中国「しつけ」すらも法律に 家庭教育に介入で教育統制強化の狙いか
(画像=takasu/stock.adobe.com)

中国でしつけなど家庭教育を強化する「家庭教育推進法」が可決され、2022年1月1日から施行される。同国では2021年9月、学校教育の一環として「習近平思想」が義務化されたばかりだ。さらに家庭教育にも介入することで、教育の統制を強化する意図がある。

しかし、一方では「厳しい学歴重視の社会ゆえに、しつけまで学校に押しつけてしまう」という保護者側の実態が指摘されているほか、そのような厳しい環境下であっても就職できず、働く意欲を喪失した「寝そべり族」が増加している現状が社会問題となっている。

「習近平思想」に続き、しつけ法制化 「学歴重視教育」の実態

学力社会の中国では、保護者の思考が学歴を偏重する傾向が強い。1979~2014年にわたり実施された「一人っ子政策」の影響で一子家庭が多く、子どもにかける期待や教育コストが大きい。その反面、特に生活コストの高い都市部では共働き夫婦が増え、しつけを含む子どもの教育を学校側の責任と考える保護者も珍しくない。

親の関心が薄い環境で育った子どもは生活リズムの乱れが目立つほか、社会性や道徳心を欠如する点が問題視されている。全国人民代表大会(NPC)の立法委員会のスポークスマンであるZangTiewe氏いわく、「青少年が不正行為をする理由はたくさん考えられるが、家族教育の欠如または不適切なことが主な原因だ」とのことである。

「家庭教育推進法」は保護者側の意識改革を通してしつけや教育の充実を促すと同時に、子どもの学習負担を軽減することが目的だ。家庭教育の指導組織を地方政府が設置し、それぞれの家庭環境を考慮したアドバイスや支援を提供する。

非行行為が認められる子どもの保護者には、特別指導が行われる。また、一部の学習塾には非営利組織化を義務付けるほか、未成年のインターネット中毒を防止するための対応策など、幅広い教育に関する規制を設ける。

すでに、文部省は未成年者のオンラインゲーム時間を金曜~日曜日の1時間に制限すると同時に、学校の宿題を減らし、週末および休日の主要科目の課外個別指導を禁止するなど、具体的な対策を講じている。

中国の学力レベルは世界トップクラス?

確かに、近年における中国の学歴重視教育は、国際学力の高さに反映されているようだ。たとえば、15歳の児童の学力を測定するOECD(経済協力開発機構)の学習到達度調査(PISA)の結果をみてみると、2018年には中国が3分野(読解力・数学的応用力・科学的応用力)で世界79ヵ国・地域中1位となった。

中国で対象となったのが北京や上海などの4行政区で教育を受けた子どもだけだったことなどを理由に、「調査範囲が偏っている」との指摘もあるが、OECD側はこれらの行政区の平均所得がOECDの平均以下である点を挙げ、結果を妥当だと主張している。

大学の学力・質も国際的に高評価を得ている。英高等教育情報誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが世界93ヵ国・地域の1,500以上の大学を評価した「2021年版世界大学ランキング」では、精華大学が20位、北京大学が23位、香港大学(HKU)が39位と、トップ50に3校がランクインした。

新卒の就職率わずか3割の現実 「寝そべり族」が増加

しかし、親の教育熱や学力の高さと子どもの将来は、必ずしも比例しないようだ。過酷な受験戦争を勝ち抜いた中国の若年層の間では、就職難や生活コストの高騰といった現実世界に幻滅を感じ、あえて最低限の生活を送ることを選択する「タン平(寝そべり族)」が増えているという。家や車を買わない・結婚せず子どもも作らない・消費しない・頑張らないなど、低欲望主義に徹する生き方である。

経済の急速な発展により貧富格差が拡大した中国において、エリート校を卒業すれば高収入や安定した生活が約束されていた時代は終わった。近年は厳しい受験戦争に勝ち抜いたとしても、希望に叶う就職先を見つけるのは至難の業だ。コロナ禍で就職難はさらに悪化している。

中国学習サイト「学慧網」の調査によると、2020年新卒者の就職率は全体の3割強という。正式に内定を得ていたのは1割程度だったという大就職難だ。

やっとの思いで就職しても、生活コストが高騰している大都市ではマイホームどころか収入の大半が家賃に消えてしまう。それならば、がむしゃらに努力するのをやめ、他人に迷惑をかけない範囲で質素に暮らしていこうと考える若者が増えるのも無理はない。

共産党が理想とする愛国者の養成

家庭教育に国が介入することに対して違和感を唱える声もあるが、中国政府は家庭内での基礎教育の促進が社会問題の根本的解決に貢献すると期待している。それと同時に、共産党主導の国家と社会主義を尊重し、国家統一と民族団結の意思を固めるための教育も、引き続き強化していく構えだ。

さらに、2020年12月には文部省が「青年期男性の女性化防止案」という法案を発表し、サッカーなどの学内スポーツの推進を学校に呼びかけた。この辺りから、今回の家庭教育推進法の真の目的が、共産党が理想とする愛国者の養成であることが見えてくる。

法治主義が強まる中国において、共産党の愛党精神は希望を失った若い世代の心にどこまで響くのだろう。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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