矢野経済研究所
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マグロの資源管理を協議する国際会議「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」が7日に閉幕、日本近海を含む中西部太平洋におけるクロマグロの漁獲枠の15%増を決定した。先月には西大西洋でも16%の増枠が認められるなど、太平洋と大西洋が連携した資源管理の成果が国際的に認められたということだ。4年連続で増枠を求めてきた日本にとっては吉報であり、水産庁は各都道府県への割り振り作業に入る。

とは言え、漁業を取り巻く情勢の厳しさには変わりはない。新興国の需要拡大を背景とした資源の減少、温暖化による生息域の変化、コロナ禍による内需の急減など明るい話題は少ない。サンマ、秋サケ、するめいか等の不漁も続く。
自然を相手にする漁業にはそもそも不安定さがつきまとうが、それゆえ漁獲変動に伴う減収を補填する共済制度がある。しかし、今、その維持に不安が募る。制度は漁業者による積立金と国費による基金として運用されるが、漁獲制限と不漁が常態化する中にあって払い戻し超過が続く。2017年度末に743億円(うち国費相当額536億円)あった基金残高は2020年末には356億円(同83億円)まで減少している。

日本の海岸線の総延長は3万5千㎞、そこに6300もの漁村があり、領海とEEZ(排他的経済水域)内に24万隻の漁船が操業する。国は “第3期海洋基本計画”(2018)で漁業振興の目的に国境監視機能を加えた。新漁業法では、漁村活性化に際して自然環境保全、地域文化の形成、親水性レクリエーションなど漁村の多面的な機能に配慮することが規定されている。漁村には水産資源の供給以外の国益があるということだ。しかしながら、厳しい経営環境の中、過疎化と高齢化のペースは全国平均を上回る。漁業の活性化、漁村の維持に向けた総合的な施策が求められる。

一方、漁業の問題は一国の施策では解決しない。気候変動が漁獲の不安定要因であることは指摘するまでもないが、漁業もまた生態系に対するネガティブな因子となる。国連食糧農業機関によると世界の漁獲資源の1/3が乱獲状態にあり、漁獲枠の余裕は1割未満にとどまる。規制を無視した違法操業者の漁獲量は全体の3割に達するとの報告もある。捕獲され、捨てられる商業価値のない魚や海鳥、ウミガメなど、所謂 “混獲” の問題も軽視できない。廃棄されたプラスチック製漁具による海洋汚染問題も周知のとおりである。すなわち、持続可能な漁業を実現するためには国際的な水産資源の管理、海洋生態系の保全に対する強いコミットメントが必須であるということだ。海洋国家 “日本” の国際社会におけるイニシアティブに期待する。

今週の“ひらめき”視点 12.5 – 12.9
代表取締役社長 水越 孝