麗氏との不倫関係を暴露した女子テニス選手、彭帥(ほうすい)選手の失踪について、国際的に波紋が広がっている。中国側は同選手の無事をアピールしているが、疑惑はますます深まるばかりだ。近年、SNSで共産党の英雄を茶化すだけで禁固刑となるなど、共産党による一党独裁体制はますます圧力を増している。

女子テニス選手の失踪疑惑

「前副首相と不倫関係にあり、性的関係を強要されたこともある」という彭帥選手のスキャンダラスな投稿が、中国版Twitter「微博(ウェイボー)」を介して世界中に拡散されたのは、2021年11月2日のことだった。投稿はすぐさま中国当局により削除され、彭帥選手はその直後から2週間以上にわたり消息を絶った。

インターネット上では、同選手の安否を気遣う声とともに、当局による身柄拘束疑惑が浮上し、ついには女子テニス協会(WTA)や欧米の政府が、同選手の安全を確認できる「検証可能な証拠」を求めて動きだす事態に発展した。

中国政府は、国営メディアCGTN(中国国際テレビ)を介して彭帥選手がテニス関係者らと談笑しながら食事をしている動画や、本人がCGTNに送ったとされるメールを公開したが、信憑性を疑う声はなくならない。確かに動画や写真の中の彭帥選手は元気そうに見えるが、無理やりやらされているのではないという証拠としては不十分だ。

メールの内容は「私は失踪したのではありません。家でゆっくり休んでいるだけで、何も問題はありません」というものだが、性的暴行の主張を自ら訂正するなど不自然さが漂う。

証拠を揃えても鎮まらない事態に対応すべく、国際オリンピック委員会(IOC)は同月24日、トーマス・バッハ会長が彭帥選手とビデオ電話で会話している様子とともに、「彭帥選手の安全を確認した」と発表した。しかし、ここでも「IOCは北京冬季五輪開催を優先して、中国の不利になる言動は控えている」と批判されるなど、懸念は払しょくされていない。

ちなみに、彭帥選手の不倫Twitter以降、中国のインターネットでは「彭帥」や「テニス」といったキーワードがすべてブロックされているという。

共産党、言論弾圧の黒い歴史 ジャック・マー氏「空白の3ヵ月」を彷彿させる?

彭帥選手失踪の背後に共産党の存在を疑う声が上がっているのも無理はない。共産党に批判的な言動を行った人物や組織が社会的に抹殺された例は、過去に多数ある。

直近では2020年10月、アリババ(阿里巴巴集团)創設者のジャック・マー(馬雲)氏が上海の金融フォーラムで政府や国営銀行に対する批判めいたスピーチを行った後、突如として公共の場から姿を消した。空白の3ヵ月間に何が起こったのかは謎のままだ。

2021年6月には、中国共産党に痛烈な批判を浴びせていた香港紙アップルデイリー(蘋果日報)が、廃刊に追い込まれた。幹部や主要ライターは「外国勢力と結託し、香港国家安全維持法に違反した容疑」で逮捕された。

他にも、汚職容疑で逮捕された元不動産王の任志強氏、謎の失踪後身柄を拘束されたインターポール(国際刑事警察機構、ICPO)前総裁、孟宏偉氏など数え上げるとキリがない。

SNSのコメントで懲役7ヵ月 法改正で逮捕者続出

標的となるのは一般市民も同じである。北京在住の女性が、女性蔑視的なコメントを繰り返している者を批判するコメントをSNSに投稿した。その際、中国共産党が英雄と称える中国人民解放軍の軍人、董存瑞の名を比喩的に挙げただけで懲役7ヵ月の刑罰を課された。

中国では2021年3月に発行された新たな刑法規定により、英雄や殉職者への中傷は禁じられており、ブログに軽い気持ちでコメントするだけでも捜査の対象となる。この法改正後、前述のアップルデイリー騒動のほか、過去に「騒乱挑発罪」で捜査を受けた微博の人気ブロガーや、中国の朝鮮戦争への介入に疑問を投げかけた元ジャーナリストが続々と告発され、禁固刑などを言い渡された。

さらに恐ろしいことに、話題にすることを禁じる「噂リスト」や国民に違反行為を通報させるためのホットラインがインターネット規制当局により設けられた。「壁に耳あり障子に目あり」の環境で国民をお互い監視させ、脅威や反動勢力の芽を早期に排除する意図だ。

民主党の目指す「安定した」監視国家主義

共産党は長年にわたり、共産党の足元を揺るがす言動や民主主義思想を取り締まってきた。反政府派=共産党や習近平国家主席にとって脅威になると見なされた多数の人々が、「騒乱挑発罪」「公共秩序騒乱罪」「国家転覆煽動罪」「国家機密漏洩罪」といった罪状の下、社会から姿を消した。

特に2019年の香港デモ活動以降は、このような監視国家主義が増す一方だ。かつて一国二制度の下、中国本土では認められていない言論の自由が維持されていたはずの香港ですら、現在は反政府的な動きを取り締まるための新法「香港国家安全維持法案」が導入され、政府による弾圧が拡大している。2020年7月には、「社会の安定維持と政治的な取り締まりを目的とする任務部隊」が設立された。

本当の「社会の安定」とは何か?

共産党は「政治の安定なくして、社会の安定は維持できない」と主張している。しかし、言論の自由を奪い、身柄を拘束し、社会から葬り去る弾圧策なくして維持できないものを、果たして「安定」と呼べるのだろうか。

いずれにせよ、今は彭帥選手の無事を心から祈るばかりである。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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