2021年11月17日(ニューヨーク時間)、フィリップスオークション「20th Century & Contemporary Art Evening Sale」がニューヨークで開催された。
高額落札が期待されていた有名作家の作品の価格が伸び悩んだり不落札となる一方で、新進気鋭の作家が予想最高落札額の2-3倍の価格で落札されるなど、波乱の展開となった本オークション。最終的に、約157.5億円 (1億3,790万ドル) の売り上げとなり、フィリップス社の創業史上最高のオークション売上総額を記録した。
本記事は、このオークションの落札価格トップ5の作品を紹介する。落札価格は1ドル=114.19円(11月17日レート)で計算、手数料込み。
5) アンディ・ウォーホル ≪The Last Supper/Be a Somebody with a Body≫
落札価格:約7億7,718万円 ($6,806,000)
画像引用:https://www.phillips.com/
「The Last Supper(最後の晩餐)」は、アンディ・ウォーホルが継続的に取り組んできた、”人体と美の追求”という生涯の関心事を集約した最後のシリーズであり、レオナルド・ダ・ヴィンチの傑作 ≪最後の晩餐≫ を、ウォーホルが流用、反復、直列化することで、彼特有の表現に変換したもの。
本作品は、キリストの像と、ウォーホルの作品に頻繁に登場するボディビルダーの像とを並置することで、このシリーズを締めくくる作品となっている。
予想落札価格:約6億8,514万円〜約9億1,352万円 ($6,000,000 – $8,000,000)
4) ジョージア・オキーフ ≪Crab’s Claw Ginger Hawaii≫
落札価格:約8億8,474万円 ($7,748,000)
画像引用:https://www.phillips.com/
女性アーティスト ジョージア・オキーフの作品が4位にランクイン。本作品は、1939年に彼女が9週間ハワイ旅行に滞在して制作した22点の絵画の中の1点で、その中で最も象徴的な作品だ。
本作品は広告に起用された、当時「Vogue」や「Saturday Evening Post」などに掲載された。また、ニューヨーク植物園で2018年から2019年にかけて開催された展覧会「Georgia O’Keeffe: Visions of Hawaii」の目玉作品として、カタログの表紙やニューヨーク・タイムズ紙の関連記事にも採用されるなど、露出も多く、注目度の高い作品だった。
予想落札価格:約4億5,678万円〜約6億8,514万円 ($4,000,000 – $6,000,000)
なお、ジョージア・オキーフは、オークション史上で女性アーティストとしての最高落札額記録の保持者だが、このオークションの前日 (11月16日) に開催されたサザビーズオークション「Modern Evening Auction」に出品されたフリーダ・カーロの最後の自画像がこの記録を塗り替えるのではないかと注目されていた。
結果的には、オキーフの持つ女性記録 約50億2,436万円 ($4,440万) は破られず、現在も彼女が最高記録の保持者となっている。
3) ジャン=ミシェル・バスキア ≪Untitled (The Door)≫
落札価格:約9億7,627万円 ($8,549,500)
画像引用:https://www.phillips.com/
王冠、文字、動物のイメージや、ポピュラーカルチャーの引用など、バスキア独特の図像が散りばめられた作品。木製の支持体の上に描かれた本作は、ペインティングでもあり、彫刻でもあるといえる。
描かれた骸骨のようなクロコダイルの頭は、バスキアのルーツであるハイチやアフリカの部族文化を連想させると同時に、1970年代後半から1980年代前半に隆盛を極めた紳士服ブランド「アイゾット・ラコステ」のクロコダイルのロゴを参照している可能性もあると言われている。ワニのモチーフは本作が描かれたのと同じ1984年に制作されたアンディ・ウォーホルとの共同作品「クロコダイル」でも表現されている。
予想落札価格:約6億8,514万円〜約9億1,352万円 ($6,000,000 – $8,000,000)
2) ジョアン・ミッチェル ≪Untitled≫
落札価格:約13億5,544万円 ($11,870,000)
画像引用:https://www.phillips.com/
アメリカの女性画家 ジョアン・ミッチェルの作品が2位にランクイン。彼女のキャリアの最後の年に描かれた作品であり、1992年10月に死去する数ヶ月前、同年6月から7月にかけてパリのGalerie Jean Fournierで開催されたミッチェル生前最後の個展に出品されたもの。
彼女の最後の10年間には、彼女が生涯にわたって憧れていたフィンセント・ファン・ゴッホ、クロード・モネ、ポール・セザンヌといったフランス印象派の画家たちについての解釈が、並外れたダイナミズムをもってキャンバスに表現された。彼女のキャリア全体を集約した、生命力を見事に体現した作品だ。
予想落札価格:約4億5,678万円〜約6億8,514万円 ($4,000,000 – $6,000,000)
1)フランシス・ベーコン ≪’Pope with Owls’≫
落札価格:約37億6,827万円 ($33,000,000)
画像引用:https://www.phillips.com/
今回のオークションのスターロットとして注目を集めたフランシス・ベーコンの ≪’Pope with Owls’≫が、2位の作品の3倍近い落札価格で1位を獲得した。フランシス・ベーコンが20年以上にわたって制作した有名なローマ法王の肖像シリーズのひとつであり、本作は今回はじめてオークションに出品されたもの。
この作品は、ベラスケスが描いた教皇イノセント10世の肖像画を参考にして制作されたものと言われているが、肉の描写や心理的な脱構築を探求するベーコンの試金石となるような作品に位置すると言われている。
予想落札価格:約39億9,665万円〜約51億3,855万円 ($35,000,000 – $45,000,000)
なお、フランシス・ベーコンの作品が1位を記録したものの、予想落札価格を下回る結果となった理由ついて、フィリップスの副会長兼20世紀・現代美術部門の共同責任者であるロバート・マンリーは、「(購入者の)好みが広がったのだと思う」と述べている。
実際、新進気鋭の作家 マシュー・ウォンの ≪Time After Time≫ のロットからセールは活発化し、エイブリー・シンガーの ≪European Ego Ideal≫ は熱い入札合戦の末、予想落札価格 約1.7億万円〜約2.9億円 ($150万〜$250万) を大きく上回る 約4億5,676万円 ($400万) で落札された。
画像引用:https://www.phillips.com/
今夜のセールには40カ国以上からの入札者があり、フィリップスが最後に開催した2019年の対面式オークションからオンライン入札登録者数が309%増加している。嗜好が多様化し、コレクター層が拡大したことが、過去最高売り上げにつながっているのかもしれない。
ANDART関連アーティスト
ゲルハルト・リヒター ≪Weiß (White)≫
落札価格:約6億5,282万円 ($5,717,000)
画像引用:https://www.phillips.com/
ゲルハルト・リヒターの代表的な作品である「Astraktes Bild」シリーズに含まれる作品。一見、モノクロームのようにも見えるが、青々とした白と、黒やグレーのシャープな色調を背景に、ピンク、ブルー、グリーンの微妙なポップカラーが表面下からきらめいて見える作品だ。
1980年代のリヒターに特徴的だった初期のオール・オーバーの表現と、1990年代初頭のスキージ技法による制御された表現との交差点に位置する作品。
予想落札価格:約4億5,678万円〜約6億8,514万円 ($4,000,000 – $6,000,000)
KAWS ≪THE WAY HE KNOWS≫
落札価格:約1億7,614万円 ($1,542,500)
画像引用:https://www.phillips.com/
アニメのキャラクター「スポンジ・ボブ」を、KAWSの特徴であるバッテンの目を使った独自の方法で表現している。口を開けて顔を歪めた姿は、原始的な感情に満ちている。スポンジ・ボブのアイコンである黄色い顔は、高さ約2.1Mと実物大よりもさらに大きく描かれ、インパクト大の作品だ。
最高予想落札価格の1.5倍以上となる高値で落札された。
予想落札価格:約9,706万円〜約1億1,149万円 ($850,000 – $1,000,000)
参考: Emerging Artists Earn Phillips Its Most Lucrative Auction Ever, Raking in a $137.9 Million Sales Total (artnet news) Auction Results: Fall 2021 (PHILLIPS)
ANDARTでは、オークション速報やアートニュースをメルマガでも配信中。無料で最新のアートニュースをキャッチアップできます。この機会にどうぞご登録下さい。
文:ANDART編集部