損益分岐点とは、売上高とコストの差がちょうどゼロになる点をさす。損益分岐点が低いほど、企業は利益を得やすくなる。この記事では損益分岐点について、分析するメリットや固定費との関係、計算式などを解説していく。販売活動を見直すときの参考にしてほしい。
目次
損益分岐点とは
損益分岐点とは、売上とコストがちょうど等しくなる点であり、会社が利益を得られるかどうかの境目となる売上高だ。
売上高が損益分岐点を下回ると赤字となり、上回れば黒字となる。
ちなみに、損益分岐点となる売上高(コストと等しくなる売上高)を損益分岐点売上高という。
損益分岐点を求めるには、コストを変動費と固定費に区分する。損益分岐点は、売上高とコストが等しくなる点であるため、次の計算式が成り立つ。
売上高-(変動費+固定費)=0
損益計算書でいうと、変動費と固定費は売上原価と販売費・一般管理費、営業外費用にあたるコストだ。
損益分岐点を分析するメリット
損益分岐点を分析することで、目標とする利益の金額や利益率から、下記のような売上を計算できる。
・利益を会社に1,000万円残したいときに必要な売上
・利益率が20%となるときに必要な売上
損益分岐点を使った目標売上高の分析は製造業でよく使われるが、変動費と固定費を把握できるのであれば、さまざまな業種にも応用できる。
損益分岐点を下げる方法
企業の利益を上げるためには、損益分岐点を下げるという視点も重要だ。
損益分岐点を下げるには、変動費を下げる方法と固定費を下げる方法がある。変動費を下げるなら、主に材料費や外注費について、発注先や発注量、必要性を見直す。
固定費を下げるなら、人件費と広告宣伝費の見直しから始めるとよい。人件費の見直しでは、設備投資や外注によって人的コストを削減できる部分や、人員削減が可能な部署に着目するとよいだろう。
広告宣伝費は、効果的な使い方を適宜検証することで、経費削減だけでなく売上アップにも繋げられる。
たとえば、同じエリアで同じ部数のポスティングを続けている場合、効果を検証・報告してもらうとよい。
損益分岐点に関係する変動費・固定費について
変動費とは、売上高に対して一定の割合で増えるコストをいう。材料費が代表的だが、労務費や経費などが該当する場合もあり、業種によって異なる。
変動費の内容が正確であれば、損益分岐点の計算も精度が高くなる。
固定費とは、売上高に関係なく発生するコストをさす。具体的には、地代家賃や人件費、水道光熱費、減価償却費といった企業活動にともなう管理コストである。
仮に固定費を損益分岐点のコストに含めなかった場合、売上高が0円であれば企業の利益も0円であり、赤字も黒字も発生しない。
しかし、売上がなくても企業にはさまざまな管理コストが発生するため、現実的に赤字が発生する。
よって、固定費をコストとして計上することで、企業が本当に獲得すべき売上高を導き出せる。
変動費・固定費と損益計算書の関係
損益分岐点を計算するときの変動費・固定費は、損益計算書でいう売上原価や販売費・一般管理費、営業外費用にあたるコストである。
これらを変動費と固定費に分けて計算することを「直接原価計算」という。
直接原価計算とは管理会計上の考え方で、企業の経営目標を立てる際に利用される。これに対し、私たちが普段見ている損益計算書は、「全部原価計算」によって表示されている。
したがって損益分岐点を計算するときは、まず企業のコストを全部原価計算から直接原価計算の区分に変えて求める。
もし、売上高から売上原価を差し引いたときの粗利がほぼ一定の場合、売上原価を変動費として、販売費・一般管理費、営業外費用を固定費として分けてもよいだろう。
そうでない場合や損益分岐点による分析の精度を上げたいときは、変動費と固定費の分け方を工夫しなければならない。
変動費・固定費を分ける方法
変動費と固定費を分ける手法はいくつか編み出されている。
たとえば高低点法では、過去一定期間内における操業量(製造量や作業時間など)のうち、最高時点と最低時点における原価をとって中間的な変動比率を算定し、この変動費率から固定費を割り出す。
正常でない原価は、最高点や最低点の判定から外さなければならない。高低点法による変動比率と固定費の計算方法は下記の通りだ。
変動費率=最高点の原価-最低点の原価/最高点の操業量-最低点の操業量
固定費=最高点の原価-変動費率×最高点の操業量(最低点で計算してもよい)
過去のデータを使って変動費と固定費を分ける方法には、ほかにも最小二乗法や費目別精査法などがある。
損益分岐点を使った具体的な計算式
損益分岐点売上高や、利益・利益率の目標値に対する必要な売上高の計算式を解説する。
変動費率と限界利益率
変動費は売上高に対して一定の割合で発生する。損益分岐点を使った目標売上高の計算では、変動費率の把握が重要になる。
変動費率の計算式は下記の通りだ。
変動比率=変動費/売上高
たとえば、販売価格が@100円の製品に対して変動費が@70円かかる事業の場合、変動費率は70%である。
このとき、売上高から変動費を差し引いた利益を限界利益といい、売上高のうち限界利益が占める割合を限界利益率という。
限界利益と限界利益率の計算式は下記の通りだ。
限界利益=売上高-変動費
限界利益率=限界利益/売上高
上記の例であれば、限界利益は30円(100円-70円)であり、限界利益率は30%(30円/100円×100%)となる。
さらに限界利益率は、次の計算式に置き換えられる。
限界利益率=1-変動費率
安全余裕率・損益分岐点比率
損益分岐点を上回るほど経営は安定するため、実際の売上高と損益分岐点売上高の比率から企業の安全性を図れる。
このときの比率を安全余裕率、損益分岐点比率といい、計算式は下記の通りだ。
安全余裕率=(売上高-損益分岐点売上高)/売上高
損益分岐点比率=損益分岐点売上高/売上高
安全余裕率が高い(損益分岐点比率が低い)ほど安全といえる。
具体的な計算例について確認してみよう。
損益分岐点売上高が30万円で、売上高が210万円であるとき、安全余裕率と損益分岐点比率は下記の通りだ。
安全余裕率=(210万円-30万円)/210万円×100≒86%
損益分岐点比率=30万円/210万円×100≒14%
損益分岐点に関する計算問題3つ
ここからは、損益分岐点に関係する計算問題を解説していく。
計算問題1.損益分岐点売上高
【例題】
変動費率が70%、固定費が21万円の場合、損益分岐点売上高はいくらか?
損益分岐点売上高は下記の通り計算できる。
損益分岐点売上高=変動費+固定費
損益分岐点売上高をAとして方程式を立て、計算過程と結果を確認してみよう。
A=0.7A+21万円
(1-0.3)A=21万円
0.7A=21万円
A=21万円/0.7
∴損益分岐点売上高=30万円
したがって、損益分岐点売上高は次の計算式で求められるとわかる。
損益分岐点売上高=固定費/(1-変動費率)
=固定費/限界利益率
計算問題2.利益目標があるパターン
【例題】
変動費率70%、固定費21万円のとき、利益を60万円にするための売上はいくらか?
利益目標があるときは、売上高について下記の計算式が成り立つ。
売上高-(変動費+固定費)=利益目標の金額
売上高をAとして方程式を立て、計算過程と結果を確認してみよう。
A-(0.7A+21万円)=60万円
A=(60万円+21万円)/0.3
∴売上高=270万円
したがって、利益目標を達成するための売上高は、次の計算式で求められるとわかる。
売上高=(目標利益+固定費)/限界利益率
計算問題3.利益率目標があるパターン
【例題】
変動費率70%、固定費21万円のとき、利益率を20%にするための売上はいくらか?
目標とする利益率があるとき、売上高について下記の計算式が成り立つ。
売上高-(変動費+固定費)=売上高×目標とする利益率
売上高をAとして方程式を立て、計算過程と結果を確認してみよう。
A-(0.7A+21万円)=0.2A
A=21万円/0.1
∴売上高=210万円
したがって、目標利益率を達成するための売上高は、次の計算式で求められるとわかる。
売上高=固定費/(限界利益率-目標利益率)
損益分岐点を分析して販売活動を見直す
損益分岐点の概要をはじめ、分析するメリットや固定費との関係、計算式などを解説した。
なお、損益分岐点はあくまで会計上の損益をもとに算出するので、資金の流れとは一致しない。したがって、安全余裕率などを損益分岐点から計算したいときは、別の安全性の指標と合わせて分析することも大切である。
販売活動を見直したいのであれば、正しい計算式を知ったうえで、損益分岐点の分析を行ってみてはいかがだろうか。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)