長年にわたり、NHKは受信料の未納世帯からの徴収に力を入れてきた。NHKにとっては、本来受け取れる受信料の未納分は「損失」とも言え、何とか未納率を下げようとしている。そこで最近、NHKが打開策として取り組み始めたのが「宛名なし郵便」だ
そもそも「NHKの受信料問題」とはどんなもの?
NHKが取り組み始めた「宛名なし郵便」について触れる前に、NHKの受信料問題について簡単に振り返っておこう。
NHKの受信料については「放送法」で定められている。自宅にテレビなどの受信設備を設置している世帯や企業は、NHKと受信契約を結ぶ必要があるという内容だ。ちなみに、テレビチューナーが内蔵されているパソコンや、ワンセグ機能を有している携帯電話やスマートフォンを所有している場合も、NHKと受信契約を結ぶ必要がある。
ただし、NHKの2020年度の決算によれば、受信料の支払率は80.3%にとどまっており、2005年度以来、前年度比で初めての低下となっている。付け加えると、2020年度の受信料収入は6,895億円で、仮に受信料が100%の場合、受信料収入は8,000億円を超える規模となる。
しかし、NHKの受信料については疑問の声や批判もある。例えば、「NHKを見ないのに受信料を支払わなければならないのか」といった声や「玄関で脅迫されるように契約を迫られる」といった内容だ。
このような状況の中、2019年7月の参議院議員選挙で「NHKから国民を守る党」の代表が当選するなど、最近ではNHKに対する逆風が強まっている印象を受ける。
NHKが「宛名なし郵便」という新たな取り組み
このように、NHKの受信料についてはさまざまな意見があるが、だからと言ってNHKが支払率の向上に向けた取り組みを緩めているわけではない。逆に最近では、奇策とも言える新たな取り組みを始めた。それが冒頭で触れた「宛名なし郵便」だ。
この宛名なし郵便の正式名称は「特別あて所配達郵便」で、日本郵便が2021年5月に試行を発表したものだ。NHK側はその後すぐ、この特別あて所配達郵便を利用する意向を示し、すでに9月から一部地域で利用・送付をスタートしている。
特別あて所配達郵便について日本郵便は「事前にご利用のお申し出をいただいた上、受取人の住所または居所が記載され、かつ、受取人の氏名が記載されていない郵便物をその住所または居所にお届けする新たな特殊取扱」と説明している。
つまり簡単に言うと、事前に申し込みさえすれば、宛名なしでも郵便物を特定の住所に届けることができるというものだ。これはNHKにとって都合がいい。受信契約がない住居に住む住民の名前を把握していなくても、受信契約に関するお知らせを送付することができるからだ。
加算料金制の「特別あて所配達郵便」、費用対効果を検証
この特別あて所配達郵便を利用すると、これまでの料金に加えて200円がかかる。例えば、1通の定形郵便物(25g以内)において特別あて所配達郵便を利用する場合、定形郵便物(25g以内)分の84円に加えて200円がかかるため、郵便料金は284円となる。
一見、このような加算料金制はNHKにとってはマイナスだと感じるかもしれないが、担当者が戸別訪問によって契約を促す現在の方法と比べると、はるかにコストが低くなる可能性が高いと、NHK側は踏んでいるようだ。
現在はあくまで試行段階であるため、今後も特別あて所配達郵便が利用され続けるかは分からないが、日本郵便がこの仕組みを続け、NHK側は費用対効果が高いことを確認できれば、宛名なし郵便での契約の催促は今後基本となっていくかもしれない。
日本郵便はこの特別あて所配達郵便について、試行期間を2021年6月21日から2022年6月20日までとしている。
総務省と日本郵便が事前接触?既定路線の可能性も
日本郵便が新たに試行を始めた特別あて所配達郵便をNHKが利用することに関しては、既定路線だったという報道もある。すなわち、NHKが受信契約に困っていたため、日本郵便がこのような制度を作ったという見方だ。
NHKを所管する総務省と日本郵便との間で事前のやり取りがあったのか、あったとすればどのような内容だったのか、といった点について確かなことは言えないが、少なくとも両者にとってこの仕組みがWin-Winであることは間違いない。日本郵便も売上増につながるからだ。
いずれにせよ、現在は試行段階だ。今後、NHKの宛名なし郵便がどのような展開を見せるのか、注目したい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)