インタビュー|森田浩史(SQA日本代理店 株式会社ジャフコ取締役)
女性の不妊治療や検査はブライダルチェック等も一般的になってきてはいますが、日本では男性の不妊治療や検査は、まだそこまだ浸透していないのが現状です。
また不妊原因の約半数が男性不妊にも関わらず、精液検査は顕微鏡で特殊なマスを設定した計算盤を覗き、動いている精子がマスの中にどのぐらいいるのかを目視する、未だに昔ながらのアナログ寄りの手法に頼っているクリニックが多いのが現状です。
精液検査結果は男性の健康状態や精神状態に左右されやすく、精子が製造されるのに約80日かかる為、禁欲の日数以外にストレスなどもダイレクトに影響します。1回目で精子が不妊に影響していると言う結果が出たのにも関わらず、2回目では問題がないと言うケースも珍しくありません。その上に目視の検査では、検査する人によっても誤差が生まれる事も指摘されています。
北海道の4分の1程度の大きさしかないイスラエルですが、実はスタートアップ以外にも医療機器や美容機器の会社が多く、日本にも輸入されています。
そんなイスラエルで開発された精子特性分析機「SQAシリーズ」は、わずか75秒で精子の運動能力の判定・男性不妊治療効果の確認が、簡単かつ短時間で検査ができるとして話題を呼んでいます。この斬新な機械の日本総代理店を務める森田氏に、今回インタビューに答えて頂きました。
―――まずJAFFCOが日本で精子分析機械の取り扱いを初めたきっかけを教えてください。
飛行機が趣味の初代社長である私の父が、30年前海外で飛行機の免許を取る際に、この機械を開発した医師と知り合いになったことがきっかけです。
30年ほど前の日本は、今ほど不妊治療や少子化が問題視されていませんでした。しかし出生率は減少傾向にあり、既にアメリカやオーストラリア、イギリスなどの先進諸国では不妊治療が注目され始めていたため、日本でも必ず同じ問題が起きると考え、数年かけて厚生労働省等の医療機器製造販売業許可を取りました。
WHOは今もなお顕微鏡を使って、目視で数えることを推奨していますが、動いている精子を数えるということは、分かりやすく例えるなら金魚鉢の中で動いている無数の金魚を数えるのと同じぐらい難しい作業です。近年、精子の数は精液1ml中に5千万前後が一般的で、多いと2億くらいになるのですが、数が膨大なため、検査技師によって誤差が出やすくなってしまいます。
元々、精子分析機は高価なうえに、専門知識や経験が無いと扱えなかった為、一般のクリニックにはあまり浸透しませんでした。
SQAシリーズは、200万円弱からラインナップされており、民間の病院でも利用できる価格帯の為、不妊治療専門クリニックだけでなく、検査だけでもしたいというクリニックも含め、現在は国内約400施設、海外では4000施設以上で使用されています。
―――他の機械とSQAの具体的な違いと利点を教えてください。
SQAでは、受精に影響を与えると考えられている特定の速さ以上で直進運動をしている精子の数を機械でカウントすることが出来ます。
SQAの利点としては他にも、優秀な技師が単純作業に割かれる時間を短縮し、他の有意義な作業(受精等)に使う時間を増やす事が出来ます。
弊社の機械が広まったきっかけは、腕の良い技師とSQAの機械の検査結果にあまり誤差が無い上に、精子の運動の質まで確認できる事が判明し、生殖医療にかかわる医師達が論文を出し始めたのが決め手となりました。
SMI:Sperm Motility Index(精子自動精子数)は、精子の数だけではなく、運動性やスピードも考慮した指数になるため、より正確に患者様本来の精子力を確認することが出来ます。
例えば、禁欲期間が長いと、死んでいる精子が多く含まれてしまうため、全体の数は増えても運動率が下がる傾向にあります。そこで、検査結果では精子の全体数よりも、高速直進運動をしている精子の数がなによりも大切な数値になります。1秒間に20マイクロメートル以上の速さで直進運動している精子の数を計るというパラメーター「PMSC(a):高速直進運動精子濃度」が、精子の質を判断するのに一番簡単で正確な数値だと私達は思っております。
先体反応(acrosome reaction)やDNA断片化(DNA Fragmentation) など、費用と時間をかける専門的な検査はその次のステップです。
―――検査結果が75秒で出るとの事ですが、これは世界最速でしょうか?
はい、現在発売されている機械では世界最速だと思います。
―――自宅で精子の検査が可能なYO精子テストキット等も取り扱っていらっしゃいますが、こちらは日本の代理店でも購入可能なのでしょうか?
はい、弊社が総代理店になっています。他社でもいくつか自宅で精子検査が出来るキットが発売されていますが、医療用精子検査機器メーカーで家庭用検査キットを販売しているのは弊社のみです。
SQAを製造するMES社が自宅で検査出来るキットを開発したきっかけは、顧客でもある医師から精子検査は男性にとってはセンシティブな問題であり、不妊治療に積極的ではない男性が多い為、まずは第一ステップとして、自分だけでこっそり結果が見られるキットの開発を相談されたのがきっかけでした。
実際に検査してみると、スマホのアタッチメントで精子の動きが見られるので面白いですよ。
精子検査が初めてという方は、1回目は緊張して失敗したり、数値が悪かったりするので、弊社では2回分セットで販売させて頂いております。
最近は日本でもテレビや雑誌で特集が組まれたりして、男性不妊が認知され始めているので、結婚前のブライダルチェックとして購入したり、男性が精子検査に消極的なカップルでは、奥様が購入して検査してもらうケースが多いようです。
―――日本人特有の精子の問題がありましたら教えて下さい。
欧米諸国で起きている問題と日本で起きてる問題は同じです。
日本でも男性不妊の検査や治療はあまり進んでいませんが欧米でも日本でも、10年前と比べて精子数が半減しているという発表もあります。
―――この機械の検査結果は、実際どの様に不妊治療へと影響するのでしょうか?
まず、従来は妊娠に対して男性の年齢は関係ないと言われていましたが、最近の発表では男性も加齢と共に数や運動性が劣化していくとの結果が出ています。しかしテレビの報道等で、高齢で子供を作る芸能人のニュースを見て、劣化していても大丈夫だと思っている男性が多く、そういった男性に対して理論的に説明をする検査結果にもなっています。
不妊の原因の半分は男性側にあるので、早い段階で客観的に精子の質が分かることで、治療方法の選択肢が増えることになります。
SQAはアメリカの精子バンクでも使用されていますが、日本では精子バンクは認められていません。
男性側に完全な問題があった場合、早い段階でアメリカの精子バンクを選択するカップルが日本でも出てきています。
―――なぜイスラエルは医療機器を販売しているメーカーが多いのでしょうか?
SQAの基本原理を開発した医師は、カルフォルニア大学で精子の研究をしていたユダヤ人医師です。
色々な医療機械がイスラエル製として発売されていますが、多くは欧米の大学で研究をしているユダヤ人の研究者が開発したものを、イスラエルのベンチャーキャピタルなどがサポートしてイスラエルで商品化する事が多いからだと思います。
―――イスラエルをよく訪れているとのことですが、おすすめを教えて下さい。
イスラエルの料理は、日本人の口にも良く合う野菜を中心とした料理が多く、チーズやヨーグルト、ジェラート、フルーツなども美味しいので、グルメな方はイスラエルのローカルフードを是非楽しんでほしいです。私自身はイスラエルのフムスが大好きです。
お薦めしたい場所は、一般的なエルサレムや死海はきっと情報も多く必ず訪れると思うので、カエザリアやマサダなども訪れて、2千年前の技術力や歴史にも眼を向けて欲しいと思います。
今回気さくにわかりやすく、様々な男性不妊の専門知識を説明してくれた森田氏。
奥の深い精子の世界ですが、まずは気軽に自宅で検査できるキットで自身の精子を確認してみるのも面白いかもしれません。
株式会社ジャフコ
http://www.jaffcoltd.com/
メーカーウェブサイト(English)
https://mes-global.com/
家庭用精子計測キットYO
http://yospermtest.jp/