ソニー中国が1800万円の罰金刑 日本人が知らない中国で『絶対タブーの6日間』とは?
(画像=SundryPhotography/stock.adobe.com)

ソニー中国法人が大失態を犯し、中国当局から100万元の罰金刑を科された。中国のビジネス界ではタブーとされる「特別な日(7月7日)」に、新商品を発売するとの広告をネットに掲載したことが発端だ。

深刻な問題が起きてから、「現地の常識をしらなかった」ではすまされない。事前に「敏感な日」を把握しておくことは、中国で事業を運営する上で極めて重要な要素である。

ソニー中国「罰金約1800万円」の理由

ソニー中国は、同社の広告をみた消費者から批判が殺到したことを受け、7月1日に広告を削除したうえで、新商品の一眼レフカメラの発売日が「不適切な選択」であったことを謝罪した。しかし、謝罪後も「7月7日がどのような意味をもつかしらないとは、信じられない」など、批判が相次いでいるという。「日本はやはり過去の戦争を反省していない」と、反日感情を露わにする声もある。

一方、中国当局は「国家の尊厳を損なう広告」に当たるとし、同社に対して100万元(約1,783万円)の罰金刑を言い渡した。

ソニー中国の誤算は、中国のビジネスのタブーを軽視していたことだ。

日本では7月7日というと七夕だが、中国では盧溝橋事件が起きた歴史的に重要な日である。このような「敏感な日」にイベントなどを設定すると、消費者や関係者の反感を買うだけではなく、今回のように当局が介入する騒動に発展しかねない。そうでなくても、中国側の出席者が参加を辞退したり、従業員からボイコットが起きたりと、予期せぬ事態を招く恐れもある。

中国ビジネスで『絶対タブーの6日間』とは?

注意すべき「敏感な日」は、7月7日だけではない。在中日本大使館は『中国滞在中の安全の手引き』の中で、7月7日のほかに、9月3日(抗日戦争勝利記念)、9月18日(柳条湖事件)など、特過去に日本人が関与した歴史的事件が発生した日には、対日感情を巡って注意が必要だと警告している。

中国でビジネスをしているならば絶対に忘れてはならない『タブーの6日』を、以下に挙げる。

(1) 5月4日(五四運動が起きた日)

1919年、パリ講和会議に反発し、日本の二十一ヵ条撤廃を要求した中国の民衆運動が起こった日である。

(2) 7月7日(盧溝橋事件)

1937年、日本・中国の軍事衝突が北京郊外で発生した日だ。日中戦争の発端となった。

(3) 8月15日(投降日・日本の終戦記念日)

1945年、日本が第2次世界大戦の太平洋戦争における降伏を発表した日である。

(4) 9月3日(抗日戦争勝利記念日)

1945年、日本が東京湾の米戦艦ミズーリ号で、連合国と降伏文書に調印した日の翌日で、事実上の対日戦勝記念日だ。

(5) 9月18日(柳条湖事件)

1931年、満州の柳条湖で日本が所有する南満州鉄道の線路が爆破された事件が起こった日である。「満州事変」の発端となった。

(6) 12月13日(南京事件)

1937年、旧日本軍が中華民国国民政府の首都だった南京を占領し、捕虜や市民を虐殺した日だ。

他にも、6月4日(天安門事件)や7月1日(中国共産党成立日)、9月29日(日中国交正常化成立日)などの歴史的な日、さらに春節や国慶節などの大型連休などが「敏感な日」と見なされる場合もある。

「郷に入っては郷に従え」はビジネスの基本

「郷に入っては郷に従え」という言葉がある。2020年の時点で約1万3,600社の日本企業が中国に進出しているが、事業規模や産業に関わらず、「郷」のしきたりや常識を把握しておくのはビジネスの基本中の基本である。

上海でビジネスを運営するある日本男性は、「6月4日、7月7日、9月18日、12月13日の4日間の前後1週間は、必ずあらゆる宣伝やイベントを避ける」という。よく知られたことであったにもかかわらず、ソニー中国が「敏感な日」をしらなかったと考えるのは不自然だろう。その真意は定かではないが、消費者の反日感情をあおる結果となったのは確かである。

折しも中国では、再び反日感情が高まりつつあるという。拓殖大学海外事情研究所の富坂聰教授は、開業後わずか1週間で休業に追い込まれた「京都再現プロジェクト(盛唐・小京都)」を例に挙げる。

1,000億円以上を投資し、中国東北部・大連市の郊外に京都の町並みを再現したものだった。新たな観光地として1日に10万人が訪れる盛り上がりをみせる一方で、「大連は日本がかつて占領していた街」「これは文化の侵略で戦争の侵略よりももっと恐ろしい」といった批判が殺到した。その結果、地元政府が全店舗の一時休業を要請した。

10月上旬には名称から「京都」を外し、「唐の時代の東都・洛陽を再現した街並み」として再開したが、反日感情が再び炎上すれば再休業に追い込まれるリスクは否めない。

念入りな情報収集で予期せぬリスクを回避

「過去の侵略の歴史と現代の商業活動は区別して考えるべき」との客観的な意見もあるものの、日本による侵略の歴史を想起させる出来事に関しては、今なお根強い反日感情が噴きだす。中国に進出している日本企業は予期せぬリスクを背負い込まないためにも、さまざまなネットワークを介して情報を収集し、かつ対応策を講じることが求められる。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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